“AV監督”に魅力を感じた理由――山田孝之、「全裸監督」で意識的に切り替えた“村西とおる”のスイッチ
山田さん「どこまで表現していいのかという葛藤が常にあった」。
80年代、熱狂のバブル時代を駆け抜けた“放送禁止のパイオニア”村西とおるさんと仲間たちの挑戦を描いたNetflixオリジナルシリーズ「全裸監督」が8月8日から配信スタートしました。
不屈の精神を持つ村西さんを演じるのは、実力派俳優として定評がある山田孝之さん。予告が公開されると、「想像以上に村西とおるだった」「すごい!! 山田孝之が村西監督に見えてきた!!」など山田さんの“AV監督”っぷりが話題に。
今回は、役者人生の中でも一歩踏み込んだ作品、役に挑んだ心境や、Netflixオリジナル作品に出演したことで感じた“表現の自由”などについて山田さんにお話を伺ってきました。
いよいよ家族に見せられないものをやってしまった
――80年代という激動の時代を駆け抜けた村西とおるという人物は、当時の山田さんにどう映っていましたか?
山田孝之さん(以下、山田): この作品に入るまで存じ上げなくて、Netflixの方からオファーをいただいて知りました。
――では、オファーを受けた決め手はなんだったのでしょうか。
山田: 前科7犯、借金50億などが書かれた『全裸監督』の帯だけで決めました。この人は絶対面白い、この人の人生を歩んでみたいと思いました。
――これまで山田さんが演じてきた役の中でも際立って強烈なキャラクターだと思いますが、そのオファーが来たことは自分にとって挑戦的なものだと感じましたか?
山田: もちろん。感覚で言うと、ドラマ「闇金ウシジマくん」(2010年)の丑嶋馨のオファーが来たときと似ていて、「できるかな、自分に」と悩みました。ただ、確実に悩むし大変だろうけど、その先に見つけたり気付けたりするものがあるだろうし、いつか振り返ったときに絶対にやってよかったと思える作品だと感じたので、これは挑戦しなきゃダメだなと。
オファーに対する迷いは……多少あった気がします。さすがに僕、妻子持ちなので。でも、これで離婚とはならないだろうと。ただ、奥さんと奥さんの親族にいよいよ見せられないものをやってしまったなと思っています。
――オファーが来てから村西とおるという人物をどう理解し、どこまで演じられたと思いますか?
山田: 映像を見たり本を読んだりしても、それだけではその人の本当の部分は見えてこないので、自分で作っていくものだと思っています。ただ、村西さんは実在されているので、撮影前にお会いした際、どういう風に物事を伝える人なのかをすごく観察しました。
そのときに、話す相手によってスイッチが切り替わる方だなと感じました。皆さんも友達や家族、恋人といるときはそれぞれ違うけれど、どれも素の自分であるというように、村西さんは表に出たときやAVの演出をするときにスイッチを入れて、みんなが知っている冗舌な“村西とおる”になる方だと感じたので、実際にそういう風にしました。
その方がより人間らしくなりますし、ずっとモンスターみたいな村西とおるでやっていると見ている人はついてこられないし、単純に僕ができないなというところがあって、意識的にそうしました。
作中で最初にその一端が垣間見られるのは、セールスのシーン。それまでも作り笑顔でスイッチは入れていたけれど、自分にしっくりきていないから気持ちもノッていなかった。でも、違うやり方に切り替えてみたらしっくりきて、物が売れて、人から求められて、喜びを感じて、存在意義を見いだして……そこからエロに入ったことで、よりスイッチの切り替えが開花していく。
どこまで演じられたか、と聞かれると、自分で自分の評価をしなければならなくなりますが、できた方だと思います、割と(笑)。
「いいですよ、やっちゃってください」がうれしかった
――撮影を振り返ってみて思うことはありますか?
山田: 現場の空気がすごく良くて、楽しかったです、本当に。スタッフやキャストも仲が良くて、全員が本気で、全力で、真剣に楽しんでいて、お互いをリスペクトしているのがすごく感じられました。そのメンバーで撮影していることがすごく楽しくて、終わるとき、離れ離れになるのが本当に嫌だなという気持ちになっていました。
――周りを囲むキャストの皆さんも豪華ですよね。中でも、運命の女性・恵美を演じた森田望智さんは新人ですが、かなり体当たりな演技をされています。共演した印象はいかがですか?
山田: 完全に爆発していましたね。彼女の演技を目の当たりしているので、新人という感覚がなくて、もはや恐怖を抱いています。次に会っても気軽にあいさつできないかもしれません。1回食われちゃっているので。
――現場以外でもお話されたのでしょうか?
山田: まだ出番が少ないときから撮影現場に来ていました。僕がどんな風に村西として生きているのか、性に対してどう向き合っているのかを勉強するために来ていたのだと思います。でも、僕が近づくとササっと逃げていたので、「そんなに気を遣わなくていいのにな」なんて思っていたら、ある取材で、まだ村西と恵美が出会っていないタイミングだから、僕を避けるようにしていたと言ってました。
――大規模な歌舞伎町のセットを作り上げた撮影現場もすごいですよね。やはり予算は日本の作品と大きく違ったところだと思います。総監督の武正晴さんもおっしゃっていましたが、クリエイトできた現場だったそうですね。山田さんはどう感じましたか?
山田: 予算が多いので、できることの幅が広がります。スケールのでかい作品を作ろうとハワイの真珠湾上で撮影するシーンは現地に行くこともできましたし、美術も細部までこだわることができます。あとは、全8話を4カ月程かけて撮影したので、スケジュールにも余裕がありました。そうすると、スタッフやキャストの心にも余裕ができて、ベストパフォーマンスを出せる状態に近づけたと思うんです。そこは間違いなく予算があったからで、他と違う部分だと思います。
あとは、僕たちはただ表現したいだけでこの世界にいるのに、どこまで表現していいのかという葛藤が常にあったんです。制限の度が過ぎていると感じる中で、「いいですよ、やっちゃってください」と自由にやらせてもらえたのは単純にうれしかったですね。「(両手を挙げながら)やったー! やれやれー」って。
――かなり自由にできたようですね。劇中では村西さんにならって、裸やパンツ一丁という姿も披露しています。山田さんは役に応じて肉体改造されているイメージですが、役作りはどうされたのでしょうか。
山田: 僕は鈴木亮平ほどストイックではないので、そんなに肉体改造ができるタイプではないと思っているのですが、肉付きのいい体形や肌の黒さは絶対大事だと思ったので、劇中でも食べていますし、普段もとにかく食べるようにしていました。
日焼けは、カツカツのスケジュールだとなかなかできないこともありますが、今回は日焼けをしに行く時間もあって、しっかり役作りに時間をかけることができました。余裕があるということは間違いなく役者の役作りへも影響してくるところですね。
「テレビはこれができない」はおかしい
――その姿が世界にも配信されます。どんなお気持ちですか?
山田: ワクワク。英語を勉強せずに世界に出れたぜ! みたいな。これを見たら日本人振り切ってるなーってなるでしょうね、大丈夫かこいつらって。
――芝居という点において、テレビとネットで違いはありましたか?
山田: 演じるということは変わらないはずですけど、無駄なストレスは確実に少なかったです。いろいろなところに忖度(そんたく)しなくてもいいし、大規模なセットもあるのでどこをどう動いても大丈夫。自由にできたと思います。
――民放ではきっと実現できなかった作品ですよね。
山田: 民放でやる必要がないと思います。テレビはテレビ、ネットはネット、映画は映画とそれぞれでやるべきものがあって、本来だったらそんなこと区切る必要はないのかもしれないですが、そうなってしまっている……。そこを、「テレビはこれができない!」と言うのがそもそもおかしいと思うんです。漫画や小説でもそうで、漫画だから許される表現があって、それをそのままCGなどの技術で頑張って映像に落とし込んでも、何か違う。それぞれの場所でそれぞれにあったことをやればいいと思います。
テレビ局が「全裸監督」のようなものに挑戦するかというと、挑戦しないしできない。だからこそNetflixが「あなたたちはできないですよね、やらないですよね、でも絶対面白いと思っているし、われわれはできるからやります」という感じで話を進めたのではないかなと、僕はNetflixの人間じゃないから分からないですが(笑)。そんな風に感じています。
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