「こんな美しい光景があったら」をイチから具現化 オリジナルのコスプレ同人誌『創作写真集』が恐ろしいまでに麗しい:司書メイドの同人誌レビューノート
すてきすぎる世界。
日差しが日ごとに明るくなり、たくさんの花ひらく季節、春ですね。今回の同人誌は、そんな輝くころにぴったりの、きらきらしたコスプレ写真集です。
同人誌もいろいろな種類の創作がされていますが、これまでご紹介してきたようなマンガや小説、評論や情報をまとめたものなどの他に、コスプレのご本もあるんですよ。
今回紹介する同人誌
『創作写真集5』A4変形スクエア 60ページ 表紙・本文カラー
作者:飛沫(Shibuki)
圧倒的きらびやかなオリジナルコスプレ写真集
本を開けば、とにかくきらっきら! 森でティーパーティーを楽しむユニコーン、満開の桜の下の幻めいた美女、菜の花畑に真っ白なうさぎさん……と、さまざまな華麗な世界が、作者の飛沫さんを被写体に、繰り広げられています。
それぞれに異なった世界観は全8場面。8人のカメラマンさんによって撮影されたそれらは、どれもがきらびやかで、とっても繊細。例えば「夢色ユニコーン」のページでは、現実にはありえないような淡い髪色の二人が並んで腰かけており、耳があるべき位置には小さな羽があり、頭にはユニコーンの角が生えているファンタジックな姿です。彼女たちがいる一角はふわふわの柔らかそうな布とお花で彩られ、そこでふたりが口にするスプーンにはバラが一輪……。麗しい! 恐ろしいまでに麗しい世界が3次元に出現していますよ!
コスプレの写真集と言えば、大好きなキャラクターにかっこよくなりきったものや、セクシーさ全開なものなど、みなさまそれぞれに表現をされているのですが、こちらのご本は創作写真集です。ご自身でイメージを練り上げ、衣装をや小物を作成し、ご本を作られているんです。
頭に思い浮かぶ世界を三次元に出現させる。コスプレイヤーさんは創造主!
「こんな美しい光景があったらいいな」と頭に思い描いたとき、マンガ家さんはそれをマンガにし、小説家さんは文章で表現なさることでしょう。ではコスプレイヤーさんは? そう、己の手で理想を三次元に具現化させてしまうのです! そういう気概を、華麗なお写真の端々から感じます。
しかし、「桜の中の不思議なお嫁入り風景を見てみたいなぁ」という考えから、それをリアルに出現させるのは、並大抵ではないことでしょう。衣装一つにしても、そこにいるのはどんなキャラ? その身にまとうものは? 何か持っている? と詳細を詰めていき、じゃあ布はつやつや? ひらひら? とイメージを固めたかと思うと、さらにそれを扱い、理想の形に作りあげる力も必要です。そしてちょうどいい桜の咲く場所を確保して、ロケーションして、撮影して、そのときの表情はどんな顔をしているの? ……わー、もう考えるだけでタスクいっぱいです! 想像を、夢の中の華やかさもそのままに、自らの体を使ってリアルでやってしまう実現力が超強力!
手間と時間と、たくさんの想像力を注ぎこんだからこそ、この華麗な世界が舞い降りてきたことに思いをはせて……感服です。
衣装、小物、メイク……紙面から表現を読み込みたくなる
ご本の中には飛沫さんによるQ&Aページが設けられており、その中で「一目見て、あ~~なんか強そう~~~っていうビジュアルがめちゃくちゃ好きなんです」と語られた言葉に、なるほど、と納得しました。
こんなに繊細な世界なのに、紙面からは「強さ」を感じます。それは人ではない角や、耳を持った見たことのない異形の存在が現実に現れたという単純な驚きとともに、頬を飾る宝石のかけらのような飾りや、青く縁取られたまぶたに白い睫毛といった、街中では見ない違和感のある仕掛けがあちこちにちりばめられているからではないかと思っています。そして、きっとその違和感には意味が秘められていて、この額を飾る宝石にはもしかしたらなにかパワーがあったりとか、そんな設定が隠されていたりします? と、深読みしたくなるほどに、細部までに力が込められているんです。
自分が生み出す世界への愛情をぐつぐつ煮詰めた、その濃さが、きらきらへと昇華されているのが素晴らしい! と、隅々にまで気を配られたお写真の一枚一枚を飽かずに眺めてしまいます。
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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