なぜ拘置所は特定の商店だけを“差し入れ屋”に指定するのか 法務省と拘置所の見解、そして差し入れ代行業者が語る「利用者の実態」(後編)(2/2 ページ)
差し入れ代行業者「差し入れはしたいけど、自分の名前は出したくない人は一定数いる」
――差し入れ代行とはどんな仕事なんでしょうか
A氏:差し入れをする際には必ず「誰から誰へ」の差し入れなのかを留置場や拘置所側に伝えなければなりません。しかし「差し入れはしたいけど、自分の名前は出したくない」という人が一定数いるので、そういった方に代わって、差し入れを行う仕事です。
――なぜ自分の名前を出したくないのですか
A氏:人によってそれぞれですけれども、中にはオレオレ詐欺で逮捕された人に、詐欺グループの仲間が差し入れをしたいというようなケースもありました。そういう場合はもしも本名で差し入れてしまうと、自分も芋づる式に逮捕されてしまうので代行を利用するんですね。
――なぜ差し入れ代行業を始めたのですか
A氏:うちの会社の中に塀の中に詳しい者がいたことがきっかけです。私はもともと悪役専門の芸能プロダクションと示談屋を経営していまして、社員の中には元暴走族や、元孤児、元暴力団関係者という者もいます。そうしたネットワークを使って差し入れ代行業を始めました。
――具体的にはどんなものを差し入れるんですか
A氏:逮捕されてすぐは拘置所ではなく、留置場に入ります。その時に一番困るのは下着なので、下着や石けんなど最低限必要なものをセットにした「肌着セット(2万円)」が一番人気です。これさえあれば中でも取りあえずは生活できますし、拘置所にもこれらは持っていけますから。
――どんな差し入れが人気なのでしょうか
A氏:ぶっちゃけるとエロ本などは人気があります。とはいえ、わいせつなどで捕まった人には届かなかったり、人や施設によって入る(審査が通る)もの、入らないものがあるので、一概に「これは絶対に人気です」とはいえません。
――施設によってそんなに差があるんですか
A氏:例えば留置場に本を差し入れるとしても、A警察では2冊まで、B警察は5冊までなどかなり細かい違いが結構ありますね。そうした経緯もあるので、まずは現金を差し入れてあげるのが良いと思います。中に入っている本人が自分で注文するのが確実ですから。
――拘置所ではちり紙が人気と聞いたことがあるのですが
A氏:拘置所のなかにはトイレットぺーパーがなく、決められた量のちり紙が配布されます。それでは足りないとか、質感が悪いという理由から差し入れ屋経由で購買はできますが、値段が高いのでそこまで人気はありません。中(拘置所・留置場)で買うものはなんでも高いんですよね。例えばボールペンなんかは今どき100円ショップでも売ってますけど、中では200~230円なんてこともあります。値下げしなくても売れるから定価そのまんまというか。だからうちでは、「肌着セット」のように独自に販売しているものだけでなく、親族の方などが用意した物品を差し入れるサービスも代行しています。
――どのようなサービスですか
A氏:例えばAさんがBさんにタオルを差し入れてあげたいという場合、タオルを送ってきてもらえればうちの社員Cの名前で差し入れます。このサービスの場合は160サイズまで3000円で請け負っていますので、サイズ内であれば好きなものを詰めて送っていただければ大丈夫です。ただ食品やシャンプーなどの液体など、施設が禁止しているものは送ってきていただいても入らない(受け付けてもらえない)ので、まずは業者に何を差し入れたいのか相談するのが良いと思います。
普段あまり知ることのない差し入れの世界と、それを取り巻くさまざまな人々。今日も差し入れ屋はひっそりと刑事収容施設にいる人たちの暮らしを支えています。
(Kikka)
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