コラム

6畳ワンルームに1000冊の本。「本に埋もれる」ではなく「本と暮らす」ための賃貸DIY(1/2 ページ)

建築家が手掛けたDIYケーススタディーを紹介。

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 あなたが心地よく過ごし、自由を感じるとき、空間と人の分かちがたい良い関係が結ばれています。それは偶然生まれることもありますが、良い関係のなりたちを理解さえすれば、意図的に設計することができるものです。全ての空間と人は良い関係を結ぶことができると信じて、私たちIN STUDIOは建築設計に取り組んでいます。

 建築設計事務所は建物の新築やリノベーションを設計するのが仕事ですが、そもそも設計をする建築家は、世の中にある空間の成り立ちを理解し、実際に設計をして形にすることで、人や社会を良くする職能をもっています。誤解を恐れずに言えば、建築家は「なんでも設計で今より良くできる」と信じているのです。

 私たちはそれを確かめるために、原状回復が必須の賃貸マンションを対象に、自分自身の手によるDIYの工事にチャレンジすることもあります。ここではそのケーススタディーをひとつご紹介します。

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1000冊の本と“暮らす”ための部屋

1000冊の本に埋もれる住人

「こんなひどい部屋ですが、どうにかなるんでしょうか」

 そう紹介された部屋は、3×4×2.4メートルのワンルーム。雨戸のシャッターが下ろされた暗い部屋で、住人のU氏は1000冊近い本に埋もれるように生活を送っていました。

「ひどい部屋ではないですよ。たぶんどうにかなります」


積み上がった本に囲まれた部屋

 U氏は20代の認知心理学者。仕事場へのアクセスの良さと都市中心での暮らしを求めて、駅徒歩10秒の小さな借家に住んでいます。都市空間の高度利用のため小さく分割された土地に、めいっぱいに建てられた集合住宅、さらに小さく分割された1階のワンルームがU氏の部屋です。

 部屋は約6畳で、窓をあけると常に人が行き交う街路に面しています。街歩きには良い街路ですが、窓を開けて住んでいると通りがかるほぼ全員と目が合ってしまいます。そればかりか、かつては窓越しに変質者と遭遇したり、旅行の留守中に知らない人に住み着かれていたこともあったといいます。そんな事件もあって、窓と雨戸は常に閉まっている状態でした。

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 都市は、彼がここに住むことを許さないのでしょうか。


街路に面した部屋。昼も夜も、晴れでも雨でも、窓と雨戸が締め切られていました

 U氏の部屋を見回すと、どこを見ても膨大な本が置いてあります。床やカラーボックスはもとより、靴箱や窓台、コンロなどいたるところに本があって、残る平面はベッドと一人がけソファのみです。

 最初はコレクター的に本に囲まれて生活したいのかと思いましたが、そうではありません。ひとりで年に400冊の本を読んでは、部屋にストックをしたり実家に送ったりして、猛烈な勢いで本を消化しています。生活のための持ち物は多くないように見えますが、本はとにかく多い。

 話を聞くに本気の読書家は、本をためすぎて床が抜けたりするそうですが、それだけの量の本はもはや生活空間を左右する大問題です。部屋が本に占拠された結果、部屋でできるのは寝ることだけで、食事と読書は街で済ませているらしい。なるほどU氏は見事に都市生活を実践していますが、一方でU氏の生活は部屋に受け止められていません。


部屋中のいたるところにバラバラに置かれた本

 都市プランナーは彼なりの合理性で街路を引き、土地を分割しています。そこに住宅メーカーが、彼なりに最大効率の集合住宅を建設します。結果、現実に発生してるのは私生活の数十センチ先に他人が歩き、膨大な本に埋もれる緊張した空間でした。

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 U氏は「ひどい部屋ですが」というのですが、むろんU氏が悪くはありません。U氏の生活と生活空間は、彼が彼のリアリティーをもとに生きた結果です。

 加えて言えば都市が悪いこともありません。街路には人が行き交い、街路樹が生い茂り、店が軒を連ね、文化と活気にあふれています。問題だったのは、都心という場所に対して対応できず、U氏のような特異な(ただし今日においてはリアリティーのある)生活様式に対して対応できなかった量産住宅の形式です。都市と住宅の設計者が空間を生産するとき、限られた空間を生きられる場所にするための想像力が欠如していたのです。

 都市と住宅の設計者から引き継いだこの“意志のない空間”を、改装をする私たちが“生きられる場所”に再設計しなければなりません。

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