レビュー

「10年後には朽ちるものを100年後に延ばす」 博物館の裏方描いた漫画が驚きの連続司書メイドの同人誌レビューノート

『ただいま収蔵品整理中!Vol.1』『ただいま収蔵品整理中!金属保存編』をご紹介。

advertisement

 最近、博物館にお出かけになりましたか? 歴史ブームや刀ブームで、近年いろいろな博物館にお出かけされる方も多くて、界隈(かいわい)が盛り上がって大変すばらしいです! そして訪れる前には、お目当ての品が常設で展示されているのか、期間限定なのかの事前チェックも欠かせませんね。うっかりすると、展示品の入れ替えでお目に掛かれなかったりということも……。

 そう、博物館や資料館のぴかぴかのガラスケースや展示室に並んだ品々は収蔵品の一部で、多くの施設ではもっとたくさんの資料を収集して保存しています。今回は、郷土資料館を舞台に、収蔵品資料の整理に取り組む四コマ漫画の同人誌をご紹介します。

今回紹介する同人誌

『ただいま収蔵品整理中!Vol.1』B5 44ページ 表紙カラー 本文モノクロ

『ただいま収蔵品整理中!金属保存編』B5 12ページ 表紙・本文モノクロ

A5 52ページ 表紙カラー・本文モノクロ

作者:鷹取ゆう

収蔵品を見る、図る、削る! 資料保存のスタートです

共感しちゃう? 博物館の収蔵品整理あるある

 主人公の勇さんは、まだ道半ばの漫画家志望者。新人賞に落選してへこんでいたところ、大学時代の友人から「郷土資料館でバイトしないか」と誘われます。かつて学んだ考古学の知識と絵を描くのが得意な腕を生かして、勇さんの収蔵品整理ライフが始まります。

advertisement

画力を生かす主人公の他にも、個性と技能豊かな面々が

 いざ資料館に向かったら、廃校を利用したなかなかに風通しが良い(のちに天井が落ちている収蔵庫に遭遇……)環境だったり、牛乳瓶を探していたら見つかったのは酒瓶だったりと、思いがけないことに遭遇しっぱなしなんです。

呼ばれた先は廃校? ここで収蔵品整理ライフがはじまります

 「ああ~、分かります!」とうんうん頷きながら読んでしまうのは、図書館や博物館、資料館が比較的類似の施設だからでしょうか。施設の老朽化問題や、記入には鉛筆を使うところなんかも図書館と似ています。でも、新鮮なこともたくさん! 例えば、割れやすいものを水洗いするときは、プチプチの梱包材を敷いた上で行うのも知りませんでした。言われれば納得、でも言われないと全く想像のつかないことが、収蔵品整理をはじめたばかりの主人公目線と一緒になって体験できるので、「あっ、そうだったんだ!」という細やかな驚きの連続です。

さまざまな驚きに遭遇です

害虫は生け捕りに、椿油は鎌に塗る、収蔵品保存のいろはをご一緒に

 登場人物は、重い収蔵品を運ぶのも任せておけの肉体派さんがいるかと思えば、害虫に興味津々な女の子もいて、多様な視点から収蔵品保存に取り組む人がいることが分かる、濃いメンバー構成です。害虫を手づかみする光景には、主人公ならずとものけ反ってしまうかもしれませんが、「駆除だけでなく、生態を調べて害虫の侵入を防ぐことを目指す」という考え方を聞くと、なるほど納得です。

害虫登場! 共存をめざして!?

巻末では整理に使う品々も紹介されています

 また、『ただいま収蔵品整理中!金属保存編』では、錆びた鎌のメンテナンスに椿油を使う様子が描かれているのですが、使用されるのはよくスーパーやドラッグストアのヘアケアコーナーで見かける、ごくごく普通の椿油の商品です。えっ、それでいいの? けれど、これにも「この先、もっといい保存方法が確立された時には、塗布した油を取り除くことになるかもしれないから、それに備えて、成分がはっきりと解る天然の椿油が利用される」と理由がきちんと示されています。


ギャリギャリ削ってみたくなります

 知らない知識が端々に登場しますが、すっきりした絵柄で、簡潔な四コマに収められている上、特に不思議な点は補足コメントがついているので、収蔵品保存のことがするりと飲み込めます。読んでいると鎌のサビを削ってみたくなってきました! ギャリギャリと鎌のサビを削るとか、ものすごく楽しそうじゃないですか!

advertisement

博物館の見かたが変わるかも! 収蔵品を保存し、後世へと伝える人たちの働き

 資料館の学芸員、西さんは言います。「10年後には朽ちるものを100年後に延ばす。それが金属保存よ」と。丁寧に手をかけ、記録して、保存するのは今ある「物」を未来に届けるため。それはなんと収蔵品を壊してしまったときにも発揮されるんです。整理中に物をうっかり破損してしまったときに「どんな感触だった? 断面はどんな感じ? 内側に何か書いてある? 色は(中略)」と矢継ぎ早に詰め寄る西さん! 破損はとても残念ですが、普段できない部分を確認できる貴重な機会でもあるとのこと。全てが収蔵品の「この先」に伝えていくために動きます。ちょっと西さんの目が真顔過ぎて怖くはありますが……。

 博物館、資料館に物が収められてそれで終了、ということではなく、収蔵されたときがはじまりでもあるのか、とご本を読んでいて気付きました。収蔵品の展示は、大きなタイムカプセルの様子をのぞかせてもらっているみたいですね。タイムカプセルの中にはたくさんの品々が集められて、私たちが見えない場所で日々携わる人々の、細やかにして大胆な手作業を知る同人誌です。


学芸員、西さんの名言が光る

サークル情報

サークル名:キツネの窓

Webサイト:https://takatoriyu.tumblr.com/

Twitter:@yu_001oh

参加予定イベント:コミティア124(2018年5月5日開催)

入手先:『ただいま収蔵品整理中!Vol.1』ダウンロード販売

DLsite.com

日本サイト英語サイト(※セリフは日本語)、台湾サイト(※セリフは日本語)

DiGiket.com

BOOTH

今週のシャッツキステ


シャッツキステでは定期的に「同人誌を持ち寄っておすすめし合う会」を行っているのですが、2018年の初開催は、なんと今夜! いつもわくわくの会なんですよー。みなさまのおすすめ同人誌を知りたいです

著者紹介


司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | 博物館 | 図書館 | 4コマ漫画 | 漫画家 | 漫画 | 歴史

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

記事ランキング

  1. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
  2. 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  3. 元「おニャン子」内海和子、娘・ゆりあんぬの“胃の粘膜ぶっ壊す”食事に激怒! 有名飲食店に謝罪し「出禁にして」「違う星の人そんな気がしてなりません」
  4. 「恐ろしい」 北海道の道路標識 → “見落としたら絶望”のとんでもない表示に衝撃走る 「普通にホラーでは?」
  5. 優しそうな“おかっぱ頭”の男性→プロがカットしたら…… “別人級の仕上がり”が470万再生「えっ!? って声出た」「EXILEみたい」
  6. 平愛梨、“夫・長友佑都選手”に眠れなくてLINE送信→“まさかの返信”に「なんやねん」「もう寝るしかない」
  7. 「天才が現れた!」 森永が教える“秋らしい”お菓子の作り方→たこ焼き器を使ったアイデアに「すごいすごい可愛い」
  8. 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  9. “無給餌”で育てたメダカが2年後、驚きの姿に→さらに半年後…… 放置しておいたビオトープで起きた“奇跡”に「ロマンを感じる」
  10. 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」