インタビュー

「甲子園の土、その後どうしてますか?」 元甲子園球児たちに聞いてみた(1/3 ページ)

あの「奇跡のバックホーム」の走者だった方にもお話を伺いました。

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 野球少年たちの夢舞台、甲子園。そして敗退した彼らが大勢のカメラマンのフラッシュを浴びながら集めるのが“甲子園の土”です。

 そんなシーンこそクローズアップされるものの、その後、土がどうなったかにはほとんど触れられません。

甲子園の土
高校野球ファンの羨望を集める甲子園と、それを形作る「土」

 多くの出場者にとって甲子園は、野球人生いちばんの晴れ舞台。そんな彼らの勲章であり、汗の結晶である「甲子園の土」はいま、どうなっているのでしょうか? 実際に、たくさんの元甲子園球児の方たちに聞きました。

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 「甲子園の土、その後どうしてますか?」

「強豪ではなかった高校のグラウンドへまきました。そこからプロ選手が出て……」

 埼玉の強豪県立高校出身の鈴木さん(仮名)、58歳。高2の夏にチームが甲子園へ出場。ベンチ入りメンバーからはギリギリで漏れてしまったそうですが、選手たちの練習相手となるバックアップメンバーには入り、チームを勝たせるための役割に徹していたそうです。

 そこで気心の知れた3年生のレギュラー選手に、こっそり「自分の分もください」と伝えており、何とか土をもらえたそう。

 しかし、気前の良い鈴木さんは、甲子園へ行けなかった知り合いや後輩たち、さらには野球少年たちへ次々とあげてしまい、40歳になる前に土はなくなってしまったとか。

 その気前の良さが特に現れたのは、知り合いがいる別の高校のセレモニーに、土を使わせてあげたときのこと。最後の夏大会への出陣式として「この土をみんなで取りに行こう」とグラウンドへまくのに使われました。

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 そこまで強くない高校であったものの、エースピッチャーはそこから周りが驚くほどの大出世をしました。甲子園の舞台には立てなかったものの、社会人野球を経て、西武ライオンズへ入団し、1軍でも活躍したそうです。

甲子園の土
強豪校ではない高校から、西武一軍で活躍したピッチャーが出た

 「プロになった彼の脳裏に、ほんの少しでもあの土があったとしたら……それはとてもうれしいですね」

 いま鈴木さんは、埼玉県の小川町高見にある「高見屋」でうどんを打っています。

「2年生は土を拾うな!」の言いつけを破って持ち帰り、今は「ワイングラスの中」

 五所川原農林高校野球部で1970年夏大会に2年生で出場した奈良義一さん。守備に定評のある7番ショートでした。初戦で岐阜短大付属高校に0-4で負け、夏は終わりました。

 実は監督から「まだ2年生なんだから、土を拾うな!」と言われていましたが、言いつけを破って何とか土を持ち帰ったそうです。翌年の最後の夏は、青森県の代表決定戦で弘前高校と対戦し、敗れて甲子園出場はならなかったそうですから、土を持ち帰れたことは、今となっては良かったのかも知れません。

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甲子園の土

 土はやはり、中学校や小学校のときの野球部など、色んな人に配ったとか。小学校で野球を教わった先生のもとにも持っていき、先生はとても喜んでいたそう。

 「甲子園の土はすごくやわらかくて、スパイクが沈んで埋まるほど。砂に近かった」

 それは今、ワイングラスに入って食器棚に飾られています。

ラッパーになった甲子園球児。「MVの中で母校のグラウンドに土をまきました」

 2016年、山梨学院高校から夏大会へ出場した椙浦(すぎうら)光さん。副主将として挑んだ夏大会前に左手親指を骨折し、レギュラー落ち。そのケガの影響を引きずりながらも甲子園では代打出場し、悔しい見逃し三振で夢の舞台を去りました。

 たくさん持ち帰った土を、家族や親戚、同級生、先生、先輩・後輩たち、さらに小学生時に所属したチームの後輩たち全員に配ったそうです。

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 土は現在、実家のテレビの上に置いているとか。「そこが一番目にとどまるところですから。甲子園の記憶が薄れないように、そうしました」その土を見て、当時を想うこともあるそうです。

甲子園の土
MV中で母校のグラウンドに土をまくシーン

 今では「H-PICE(@h_pice0421)」の名で、以前から憧れていたラッパーとしてデビュー。当時の記憶をよみがえらせて作った「約束の場所」は、高校球児への応援歌。一瞬に全てをささげた若者だからこそ書ける、汗にまみれたような力強いフレーズであふれており、MVの中で、母校(中学校)のグラウンドに実際に甲子園の土をまくシーンも。

 その曲で彼の紡ぎ出すフレーズ、特に「2016年8月 バットは出なかったあの悔しい思いは今ここに」という言葉は、ほんの一瞬でも甲子園を目指した元野球少年の心を打ちます。

「奇跡のバックホーム」でまさかのアウトに。「土は、スパイク袋に入れたまま……」

 1996年夏大会決勝。犠牲フライには十分な打球がライトへ上がり、三塁走者の熊本工業・星子選手はタッチアップ。あとは50メートル5秒台の俊足でホームを目指すだけでした。しかし、松山商業ライト矢野選手の返球が、浜風に乗り加速。これ以上ない最高の返球がどストライクで返り、まさかのタッチアウト。これが甲子園史上に残る「奇跡のバックホーム」でした。

 その後、熊本工業は11回に勝ち越され、敗退。そんな悲劇のヒーローとなった星子さんは、現在熊本でその名も「たっちあっぷ」というバーを開いています。

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ライトから異次元の返球が返ってきた(写真はイメージです)
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