絵本『しょうぼうじどうしゃじぷた』『しょうぼうねこ』……図書館には消防士さんや消防車に関するご本がたくさんあります。震えてしまうような危機に、いさましく赤い車で駆け付けてくれる人たちには、憧れのまなざしが向けられますよね。今回のご本は、そんな消防士さんの日常をほんわか描いた四コママンガです。
今回紹介する同人誌
『消防日誌 総集編』
A5 114ページ 表紙カラー・本文モノクロ
作者:奥 慶士郎
くすっとしちゃう、戦士のほんわか日常
消防学校から火災現場まで、“中の人”目線の四コママンガです。こちらは総集編になっていて、いまもシリーズは続いています。その1冊目、『消防学校日記』は消防学校入学後わずか2週間で同人誌の制作を決意されたとか。毎日驚きの連続だったのでしょうねぇ……という気持ちになるくらいに、「へー、そうなんだ!」なネタがいっぱいです。
消防学校では、先生の厳しい指導にびっくりしながら、右往左往する生徒たち。命を預かることの多い現場に向かうため、体も心も“消防士”へと鍛え上げられていく様が……様が……ほんわか描かれています! 消防士さんなのに、ほんわかなんですよー。厳しく大変そうなのに、かわいくもさっぱりした絵柄と、何事もツッコミで盛りたてていくテンションで、「これってしんどくないですか!?」というネタも、思わずくすっと笑っちゃうマンガになっています。
防災訓練、消防署見学、猫、蜂、よっぱらい……消防士さんは大忙し!
やがて「消防学校日記」から「消防署日記」へと活躍の場が移ると、今度はいろんな街の出来事が消防士さんに襲い掛かります。署内の訓練の合間に、よっぱらいの相手、蜂の駆除、猫の救出まで。人間以外は救助しないのが基本にありながらも、「本来なら業務とちゃうけど困っている人を放っとけへんしな」と手を差し伸べて、最後はやっぱり、ふふっと笑っちゃう結果に。でもこうやって街を守ってらっしゃるんだなってことが、小さな笑いと一緒にうかがい知れることで、ほっとする気持ちもやってきます。
ご本には、日常のマンガだけでなく、消防に関するちょっとした知識がコラムやコメントで掲載されています。出動指令ってどんな言い方なのか、流出と漏洩(ろうえい)の違いってなんなのか、はじめてまじまじと文章で読みました。実際の耳で聞く機会はあまりなくって、「ふむふむ」と興味深く、しかもたぶん自分が通報するような現場で聞いたらパニックになってしまうそうなことを、あらかじめ読んでおけるのは心強くもあります。
消防車メーカーさんや消防資機材屋さんに言及したコラムもあって、さらっと「消防に携わる人ではすぐに浮かぶであろうホース屋さんです」の一文に「そうなの? そんなに有名なんですか!?」と業界の一端をのぞく楽しさも。しかもこれが四コママンガの間に、短すぎず、長すぎず、さらっと読めるいい分量で配置されているんですよー。
「おつかれさまです」って言いたくなる。ヘルメットの下の顔に思いをはせて
読み進めると、超人的活躍の影には、こうして有事に備え、日々をこつこつと過ごしていらっしゃるお姿が目に浮かびます。それを元気と明るさとツッコミで乗り切り、あえてほんわかで包んで作品にされたことで、読後はふわっと、安心した気持ちになりました。消防士さんだって、怒ったり、笑ったり、冗談を言ったり……そういう、人間味あふれる姿を共有できることがうれしくなりました。
今週のシャッツキステ
気が付くと梅雨の合間にも日が差す時間が長くなり……夏至ですね。6月は時の記念日もあります。「何分くらい計れるんですか?」と尋ねられることも多い、館内の大きな砂時計。1時間くらいかしら……と思っているのですが、気付いたらいつも最後の砂が落ちた後で、正確な時間は分からないんです。もしかしたら、いつも違うスピードで落ちているのかも?
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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