「文章上から解剖しなさい」「全文を書き取りなさい」 明治時代の入試問題(国語・漢文)をまとめた同人誌が趣深い:司書メイドの同人誌レビューノート
設問文にも時代が表れますね。
いつもと少し違う時間に出掛ける寒い朝。慣れない道に少し緊張しながら歩く、その腕に持ったカバンの中には、筆記用具と受験票……そんな朝を、どこかで迎えた方もいらっしゃるでしょうか。受験シーズンと呼ばれる季節、今回ご紹介するのも入試に関する同人誌です。でもその入試は100年前に行われました。
今回紹介する同人誌
『明治時代の入試問題(国語・漢文)』B5 56ページ 表紙カラー・本文モノクロ
作者:瀬田教安
聞き取りもあり。明治時代の入試問題
こちらは明治時代の入試問題を収集し、作者さんご自身で解答例を付けられた同人誌です。明治16年(1883年)の東京師範学校、明治19年(1886年)の海軍学校にはじまり、およそ100年前までの明治時代、10の入試で実際に使用された国語、漢文の問題が掲載されています。
ぱらりとご本を開くと、まずは漢文が多く目につきます。作者さんによると、明治時代にはまだ入試科目としての「現代文」がなく、漢文がメインだったのだそうです。そこからだんだんと今のような「現代文」の問題に近づいてゆくのですが、ちょうど真ん中くらいのページに漢字だけでなく、片仮名もたくさん書いてあるところを見つけました。なになに、これは「今から文章を三回読み上げます。全文を書き取りなさい」という出題とのこと。聞き取りの問題がでるなんて、出題の方法も今に通じますね。カツソレシチコクノナンヲハッスルモノハ……うーん、書けるかしら!
疆弩之末勢不能穿魯縞と、久かたのひかりのどけき……
「語句の意味を説明しなさい」の出題のひとつ「疆弩之末勢不能穿魯縞」。
この問題は明治35年(1902年)の高等学校大学予科入学者選抜試験からです。現代でいうと国立大学専用のセンター試験のような立ち位置と、解説が添えられています。「きょうどのすえいきおいろこうにうがつあたわず」という読みだけでなんだかかっこいい呪文のような、とぽやーっとしてきてしまった私の目に、飛び込んできた文字がありました。
「次の和歌を解釈しなさい。久かたのひかりのどけき春の日にしづ心なく花の散るらん」この歌は知ってますー! こちらは明治40年(1907年)の専門学校検定試験に出題されました。なじんだ一文に触れることで、ふと100年前と通じ合ったような気持ちになりました。
なお『明治時代の入試問題』は他に歴史、英語、数学とシリーズも豊富です。それぞれ得意な方はそのジャンルならではの100年の問題の変化にお気付きになるのかもしれませんね。気になるものにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
100年って短いのかも? 机の前に座る誰かを思う
前回も100年前に所縁のある同人誌をご紹介しましたが、こうして考えると100年前って意外と最近のことのような……。思ったより遠くない世界に感じられます。
ご本に掲載された最後の問いは明治45年(1912年)の女子師範学校のものです。「春は花をめで、秋は紅葉をあはれむ」こちらを「文章上から解剖しなさい」というもの。解剖という言い回しがレトロさを感じさせます。それでも、今も春に花を愛でて、秋には紅葉に胸をじんとさせるのは変わらないなぁ、とふっと詰めていた息を吐き出しました。100年前、この試験を受けていた子は、問題を解くのに一生懸命だったでしょうか。でも、試験が終わったら、100年後の私と同じように、この一文を思い返して心なごませていたかもしれません。
2019年は平成から次の年号へと変わる節目の年と、あちこちで動きがあります。けれど記念すべき年に生きている私たちは、意外となんとなく、変わりなく過ごしていくのかもしれません。きっと2019年の試験の問題も、ずっと未来になって誰かが「100年前はこんな問題を解いていたんだね」って読み解くこともあるような気がします。難しい問題集のはずなのに、100年ってこんな風に続いていくものなんだ、とあたたかな気持ちになりました。
サークル情報
サークル名:博究社
Twitter:@seta_noriyasu
Webサイト:https://hakkyusha.stars.ne.jp
現在入手できる場所:COMIC ZIN
入手先:コミティア127(2月17日 東京ビッグサイト西1・2・3ホール い26a)、第11回秋コレ(2月24日 秋葉原UDX2階アキバ・スクエア)、サンシャインクリエイション 2019 Spring(3月10日 池袋サンシャインシティ B20a)
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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