9裁判所で「ウェブ会議」スタート~司法利便性が世界で52位の日本、民事裁判のIT化
裁判資料の電子化が次のステージ。
ニッポン放送「ザ・フォーカス」(2月4日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。民事裁判のIT化について解説した。
最高裁が報道関係者に公開した、裁判所と弁護士事務所(モニター内)をつないだ「ウェブ会議」による民事裁判の模擬争点整理手続き。「ウェブ会議」は民事訴訟IT化の一環として2月から導入される =1月9日午後2時9分、東京・霞が関の東京地裁
民事裁判のIT化がスタート
裁判所と弁護士事務所などをインターネットで結び、当事者が裁判所に出向かなくても手続きを進められる「ウェブ会議」の運用が3日、東京地裁など全国9ヵ所の裁判所で始まった。これは「民事訴訟IT化」の一環で、審理の迅速化につながることが期待されている。
森田耕次解説委員)民事訴訟をめぐっては、経済界を中心に大量の裁判記録を保管したり、裁判所へいちいち足を運んだりするのが負担だという声が根強く、政府の有識者検討会が全面IT化を提言していました。裁判所と弁護士事務所などをインターネットでつないで、弁護士や当事者が裁判所へ来なくても民事訴訟の手続きを進めることができる「ウェブ会議」が3日、全国8つの地方裁判所と知財高裁で導入されました。「ウェブ会議」が活用されるのは非公開の争点整理の手続きということで、裁判所にいる裁判官と事務所などにいる原告・被告側双方の弁護士や当事者がビデオ通話でやり取りすると。クラウドサービスを使って資料も共有でき、その場で和解条項を作成することも可能ということです。裁判官や弁護士の日程調整にいつも手間取っていたのが緩和され、訴訟が短くなる可能性があるのですね。
野村)民事裁判ですから、誰かが誰かを訴えることから始まるわけです。訴状が送られてきて、第1回公判の期日が決まるわけです。そこでまずはそれぞれ1回目の手続きが行われるわけですが、その後の時間がかかるのです。というのは、最初はお互いの主張があまり嚙み合っていないのです。いったいどこが訴訟の争点なのかということをお互いに確認し合っていく手続きがあります。一方が「こういう証拠があるからそのことに関して主張したい」と言っても、相手方が認めたらそこは争点ではなくなります。そういったものを確認していく作業が行われて、この点について反論してください、ということで準備書面をつくって持ち寄るという手続きがずっと続くのです。この期間中に、原則は裁判所に両方の代理人が一緒に行く日程が合わないという問題があります。特に、仮に裁判が大阪なら、東京の弁護人がわざわざ大阪まで行かなければいけません。そうすると1日がかりになりますから、数分間の打ち合わせのために出張するのは負担が大きいのです。そうすると、時間が取れる日が1ヵ月後、2ヵ月後になってきます。これは例外的ではあるのですが、片方の弁護士が裁判所に行っているのならば、片方はテレビ会議で参加するというものがいままでありました。これを両方ともテレビ会議にすることで、迅速化を図ろうという話なのです。
世界では広く利用されている電子訴訟
野村)諸外国、シンガポールでは特に早く、1989年から電子訴訟が実行されています。韓国も71%くらいの事件で利用されていると言われています。中国でもインターネット法院といって、インターネットの裁判所があります。そこはスマホでアクセスできる時代になっていて、それで裁判が完結してしまいます。簡易な民事裁判についてはどんどん電子化が進んでいるのですよ。民事裁判ですから、ビジネスのトラブルもあります。そうすると、裁判が迅速にできるのはビジネス環境では望ましいと考えられていて、ビジネス環境ランキングでもいろいろと調査されています。世界銀行のランキングだと、2010年に日本は27位の司法環境だと言われていたのですが、これがずっと後退して2019年には52位まで下がってしまいました。下がった最大の理由は電子化が遅れていることなのです。
森田)海外の企業は日本での裁判は起こしたくないのですね。
野村)費用の面でも出張費などがかかりますが、インターネットでできれば非常に楽だと。どうしてもビジネスにはトラブルがつきものなので、和解するのだったらもっと簡素にやって欲しいという声もあるのです。そこが見劣りしているので、日本でビジネスをやると紛争に巻き込まれたら面倒くさいということで、日本で企業する外国人も少なくなります。その辺りが今後検討されなければいけないと思います。
森田)日本の裁判は紙の資料も多いですからね。
野村)次の段階としては、こういった争点整理だけでなく全部の裁判資料を電子化してしまおうというのが次のステージです。もう1つ次のステージは、裁判所をバーチャルにしてネットだけで完結させてしまおうというものです。もちろん、簡単な事件に限ります。当事者がどうしてもリアルでやって欲しいと望んだ場合には、権利が保障される形になっていくのだと思います。
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