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「シャーロック・ホームズ」挿絵に秘められた暗号 キリスト教モチーフから読み解くホームズの「神秘の妻」とは(3/3 ページ)

「ホームズ」全作品を翻訳・無料公開したサイト、「コンプリート・シャーロック・ホームズ」管理人によるコラム第1弾。

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ドイルとバジェットの幸福な出会い

 このように、シドニー・パジェットは宗教画の荘厳さを感じさせる挿絵を描き、物語にクラシックな風格を与えています。もし挿絵が、最初のホームズ作品「緋色の研究」に掲載されていてたようなレベルの低い線画だったらと想像してみてください(実際「緋色の研究」はあまり売れませんでした)。誌面のクオリティーがまったく違ったはずです。

「緋色の研究」の挿絵。コナン・ドイルの父、チャールズ・ドイル画。手前に座っているヒゲのある人物がシャーロック・ホームズのようだ

 実は絵のレベルが高いのは当然で、シドニー・パジェットは、ヘザリー美術学校からロイヤル・アカデミー・オブ・アーツという、画家のエリート・コース出身でした。さまざまな賞を獲得した、正真正銘の「ファインアート」を描ける実力を持った画家だったのです。

シドニー・パジェットが描いた「コナン・ドイル」の肖像画。ホーリー・トリニティ教会のシェークスピア像に似たポーズに「盛って」あるのは、芸がこまかい

 コナン・ドイルは「ストランド・マガジン」1891年7月号に掲載された挿絵入りの「ボヘミアの醜聞」を見た直後の7月9日、編集長に次のような手紙を書いています。

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「私の『シャーロック・ホームズ』に挿絵を描いた画家と会う機会があれば、彼の挿絵にどれほど感謝しているか伝えていただければさいわいです。今後、私の作品に彼が描けない事態にならないよう、まとまった期間を予約しておいていただけないでしょうか」

『The Adventures of Sherlock Holmes (Oxford World's Classics)』より

 小説の原稿を読んでから月刊誌の締め切りまでのあいだに、これほど複雑な象徴を込め、挿絵を描き上げたことは驚異的というほかありません。歴史に「もし」はありませんが、シドニー・パジェットの挿絵がなかったら、コナン・ドイル、そしてシャーロック・ホームズの運命はかなり変わっていたことでしょう。シドニー・バジェットの教養とひらめきが、シャーロック・ホームズの誌面をさんぜんと輝かせているのです。

(寺本あきら)

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