まるで御朱印帳 全国郵便局のご当地印を集める「風景印帳」が旅を楽しくしそう:司書メイドの同人誌レビューノート
『生き物好きのための風景印入門』『ムッシュ・パクボーと助手マリアンヌの風景印博物館』の2冊をご紹介。
近頃、私設図書館のまわりは雨が多くて、すっかり涼しくなりました。夏の休暇を終えて、そろそろいつもの生活に戻ってこられた方も多いのでしょうか。季節の思い出を添える残暑見舞いのような、ステキな同人誌をレビューします。
今回紹介する同人誌
『生き物好きのための風景印入門』 A5 12ページ 表紙・本文モノクロ
『ムッシュ・パクボーと助手マリアンヌの風景印博物館』 190mm×138mm 28ページ 表紙・本文モノクロ
著者:エハガキ華
風景印ってなに? 郵便局でかわいいスタンプと出会おう
風景印とは、郵便局で押してもらえる、図柄のついた消印です。全国の郵便局で採用されているとのこと。日本郵便のWebサイトでも情報が掲載されています。
図柄の題材は、その郵便局の土地柄にちなんでいるのですが、郷土品から名物までとっても多彩。そのなかでも、生き物にスポットを当てたのが『生き物好きのための風景印入門』です。日本全国のたくさんの風景印の中から、特に作者さんがおすすめする風景印を鳥類、昆虫、海の生き物、絶滅した生き物などに分類したうえ、紹介されています。えりも岬郵便局のゼニガタアザラシは目がうるうるしてます! 福島県久ノ浜郵便局のフタバスズキリュウは、湾の上を飛んでいるような、悠久を感じさせるデザイン。長崎の大瀬戸郵便局のマダコとひげのおじさま、そしてかんきつ類という名物を詰め込んだに違いない脈絡のないコラボに胸がなぜかざわめき……。全国津々浦々、こんなに面白いスタンプが潜んでいたのですね!
このかわいくて魅力的な風景印、ハガキの料金と同じ62円の切手を貼れば、自分のノートなど、郵便物以外に押してもらうことも可能なんですって。
切手と組み合わせれば、可能性は無限大! オリジナルの「風景印帳」が完成!
そこでご覧いただきたいのは『ムッシュ・パクボーと助手マリアンヌの風景印博物館』です。こちらは『生き物好きのための風景印入門』と同じ著者の方が作られた、風景印帳……、そう、風景印をスタンプして集めるためのノートです。くっ……この発想だけでわくわくします! しかもこのノート風のご本は、ステキなストーリーも一緒に楽しめてしまうんです。
本の冒頭には短い物語が添えられています。舞台は“風景印博物館”なんですって。オープン間近ですが、実はまだ展示品に足りないところがあるみたい。館長に依頼され、風景印を求めて旅へと出発! と物語がはじまります。
そしてページをめくると、まるで絵本のような美しさ。昆虫、海の生き物などとテーマ別にページが分けられ、それぞれ繊細なイラストがページを飾っています。よく見ると、紙がほのかに透けているのが分かるでしょうか。薄くて軽い紙なので、インクが透けて、擦りガラスの向こうをのぞくような美しさを感じます。あ、このイラストのところどころに枠が示してありますね。ははあ、ここに切手を貼って、風景印を押してもらうのですね。
まずはどこの郵便局のどんな風景印にしようかな? という迷う楽しみが。そして風景印と調和する切手のコーディネートもしたい! こうやって、風景印を集めていくことで、風景印帳としても、物語としても完成するという心憎い作りです。
御朱印帳みたい? 各地を巡りたくなる楽しさがある
『ムッシュ・パクボーと助手マリアンヌの風景印博物館』は装丁も美しくて、灰色の表紙にニス盛りをしたような艶(つや)やかな淡い緑のインクが、やわらかくも繊細な雰囲気です。それをぱっとひらくと、本編は鮮やかなインクに彩られています。そしてここに、鳶色のスタンプが押されると思うと、ますます画面は華やかになりそうです。こんなにステキなデザイン、装丁だと、自分がうかつに手を加えてこの雰囲気を壊しちゃいそう……と心配になりかけましたが。でも、自分は切手を選んで、風景印を押してもらうだけ! なんですよね。自分の絵や字の上手下手は全く関係ありません。完成されたデザインの組合せを楽しむだけ。それなのにステキな風景印帳が完成していくなんて、うれしいです。
目的地を調べ訪ねて、朱のしるしをもらうのは、神社巡りの御朱印帳のようですね。夏休みが終わっても「今度はどこに行こうかな?」と巡る楽しさがありそうです。
サークル情報
サークル名:エハガキ華
次のイベント参加予定:Otegamiフリマ2017 AUTUMNコレクション 切手の博物館(東京都目白 8月26日)
エハガキ華とモリヒサケイコの郵便アソビ展 North Lake Cafe & Books(千葉県我孫子市 9月6日~10月9日)
Twitter:@ehagaki_hana
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
関連記事
ガーターベルトに仕込みメガネ メガネフリークしか出てこない1ページまんが「めがねのね~眼鏡の音~」が狂気の沙汰
「委員長の眼鏡ふきを煎じて飲んで、心を落ち着かせよう」「人工培養肉」を作って食べてみた 理系大学院生が体を張った同人誌にドキドキが止まらない
味付けはクレイジーソルトがおすすめだそうです。税率で変わる2人の関係 お金“異形頭”マンガ「おかねちゃん!」は恋するコインの物語
手袋はめてるのもポイント高いです。マンボウ最弱伝説はウソ? 「着水の衝撃で死ぬ」「朝日が強すぎて死ぬ」などの真偽を研究者が判定
今回はマンボウ研究家が調査結果などをまとめた「マンボウの都市伝説-噂の根源と真偽- ver.3」をご紹介。こんなの待ってた! アメコミの効果音を集めた辞書がマニアックすぎて心くすぐる
今週はサークル「FANDOMAIN」さんの同人誌「アメリカンコミックス効果音辞典 スーパーヒーロー誕生から70年代まで」をご紹介。「取ってしまえばどうということはない」 魚屋さんがまとめた寄生虫データが食卓に安心を届けてくれそう
「魚屋が出会う身近な魚の寄生虫」をご紹介。フルカラーで寄生虫の画像が載っているので、苦手な人は注意。「えっ、名前って誰でも変えられるの?」 改名を経験した著者による同人誌が読み物としても傑作だった
現在、Amazonプライム会員向けに無料配信中。「る」で終わるは序の口? 「しりとりが絶対に強くなる10の方法」でワンランク上の戦いを
今週はサークル「弐人国家」さんの同人誌「しりとりが絶対に強くなる10の方法」をご紹介。ポスドクたちのリアルな声に共感 研究者を応援する同人誌「月刊ポスドク」
付録の「進捗ラムネ」が気になる。萌えと宇宙は無限大? 女子高生×人工衛星の組み合わせにロマンを感じる「衛星研究部」
作者は、実在の人工衛星をかわいく擬人化させた「現代萌衛星図鑑」の二人。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.