レビュー

昭和の家屋を再現するのが今のブーム 東京23区の区立歴史博物館・資料館をまとめた同人誌が熱い司書メイドの同人誌レビューノート

『東京23区区立歴史博物館・資料館完全ガイド』をご紹介します。

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 クチナシ、アジサイ、ホタルブクロ……道端で出会う花も、初夏の花に変わってきました。雨の中を出掛けるのは、ちょっとおっくうでしょうか。近くにあるのに、のんびり、ひっそり……そんな場所に、傘を差してゆっくり歩いて行ってみるのはいかがでしょうか。

今回紹介する同人誌

『東京23区区立歴史博物館・資料館完全ガイド』

B5 24ページ 表紙・本文モノクロ

作者:しばたひでき/天真楼亮一


23区の区立歴史博物館・資料館をもれなくレビュー

実は魅力的だった! あなたのそばにあるスポット

 こちらの同人誌は、東京23区内の区立歴史博物館、資料館を、作者さんが実際に巡ってレポートをまとめられたガイド本です。作者さんによると、近年これらの施設はリニューアルされることも多く、大人が見ても楽しめるような施設になってきているとのこと。そして、駅から少し離れた場所にありがちなのも、むしろ街歩きには最適では? と、このご本をまとめられたそうです。

 確かにこういう施設、学校の授業で行ったことあります。東京23区以外の方も、似たような施設を思い浮かべられるのではないでしょうか。地元の歴史がまとめてあって、ゆかりのある品々が飾ってあって、それらはそっと静かに置いてあって……と、ぼんやりと思い出すその施設。このご本では、それが今どんなことになっているか、そしてどこが見どころかを、施設名、場所、入場料などのデータとともに、具体的なレポートで、みどころを的確に教えてくれるのです。歴史博物館、資料館の分館的な立ち位置になることの多い、公開されている古民家についても言及されていて、一緒に見に行くスポットもカバーされていてすごい!

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身近だから、思い出せる。大人だから、懐かしい

 作者さんが特におすすめの北区、新宿区、江東区深川のうち、新宿区立歴史博物館のページを読むと、江戸時代の町のジオラマや、東京市電5000形の復元模型があり、「総じてジオラマと実物大展示にこだわった新宿の移り変わりの展示は見るものを圧倒させる」と書かれています。なるほど、何を楽しみにいけばよいのか、ポイントが分かると楽しみやすいですね。


都内区立博物館の中でもトップクラスの展示規模・質を誇るという新宿区。さすがの充実レポートです

 歴史博物館、資料館では古代から昭和まで、さまざまな年代が取り上げられているのですが、近ごろは昭和の家屋再現がよく見られるそうです。作者さんは「遂に昭和が歴史として語られる日が来てしまった」とおっしゃっています。分かります……図書館でも「昭和時代について調べに来ました!」というお子さんがいらっしゃると、最初は驚いたものでした。とはいえ、平成ももう30年。今のお子さんからしたら「昔の出来事」でひとくくりになってしまうのもやむなしな気持ちも分かります。


いま大流行中の昭和の家屋再現も、各地の再現を写真つきで紹介

 でもこの、「あんまり特別感のない展示」が、歴史博物館、資料館の魅力ではないかとご本を読みながら思いました。昨日まで使っていたようなものたちが展示されていることで、「過去」と「現在」は断絶されたものではなく、ひと続きになっていることが感じられるのでしないでしょうか。地域ごとに施設があるところも、そういう歴史を身近に感じる一因になりますよね。「あ、この貝塚の名前、近所じゃない!?」という思いが、親しみと、興味につながっていくのではないかと思いました。

 しばたひできさんは、実はマンガを描いていらして、こちらのご本のPRマンガもアップされているんですよ。けれど本誌はあえて文章と写真のみ! 硬派です……。


マンガもかわいくって分かりやすいですが、こちらはあくまでご本のPR

歴史博物館、民俗資料館の全関係者必読の書

 このご本には「歴史ファン、博物館オタ、古民家マニア必見」とのキャッチコピーを付けていらっしゃるのですが、それだけではありません! 私がおすすめしたいのは、歴史博物館、民俗資料館にいる、いわゆる“中の人”にも、ぜひとも読んでいただきたいのです。

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 前述のように、来場者が何を楽しみにしているのかを的確に指定されているのは、とても貴重な証言だと思います。また、時には「いささかとっちらかった印象は否めないが、個別の展示群は大いに見応えがある」という風に、いまひとつのところも率直に書かれています。あくまでおひとりの方が巡られたレポートです。しかし、ひとりの利用者さんがこれほどまでに「今の楽しみ方」を、真摯(しんし)に、それでいて楽しさを伝えようと、声を上げてくださっている点は、23区以外の場所でも間違いなく参考になりますと断言します!


分館、古民家についても紹介されているので、巡る楽しみが増えますね

 圧倒されるほど大きな博物館の迫力と、ごく日常のわが家との中間に位置する、“身近を楽しむ施設”それが区立の歴史博物館、資料館なのかしら、とページをめくりながら思います。土地に根差した記憶をとどめるからこそ、堅実で、穏やかで、ひっそりと。そのたたずまいそのままを愛し、これからの発展を楽しみにしている作者さんの目線が伝わるご本です。

サークル情報

サークル名:FOLON

Twitter:@tenshinrour

Webサイト:http://www.geocities.jp/folonoli/

入手先:COMIC ZIN、石神井公園ふるさと文化館(練馬)、模索舎(新宿)、タコシェ(中野)

次回イベント参加予定:サンシャイン・クリエイション

今週のシャッツキステ


雨の日に「むかしむかしからはじまるお話でもしましょうか?」とメイドに話しかけてみたら、「聞きたいです!」と、とってもきらきらした目で見てくれたのですが、お話しっかり覚えてたかしら……と、ちょっと心配になって、内心で思いだして復習中です

著者紹介


司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

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