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マンガで読み解く、ホームズとワトソンの秘められた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった?(2/2 ページ)

行間に秘められたホームズ像。

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ワトソンはどうやって部屋に入ったか

 当然ですがワトソンは、部屋に入る前に必ずドアをノックしたでしょう。ノックもせずにドアを開けるのは「不作法」どころではなく「非常識」です(この点でも日本語訳には無理があります)。ところが、応答はなかったのでしょう。

ホームズとワトソン、原作行間に秘められていた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった 常識人の行動、その2

 しかし、ワトソンは以前この部屋に住んでいましたし、ホームズの事件に関わりたい誘惑に勝てません。恐る恐る扉を開けて、中に入ったのでしょう。

ホームズとワトソン、原作行間に秘められていた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった むりやり正当化しつつ、ノブを回すワトソン……

 すると「燃えるように赤い髪の紳士」とホームズが熱心に語り合っている場面に出くわします。この依頼人はロンドンで一番を争うほどの赤毛ですから、ベーカー街に来た依頼人の中でもかなり印象的なビジュアルの人物です。

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ホームズとワトソン、原作行間に秘められていた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった 強烈なビジュアルの依頼人

 ワトソンはこの時点で、かなり期待したでしょう。これは、ぜひとも話を聞きたい!

ホームズとワトソン、原作行間に秘められていた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった これは逃せん!(※ワトソンの目の色は記述されていません)

 前回の事件「ボヘミアの醜聞」で、王様がプライベートな用件だからワトソンに席を外して欲しい、と頼んでもホームズは「二人がいやならお引き取りを」と拒否しています。それなら、今回も喜んで事件に加えてもらえるはず……。ところが、予想に反してホームズは知らぬ顔です。

 この状況で、ホームズがワトソンの来訪に気付かないはずはありません。つまり、ホームズはわざとワトソンを無視していたのです。

ホームズとワトソン、原作行間に秘められていた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった 放置プレイ

原作冒頭のシーンは、こうだった!

 ワトソンはかなりの間、戸口で待っていたのでしょう。ついにしびれを切らし「邪魔したな!」と捨てぜりふを残して帰ろうとした瞬間、ホームズは引き止めてドアを閉める。これが原作のオープニングシーンです。行動は同じなのに、動機や背景が日本語訳のイメージとは、全然違いますよね。

ホームズとワトソン、原作行間に秘められていた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった キレて帰ろうとしたワトソンを引き止めるホームズ

 ホームズがワトソンを放置したことは、文章には書いてありません。しかし行間で分かるのです。英語には普通の「過去形」だけでなく「過去の過去」(大過去)という「時制」があります。そして、ワトソンが来訪したのは「大過去」、帰ろうとしたのは「過去形」で表現されています。その効果で、英語読者には「時制が変わるほどの時間経過」がはっきり感じられるのですが、日本語には複数の過去形がありませんから、よほど注意して訳さないと「間」が抜けてしまうのです。

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ホームズとワトソン、原作行間に秘められていた心理戦 「赤毛組合」はツンデレから始まる物語だった シャーロック・ホームズ教授の英文法講義(厳しそう…)

ホームズの cordially(心を込めて)な招待

 ワトソンを連れ戻したホームズは、そこで「こんな絶好のタイミングでよく来たな、マイ・ディア・ワトソン」と声をかけます。散々人を無視した揚げ句のせりふとしてはおかしいですよね。

「絶好のタイミング」だったのなら、無視しないはず
「マイ・ディア・○○」という呼びかけは、元は「親愛なる」という意味ですが、この時代の話言葉では、冷やかし・軽い非難に使われることが多く、このせりふにも「よくもまあ」というニュアンスがあるはずです。

 しかも、その言い方が cordially(心を込めて)と表現されています。cordially は人を招待する場合、"You are cordially invited."(心からご招待します)という決まり文句に使われる単語で、cordially に人を招くなら、食事やお酒がなくても、せめてお茶や茶菓子を出すのが当然でしょう。日本でも「心をこめて」もてなすのに、飲み物も出さないとは考えにくい。訪問した友人を戸口に放置するホームズの態度は cordially とは、程遠いものです。

間違いだらけのイメージ図。ベーカー街で、メイド・ティー・スコーンは出ません。ボーイ・コーヒー・トーストが正解

行間にはツンデレが隠されていた

 このように、ホームズの言動は矛盾していますが、意図はあきらかでしょう。そう、これは「ツンデレ」です。先頭1文は、ホームズがワトソンを無視するという「ツン」で、2文目が愛情表現の「デレ」。「赤毛組合」は「ツンデレ」から始まる物語だったのです。

 英語では「ツンデレ」なのに、日本語で読むと「ツン」抜きの「デレ」のみというのは、もったいないですね。ツンと鼻に抜ける本ワサビの風味を求めている人に、黙って「サビ抜き」を握る寿司店って、不親切ではないでしょうか。日本の「赤毛組合」は、読者の知らないところで刺激を抜かれていたのです。

寺本あきら

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