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マンガで読み解く、ホームズとワトソンの秘められた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった?(1/2 ページ)

行間に秘められたホームズ像。

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 小説は「書かれていること」だけではなく「書かれていないこと」つまり「行間」を読むことが大切です。しかし残念ながら「行間」は、元の言語(英語)から翻訳されるとき、消えてしまうことが多いのです。

 今回は、シャーロック・ホームズ作品のなかでも屈指の名作「赤毛組合」をとりあげます。物語の始まりが、日本語訳とはまったくちがう場面に感じられる、これまで読んだことのない心理的駆け引きに満ちたホームズの世界をどうぞお楽しみください。

※ただし、小説の読み方は人それぞれですから、独自の解釈が含まれています。

【過去記事】

日本語訳で読む「赤毛組合」の会話

 「赤毛組合」の冒頭部の翻訳を新潮文庫版から引用します。

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去年の秋のある日のこと、訪ねてみるとシャーロック・ホームズは、非常にからだつきのがっしりしたあから顔の、髪の毛の燃えるように赤い年配の紳士と、何事か熱心に対談中であった。うっかりはいってきた不作法をわびて、出てゆこうとすると、ホームズがいきなり私をつかまえて部屋のなかへ引っぱりこみ、ドアをぴたりとしめた。

「シャーロック・ホームズの冒険(新潮文庫)」より(強調は引用者による)

 この訳文を読むと、ワトソンが、ホームズの忙しいところにひょっこり訪れて「これは失礼」と直ちに出て行こうとしたら、ホームズが、すかさず引きとめた、と感じないでしょうか? それなら、ワトソンは礼儀正しく、ホームズは友情にあつい、という場面になります。

ワトソンが「うっかりはいってきた」
慌てて出て行こうとするワトソンを……
ホームズが引き戻して……
あつい友情!

初歩的だが、ワトソン、これはありえないのだ

 しかし、シャーロック・ホームズ級の推理力がなくても、このイメージが間違っていることは、あきらかです。なぜなら現在の日本でさえ、他人の家を訪問する場合、勝手に玄関の扉を開ける人は、まずいないでしょう。まして、ヴィクトリア朝の紳士がそんなことをするはずがありません。つまり、日本語訳は、ありえない場面を描いているのです。

 ワトソンの訪問については、当時の社会常識から行間を読めます。まず、ワトソンは玄関の「呼び鈴」を引いて、訪問を告げたでしょう。

常識人の行動、その1

 すると、ボーイのビリー(またはハドソン夫人)が、ドアを開けてくれますので、ホームズが在宅かをたずねます。

当然ですが、ワトソンはホームズの在宅を確認するでしょう

 常識的に考えて、ビリーはここで、ホームズに先客がいることを伝えるはずです。

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なにが「せっかく」なのか分かりませんが

 つまり、ワトソンは客がいることを知りながら、厚かましく上がり込んだのですから、日本語訳1コマ目のような場面は、根本的に間違っています。原文の "intrusion"(不法侵入)という強い語感の単語を「うっかりはいってきた不作法」と、無理にソフトな訳にするのは、シチュエーションを誤解しているからです。

 では実際はどうなのか、それが原文の「行間」に書いてあるのです。さあ、これから解読していきましょう。

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