コラム

手品の種明かしはどこまで許されるのか? Web時代の「ネタバレ」と守られない「アイデアの価値」(2/3 ページ)

古くて新しい、そしておそらくは「終わりのない」問題。

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 また、「テレビなどのマスメディアで種明かしをすることで注目を集め、手品自体に興味をもってもらう」という言い分もあるでしょう。

 ごく最近(2017年9月)、手品人にはよく知られた技法(本人いわく、基本のテクニックをアレンジしたもの)をテレビで解説した手品師がいました。この「アレンジ」は、元になった技法の枠を大きく外れるものではない、とわたしは判断しました。

 この手品師のブログを読むと、私利私欲ではなく、マジックおよびマジシャンに興味をもってもらうためのステップである、という趣旨の発言があって、その気持ち自体は理解できます。

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 しかし、このような言い分で「テレビでの種明かし」をした手品人は、この手品師だけではありませんし、そもそもテレビを含めたさまざまなメディアでの種明かし自体、数多く繰り返されてきました。にもかかわらず、手品という文化がいまだマイナーであり、種明かしに及んだマジシャンの人気があがってはいないということは、そのようなロジックは既に意味をなさないことを意味するのではないでしょうか。

 テレビ番組での種明かしには一定の需要があります。そこに「売れたい」あるいは「メジャーになりたい」という手品師がいれば、「テレビ番組での種明かし」ができあがります。

 しかし、毎度毎度、種明かしをするだけの手品師を、誰が見続けたいと思うでしょうか。刺激のあるものは、最初は受け入れられても、さほど時間をおかずに飽きられるだけです。また、こういう場合の「種明かし」の大半は、他人のアイデアを盗んで、それをさらけ出すだけです。実際に見たことはありませんが、露出狂が他人に裸をさらすときのような不快感を、わたしは覚えます。

 もちろん、「売れたい」「メジャーになりたい」という望みをもっていても、安易な種明かしに手を汚さないプロマジシャンも多くいます。しかし、一人の手品人がマスメディアで種明かしをすれば、「手品は種明かしされるものなのだ」と非手品人に思われかねません。泥水にワインがまじってもワインにはなりませんが、ワインに泥水が一滴でも混じれば、それはもう泥水です。

手品の種明かしはどこまで許されるのか?

 それでもなお、手品の種明かしはどこまで許されるのか? と考えてみましょう。この問いに対する答えは、おそらく手品人によって異なります。最大公約数的な答えですら、導き出すことはできないと思います。ですから、以下は個人的な意見でしかありません。

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 まず、公有化されていない技法や手品の作品、つまり考案者の独占下にあるものについては、考案者が判断するべきです。泡坂妻夫「種明かしのすすめ」(『トリック交響曲』、文春文庫)でも、種明かしにたえうるものは自身の創作によるもののみ、という趣旨の発言があります。

 手品をモチーフとした小説『午前零時のサンドリヨン』では、ある登場人物の演じる手品を、別の登場人物が見破る場面があります。そこではどうしても、種の一端に触れざるをえない描写がされているのですが、その箇所は小説の作者オリジナル手順の手品でした。手品人にも非手品人にも配慮した、見事な表現でした。

 次に、技法については、公有されているいないにかかわらず、手品をしていないひとにこれを解説するべきではないと思います。というのは、ある技法が複数の手品に用いられていて、しかもその手品を演技として形成する基本となっていることが多々あるためです。ある技法を知っていれば、その技法の使われている作品をみると、種が大体分かります。

 最後に、公有化されている手品の作品については、「種明かしが許されるもの」と「種明かしが許されないもの」の線引きが、おぼろげにあるような気がします。この線引きはひとによってかなりばらつきがあると思います。

 わたし個人の感覚としては、

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  • わずかな時間で習得できるような、難易度の低いもの
  • ほかの手品の土台とならないもの(その手品を知ることで、ほかの手品の種を類推できてしまうようなものではないこと)

 といったあたりが、個人的な「種明かしが許されるもの」の線引きになっています。

 ほかの手品人に尋ねてみたところ、「考案者が物故者であれば、なんとなくパブリックドメイン」「作品の発表後に、ある程度ひろまったらパブリックドメイン(かもしれないけど、議論の余地あり)」という意見もありました。

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