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愛とは自己肯定と欲求不満の核融合である Lv.もちこ美しいだけの国 ――東京レッドライン

エメラルド――#1。

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Model:もちこ

連載:美しいだけの国 ――東京レッドライン

小説家・鏡征爾による小説とSNSで注目を集めている被写体とのコラボ連載。“愛”の石言葉を持つ宝石「エメラルド」の擬人化モデルはもちこ

「アレキサンドライト」の回はこちらから

 愛とは自己肯定と欲求不満の核融合である。

 美しい絶望、或いは醜い希望の最上のカタチである。

 愛は原子レベルで存在する。肉体が存在するように。
 絶望は遺伝子レベルで実在する。記憶が実在するように。
 希望は最終兵器レベルで顕在する。愛情が自我の砦になるように。

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 (((さみしい)))

 と鍵括弧付きの少女が言う。
 私の頭蓋の中にだけ生息する、微細な電子の物体だ。
 ぶった切ってもぶっ切っても切り分けられない、
 思考の最小単位未満の存在だ。
(これを私は“感情”と呼ぶことにしている)。

 絶望するのはなぜか。
 それは求めるものが到底手に入らないことを知るからである。
 希望するのはなぜか。
 それは求めるものがともすれば手に入ることを知るからである。
「恋愛には1パーセントの可能性があれば十分である」
 かつてスタンダールはそう言った。
 期待と希望は同一である。希望と絶望は地と図の関係にある。
 結論。期待と絶望は表裏一体である。

 つまり恋愛には絶望を必要とする。
 それが美しければ美しいほど、私たちは、反対に自分を意識する。自分を見る。醜くボロボロに汚れきった自分を見て、残酷な現実を直視する。
 そうして理想と現実の差は激しくなる。

 同様に恋愛には希望を必要とする。
 それが醜ければ醜いほど、私たちは相手を意識する。相手を見て、その透きとおるような白い肌と無垢な瞳を前に、残酷な世界に唾を吐く。
 そうして理想と現実の裂け目は大きくなる。

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『愛とは自己肯定と欲求不満の核融合である』

 愛。自己肯定。欲求不満。
 連続する3つの変数に、私はそれぞれ右のような呼称をつけた。
 愛の方程式は、数学的に記述できる。
 だが私は、可能な限り、それを言葉で表現したい。
 それぞれの感情は、生命の灯火にきらめく一瞬の元素の集合だ。

「恋愛には1パーセントの可能性があれば十分である」
 スタンダールは半分正しく、半分だけ間違っている。

 恋愛には可能性を必要とするが、
 愛は可能性の余白を必要としない。

 愛を原子レベルで考えよう。
(もちろんあらゆる恋愛論がそうであるように、それはメタファーの域を出ない。だが物理法則は時に有益な示唆をわれわれに与えてくれる)

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 原子。
 世界の構成要素。
 古代より単一不可分とされた微細な物質。
 だがその実態は、原子核を中心とする電磁相互作用が生みだす束縛状態である
 束縛状態。
 素晴らしい響きだ。
 われわれは電子による束縛状態に絡め取られている。

 われわれの肉体は電子による束縛状態に絡め取られている。
 われわれの頭蓋は電子による束縛状態に絡め取られている。
 われわれの精神は電子による束縛状態に絡め取られている。

 われわれの心は電子による支配下にある。
 われわれの愛も電子による支配下にある。

 自己肯定とは何か。
 それは自分で自分を肯定したいという葛藤である。
 或いは自分を自分で肯定したいという感情である。
 さらには他人から承認されたいという感傷である。

 欲求不満とは何か。
 それは欲望を抑制できない不安定な状態である。
 或いは欲望が枯渇した末に至る渇望状態である。
 そうして片思いの相手から承認されたいという、
 痛切でフィジカルな感傷である。

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 それが愛の根底にあるものだ。

 ところで核融合とは何だろうか。
 それは原子同士が超高速で衝突することによって生じる、
 爆発的なエネルギー反応である。

 ところで恋愛の最小単位とは何だろうか。
 自己肯定と欲求不満。それらによって生み出される核融合。

 それが愛だ。
 それこそが愛だ。
 愛だ、と傲慢にも仮定する。

 仮説の検証には以下の手順で行う。
 実験はあなたの抱いている相反する二つの感情、
 自己肯定と欲求不満のぶつかりあいから始める。
 超高速で衝突する二つの心の原子は互いの身を滅ぼすだろう。
 すべてを灰燼に帰すほどの爆発的なエネルギー反応のただなかで、
 あなたは本当の「光」を目にするだろう。
 酸素。炭素。窒素。水素。リン。イオウ。
 あなたの肉体を構成する元素は一瞬のうちに解体され、
 星屑の彼方に葬り去られる。

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 あなたはいつか必ず死ぬ。すぐに死ぬ。消えてなくなる。
 それでもあなたは、最後に消えることのない光をみる。

 あなたの愛する人はいつか死ぬ。すぐに死ぬ。消えてなくなる。
 それでも大切な記憶は、決して滅ぼされることのない光になる。

「愛してる」
「ありがとう」
「あたたかいね」

 だからその言葉を、一刻も早く大切な人に伝えてほしい。

 人間は無機物から生まれ、無機物に戻る。
 何十億年もの長い年月をかけて、鉱石として強く美しく光り輝く。

『愛とは自己肯定と欲求不満の核融合である』

 美しい絶望、或いは醜い希望の最上のカタチである。

 その逆説が宝石のように結晶化することを、あなたの魂は知っている。

鏡征爾

小説家。

白の断章』が講談社BOX新人賞で初の大賞を受賞。イラストも務める。ほか『群像』や『ユリイカ』など。東京大学大学院博士課程在籍中。

SNS:Twitter

もちこ

モデル。

SNSは9万を超えるフォロワーを持つ。#エブリデイストロング

SNS:Instagram

Photo

木下昂一

Special Thanks

人類の駒P

撮影場所

東急プラザ TOKYU PLAZA

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