インタビュー

ハリウッド監督・紀里谷和明2万字インタビュー×東大作家・鏡征爾:禁断の解禁 ここにあなたの悩みをひもとく全てがある<前編>(3/3 ページ)

インタビューは、映画「ラスト・ナイツ」の日本公開直後、2015年に行われた。

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VI NY時代の第三者認証

鏡:紀里谷監督はニューヨークでの新人時代に15ページのぶち抜きの企画の依頼を受けた。監督は新人だから売れるものをつくるために売れているものを研究した。流行に寄せることもやった。当時は、いま売れているものをつくらなければいけないと思っていた。

紀里谷:それやってた。俺。

鏡:でもそのとき当時の編集者に、「いや、あんたがつくりたいものをつくるべきだ」といわれて、衝撃を受けた。

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紀里谷:第三者認証があって、それが必要だとされる。もちろんそう。ビジネス。お客さんが入ってもらわないと困ってしまう。ものすごいお金を使ってやっているわけだから。ね。それをやってます。では、それに従って、第三者認証を第一義として考えてやると仮定する。だが先ほども触れたようにそれが100パーセント売れることなんてないわけだよ。確率論の問題でもあるんだけどさ。

 でも、それはありつつも、やはり自分が信じてるもの、よいというものを提案しない限り、ではなぜその仕事をしてるのかという話になるわけだ。

 お金だったら、他にもっと効率のいい仕事なんていっぱいある。それこそ統計学でいえば、デイトレードなんかの方が確率的にはもっといいと思うし、いろいろな確率的に上等な金儲(もう)けの手段なんかいっぱいあるわけ。

 だからなぜそれをやっていないのか、というところだよね。まずは。すごく、すごく多くの人たちが考えなければいけないことは。

 そのために自分は生きているんだという認識があれば、それができないとなれば死んでもいいという話になる。それだけの話だよ。

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須田:監督にとって、それは何なのですか?

紀里谷:映画をつくることだよ。いや、映画じゃない。映画というのは形の話だから。

 俺は大勢の人と仕事をするのが好きなんだ。世界中の人たちと一緒に何かをつくりたい。形は何でもいいんだよ。映画でも何でもさ。それを世界中の人たちにお届けしたい。そして願わくば同じように感じとって頂きたい。何だってそうだろ。iPhoneだってそうだろう?

 それに喜びを感じている。喜びを感じているということは、生きていて良かったな、と思えるということ。俺はそう思う。

須田:ではその絶対的に自分がやりたいことって、まあ紀里谷監督はお持ちですけど、みんなが思ってるわけじゃないと思うんですね。

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紀里谷:それは別にいいじゃん。僕は否定しないし。

須田:じゃあ、もしそれを持ちたいと思ったときに、どういう風に紀里谷監督はそれを持てたのか。

紀里谷:正直になることだよ。そのためには恐怖からどんどん離れていくということをしなければならない。だから「正直に生きてますか?」ということだよ。自分に対して。正直に。

 やはり頭脳というものがうそをつくから。これは「心」というと愚鈍な議論になるけれど、魂でも何でもいい。衝動といおうか、それを。

 その衝動というものは、極めて本能的なものなんだ。だが現代社会というものは、それをないがしろにしようとする。それを否定しようとする。うん。それはそれでいいでしょう。なぜならそこには暴力も含まれていくから。しかしながらその暴力を正直に制御するために、頭脳というものが存在する。

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 理性と言い換えてもいいよ。理性とそれを可能にする部分、極めてロジカルな部分だよ。ではどちらが道具なのか?

 もちろんツールは頭脳の方だ。ただそのツールの方に、我々はあまりに奴隷になっている。わかる? いってること。

須田:はい。理性でこうすべきだってことを考えて、やりたいことを無視しちゃってる。

紀里谷:そう。やりたいことというのは、つまり衝動のことだよ。だがその衝動を無視し始めたら、結局「じゃあ何で生きてるんですか」って話に行きかねない。

 ここにはレベルが2つあると思う。まずは生存するという第1レベル。こちらは単純な話で「生きていく」「ものを食べる」「死なない」そんな生存するための最低限のラインだよ。だがそこから、それ以上の領域が始まる。僕はそもそもここの領域は絶対に必要だと思ってる派なのね。

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須田:それは、生存の方?

紀里谷:そう。よくみんな、そういうことを言うと「それじゃ食ってけないじゃないですか」とか言うだろう? 食うためにやりますとか。でも果たしてこの国においてその次元を下回るようなことが起き得るのかということから、考えて頂きたい。

鏡:ホームレスでも食えると。

紀里谷:うん。食える(笑)

鏡:食えますよね(笑)

VII 原始的な感情、子ども時代のコンプレックス

紀里谷:そこをまず肯定した上で、ではその領域から上の領域に我々はいると仮定した場合、生まれてから死ぬまでの時間に、何をするのか。機械的にそのまま生存していくというのも全然OK。俺はまったく否定しないよ。でも自分は?

 俺はそのなかで喜びというものを見つけたい。感じたい。感じたいんですよ、僕は。

 ただ、それは俺一人の考え方。そういうものが必要ないという人たちもいます。それもそれでよいでしょう。ただそれだけの話。しかしそこを明快にしないと、混乱したまま、自分は食ってくためにこれをやるんだといいながら、天下りしたりとかありとあらゆることをするんだよ。「違うじゃん」と。

 じゃあわかった「天下りしましょう」と。でも「天下りして何をしようとしているのか?」という話じゃない。

 そもそも大会社にいるわけだからお金はある。最低レベルの食うための金はクリアしている。じゃあなぜそれをやっているのか、という話。まず考えなければいけないのは。

 まず根拠のない不安だよ。それは何なのかというと、一文無しになってしまう。そのレベルから下がってしまう。そうなるかもしれないという不安。あとはもう単純な話だよ。自分が認識されたいとか。例えばうまい飯くいたいとか。いい女とセックスしたいとか。いろいろあると思うんだよ。でも所詮(しょせん)そんなもんだよ。そして所詮そういったものも、そもそも本能という名の衝動に根ざした行動原理じゃない。そこまでロジカルにやっている奴でも、そもそも……

鏡:結局、原始的な感情。

紀里谷:そう。結局全ては原始的なんだよ。極めてロジカルにデイトレードして、IPOして、上場して、お金いっぱい稼いで、徹底的にロジカルにやって。でも金持ちのやつなんていっぱい知ってるけど、何に使ってるかっていうと、女に使ってるか……(一同爆笑)

紀里谷:デカい家に住んでると女が寄ってくるかもしれない。いい車に乗ってると女にモテるかもしれない。いい服を着てると女にモテるかもしれない。

 結局そんなもんだよ。極めて原始的なこと。異性にアピールしたいという、原始的なことなんだよ。

須田:はい。

紀里谷:そこがまったく語られないまま、そのロジカルな部分だけがクローズアップされて、この国では年収何千万だとかやっている。「でもそもそもそんなもんでしょ?」

 俺にはそんな風に思えてしまう。徹底的に考えるとね。だから僕(紀里谷監督は自身の内面を見つめるときに人称(の呼称)が変わるように思える)は、感情の部分というか衝動の部分をきっちりと見つめて、向き合って、そうやってやっていかないと、何をやってるんですかって話になるじゃない?

鏡:紀里谷監督自身がそう思うと。

紀里谷:そう。結局俺は何が欲しいのかと。だから俺はものをつくる。想像して、創造して、表象する。それをたくさんの才能たちと織り上げたい。まあそれは異性も大きいよね。それは誰だって。だってあとどうでもいいもん俺。

鏡:わかります(笑)。おこがましい言い方ですけど。

紀里谷:わかるべきだと思う。それは人それぞれ違っていい。でもその部分をみんなきっちり見つめるべきだと思う。そこから目をそらしすぎだと思う。多くの人たちがそれを見ない。なぜ見ないのか俺にもわからない。

 だけどなぜ、知名度が欲しいのか。なぜ、財力が欲しいのか。ひもといていったら所詮そんなものよ。そしてそれをさらにひもといていくと……人から認められたいという、子どもの頃に植え付けられたコンプレックスだよね。

インタビュー後編へ続く

作者プロフィール

鏡征爾:小説家。東京大学大学院博士課程在籍。

『白の断章』講談社BOX新人賞で初の大賞を受賞。

『少女ドグマ』第2回カクヨム小説コンテスト読者投票1位(ジャンル別)。他『ロデオボーイの憂鬱』(『群像』)など。

― 花無心招蝶蝶無心尋花 花開時蝶来蝶来時花開 ―

最新作―― https://kakuyomu.jp/users/kagamisa/works

Twitter:@kagamisa_yousei

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