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廃線間近で大騒ぎ! どうして三江線は廃止されるの?月刊乗り鉄話題(2018年3月版)(3/4 ページ)

時代に乗り遅れた「陰陽連絡線」、JR三江線を振り返る光と陰のお話。【三江線秘蔵フォトも20点】

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「陰陽連絡線」としての役割──もともと、沿線の利用者は期待されていなかった

 JR西日本の資料によると、1987年度の三江線の平均通過人員は1日458人でした。それが2016年度までに5分の1以下に減少しました。この地区はもともとマイカー利用が多かった上に、沿線の過疎化が進んだためです。ただし、三江線そのものは沿線の人々のためだけに作られた路線ではありません。山陽地域と山陰地域を結び、国土の均等な発展を促すという目的がありました。山陽と山陰を結ぶという意味で、「陰陽連絡線」と呼ばれました。

 ほかにも、山口線、木次線、伯備線、因美線など、中国山地を南北に結ぶ鉄道路線が「陰陽連絡線」です。鉄道が旅客、貨物輸送の主役だった時代に、広島県と島根県、岡山県と鳥取県を結ぶ役割が期待されていました。三江線も、広島から三次までの芸備線と組み合わせて、広島と島根を結ぶ「陰陽連絡線の一部」だったのです。

 三江線の不幸は、その計画が早すぎたことと、反対に建設が遅すぎたことでした。三江線は大正時代に路線が計画されたために、鉄橋やトンネルの技術が未熟でした。また、当時は蒸気機関車が前提だったために、長いトンネルや急勾配も避けられました。その結果、江の川に沿う形でかなり蛇行するルートになりました。これは所要時間の長さや運行経費の高さに反映されます。

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 しかも、建設途中で日中戦争(1937年)が始まり、工事が中断されます。建設再開は第二次世界大戦後(1945年)から。その後も難工事や自然災害で工事はなかなか進みません。北側と南側から進められた工事は、オイルショックが始まりかけた1975年にようやく浜原駅でつながります。全線直通運転は1978年からでした。しかしその頃になると、既に自動車交通が発達していました。陰陽連絡線の役割は、より直線的なルートで建設された国道が担うようになっていたのです。また、1975年に国鉄で行われた約1週間のストライキの影響で、鉄道貨物輸送も衰退しはじめます。


集落は江の川の対岸という景色が時々見られます。鉄道や駅は生活範囲から遠いのです……

 三江線は、陰陽連絡線として期待されて着工した路線でした。しかし、全通したのはその役割を失ってしまった後でした。とても残念な路線だったのです。実は国鉄時代の全通以前から、経営改善のため廃止対象になっていました。ただしこの頃は沿線の道路がまだ発達していなかったために、生活路線として廃止を逃れています。

 では2018年現在はどうでしょう。国道と、国道を結ぶ県道がきちんと整備されています。2003年には浜田自動車道と山陰道が結ばれました。山陽と山陰は高速バスの方が安くて早いです。


2012年頃までは廃止も未確定で、車内はこんなのどかな様子でした。乗客は鉄道ファン以外は3人ほどでした

観光路線としては長すぎた?

 三江線に限らず、生活路線や実用路線としての公共性が失われた鉄道路線については、観光路線として活路を見いだすアイデアもあります。特に三江線の風景は鉄道ファンの間では高く評価されています。廃止報道をきっかけに訪れた観光客も納得の車窓を楽しめたと思います。

 しかし三江線は観光路線として残すには長すぎました。路線長100キロ以上で、全線直通の所要時間が3時間半以上という片道コースになります。途中下車して観光しようにも、次の列車は4時間後。始発で出かけて、終列車で目的地に着くパターンになってしまいます。

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 それでも三江線の沿線には石見銀山、浜原ダム湖などの観光要素がたくさんあります。特に宇都井駅は三江線の名物の1つ(関連記事)。ホームの高さが地上から20メートルもあり、116段の階段のみで行き来するその修行的な要素から「天空の駅」と呼ばれた名所です。しかし、全国各地で走っている観光列車を導入すれば……というアイデアも、時すでに遅しでした。今後は、廃線跡を活用した観光の取り組みが行われるようです。


 廃止まであと2週間ほど。ぜひ皆さんにも、青春18きっぷなどを活用して訪れてほしいと思います。しかし、冒頭のようにかなり混んでいる様子。どうか覚悟してお出かけください。私は混雑が苦手なので、廃線跡の観光に期待します。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。

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