レビュー

“民謡”の今を追う! 日本の心“民謡”を研究・調査した同人誌『MINYO』が興味深い司書メイドの同人誌レビューノート

「民謡」と呼ばれ始めたのは1920年のこと。意外な歴史の数々に触れられます。

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 金木犀がふわりと香る夜、耳を澄ますと鈴虫の音が聞こえてきたりして。少しひんやりしはじめた気候は、猛暑のころを癒やすようで、ほっと肩の力が抜けますね。そんなときに耳にする音楽はじんわり染み込むように感じます。芸術の秋、と呼ばれる季節。今回ご紹介するのは、郷土に根付いた唄、「民謡」をテーマにした同人誌です。

今回紹介する同人誌

『MINYO[民謡]No.1』B5 12ページ 表紙・本文カラー

『MINYO[民謡]No.2』B5 20ページ 表紙・本文カラー

作者:SHIZUKU、イシイユウ

特集に応じて、民謡のゆかりの地に降り立つ着物姿のお嬢さん。振り袖なのに、ラフさ漂うたたずまいがかわいいです

「なんとなく」思い浮かべる民謡から、「一歩前へ」。ちりばめられた豆知識が民謡への誘いに

 同人誌のタイトルはそのままズバリの『MINYO[民謡]』。「音楽の時間に習ったかな」と、伸びのある声や三味線の音色を思い出しながらご本をめくりました。まず、民謡はもともとは土地に根付いた労働歌で、全国各地にいろんな種類があることが日本地図で示されます。“よさこい”や“ソーラン節”など掲載の文字を見ているだけで「あれ? 意外と民謡って普通に耳にする機会も多いのかも……」と、なんとなく身近に感じます。が、それは民謡への最初の手まねきにすぎないのです。

 最初のページから、民謡という呼び名について、民謡の父と呼ばれる人物が大正9年(1920年)に開催した演奏会に「民謡大会」と銘打つまで、統一した呼び名はなかったことや、民謡にはまとまった楽譜がないままに唄われていたものも多く、そのため同じ歌詞でも少し地域が違うだけで唄い方も全然ちがうものになったりすることもある……などなど、民謡にまつわるエピソードがちょっとずつ盛り込まれています。紙面もカラフルで、そこここに添えられたイラストもかわいくって取っつきやすく、気付けば、ふむふむとページを読み込んでいるのですが、こちらの同人誌はそこからさらに一歩先へ!

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全国の土地それぞれに唄が伝わっているんですね

民謡なのに海苔屋さんにインタビュー!? 現地で民謡の今を追う

 『MINYO[民謡]No.1』では、東京の大森で海苔採りのときに唄われていた「大森甚句(おおもりじんく)」を取り上げているのですが、現地に赴いた上、海苔屋さんにインタビューまで決行されています。民謡で海苔屋さんにインタビュー? 歌詞は確かに海苔にまつわるものですが、なぜ現在の海苔屋さんに? とそのチョイスが気になって、ついつい読み進めてしまいます。

 一見不思議な組合せは、「大森甚句」の歌唱大会に海苔屋さんも出店しているところからのようです。海苔づくりについてや、「刀剣乱舞」のコラボにも使用された製品へのこだわりなど、海苔への熱い思いがインタビューの7割を占める勢いで語られます! 海苔への思いが熱すぎる!? と最初は思ったのですが、ふと気付けば「海苔の民謡を唄う会に、リアル海苔屋さんが出店しているなんて、それは確かにおもわずお土産に買ってしまいそう」なんて想像して、インタビューを読んでいる間に、民謡が現代社会に溶け込んでいる様子を自然に感じていたのでした。


唄い手さんや演奏者さんではなく、海苔会社さんへのインタビュー。意外ですが、唄の成り立ちへも思いをはせる、実はぴったりな組合せ

同人誌を作って、新聞に載っちゃった! 同人誌作りが、好きな世界を盛り上げる

 2冊目の『MINYO[民謡]No.2』では、新潟の「米山甚句」にスポットを当てていらっしゃいます。こちらも新潟の民謡なのに、二番から急に歌詞に静岡が登場するという情報にびっくり。この謎の静岡推し、当時唄っていた芸者さんが県外から来たお客さんを喜ばせるために付け足したのだとか。土地に根差したお歌だと思っていましたが、それだけでなく、歌い継がれる間の人と人との交わりをも内包しているんですね。

 作者さんはここでもフットワーク軽く、新潟は柏崎の民謡保存会さんにインタビュー。唄うだけでなく、踊りと一体になった民謡についてや、変わりゆく唄を保存していく意味などが、優しい言葉でつづられています。

 さらにすごいのは、なんとこのインタビューをする様子が地元の新聞に逆取材されてしまったこと! 遠方から調査に足を運んだことで興味を持たれ、新聞記事には「研究成果を冊子『MINYO』にまとめ、来月東京で開かれる『コミックマーケット』で発表したいと話した」と書かれています。

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 これが記事になることで、世の中に「民謡」にまつわる話題が新しく一つ生まれた……これはすごいことですよ! 自分が応援したいものに接して、追いかけて、本にしていたら、それが巡り巡って、本家の盛り上げに一役買うことができたなんて! なんてうれしいことなのでしょうか。

 さらりとまとめて読ませるご本の中には、興味深くも分かりやすいエピソードの選択、土地に赴くそのパワー、民謡の歴史と同時に“今”をも視野に入れる……熱い思いが詰まっていました。


確かに突然の静岡推し。当時の交流がうかがえます

サークル情報

サークル名:民謡研究会ゆたちた

Twitter:@minyo_yutachita

参加予定のイベント:コミックマーケット95

連絡先:minyo.yutachita☆gmail.com(☆を@に)

今週のシャッツキステ


シャッツキステでお出しする冷たいお紅茶には、グラスの下にレース編みのコースターを敷いています。この度、新しいレース糸を使いはじめました。今度の糸は、少し細めで張りがあります。少し涼しくなりましたが、まだまだ冷たい飲み物もおいしい季節。どんどん編んでいきますよー

著者紹介


カーテンを開けなくても外のまぶしさが伝わるようだった夏のあと。窓辺によって今日の空模様をのぞくのも、秋らしさのはじまりかもですね

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