レビュー

裁判員裁判に参加してみた “6人のうちの一人”に選ばれた作者が描く同人誌マンガ『裁判員になりまして』司書みさきの同人誌レビューノート

意外と知らないあんなことやこんなこと。

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 まだ2月ですが、「春うらら」と言いたくなるような暖かな日が続いています。窓を開けたら思ったよりも風が優しくて、早春が近づいているのを感じます。穏やかで代り映えしない毎日……ですが、そんな平穏な日に届いた、たった1通の通知からハードな日々を送ることになる体験本が、今回の同人誌です。ある日、作者さんは裁判員裁判に参加することになったのです。

今回紹介する同人誌

『裁判員になりまして~裁判員裁判体験本~』 A5 44ページ 表紙カラー・本文モノクロ

作者:楼月紫乃


6人の裁判員、そのうちの一人に自分がなった!

「めんどくさそう」…でも情報量が多くて「タマシイ抜ける」日々がやってきた

 裁判員になる前に、まず「候補者名簿に載せますよ」というお知らせが来ます。そこから「裁判員に選ばれたので裁判所に来てください」と招集があり、裁判所に行くとその場で抽選が行われ、最終的に裁判員と補充裁判員になる方が決定されるのだそうです。決まったら次週からいきなり裁判が開始し、情報量が多くて「タマシイ抜ける」日々を過ごしながらやがて判決へ……。イラスト付きで解説されたご本を読むと、まずは「そうなんですね!」「そうなんですか!」の驚きの連続です。

 マンガに描かれる作者さんのお顔も最初は「へぇー裁判員って本当にあったんだ」と、どこか遠い世界を見ているようですが、やがて初めての裁判所にドキドキしながら出掛け、裁判員になることが決まると「マジか…」と思わず顔に汗が。裁判が始まれば「情報量が多くて頭がクラクラ」と、日を追うごとにハードな心情が、描かれたお顔から伺えます。匿名性を考えた結果、カエルやウサギの鳥獣戯画風で描かれた裁判員さんたちの軽妙なかわいさも、専門的で難しそうな裁判の世界との距離を縮めてくれます。

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当たった! マジで? の驚愕っぷり……

ランチタイムはどうしたらいい? 気になるところを実体験で解説

 ご本では裁判員に選ばれた方の守秘義務に配慮し、詳細について触れられない部分もあります。けれど「えっ、そもそも裁判員裁判ってどんな感じなの?」といった基本的なところから、時に4コママンガも挟み、読んでいるだけで、裁判所に呼び出されてからのスピード感に驚いたり、「あっ、どんな事件の裁判なのかは、招集されたときに教えてもらえるのね」とふむふむしたり。知らなかったことが作者さんの体験というリアルな声を伴って目の前で繰り広げられます。

 例えばランチタイムは裁判員のみんなに加えて、裁判官さんも一緒に机を囲んで、お弁当を食べたのですって。お弁当の種類から、裁判中にトイレに行きたくなったら!? という、実体験に基づく細やかな目線が光ります。


カエルさんチームがどこかほのぼの

やってみてどうだった? ほんとにほんとのホンネのところ

 そしてリアル感が極まるのは裁判員体験後の感想です。これまで世の中の事件にいかに無関心だったか身に染みたこと、裁判のニュースに対する見方が変わったことを挙げて振り返りつつ、さらに踏み込んだ「ここはどうなの!?」と感じた部分が率直に語られています。全く知らない世界に突然放り込まれた戸惑い、ふとした対応や、施設環境のことなど、他の誰でもなく作者さんの「私が体験したなかでの本音」です。

 真摯(しんし)に取り組むべきとみんな分かっている制度だからこそ、一人の小さな声は「こんなこと言うほどのことでもないかもしれない」「大切な制度について些細(ささい)な感想を言うのははばかられる」と、胸にしまっておく方もいらっしゃるかもしれません。けれどそこからもう一歩進んで気持ちをあらわにした個人の感想を個人がまとめたからこその、主観の声が実にストレートに迫ってきました。

 できるなら、本当は裁判が起きるような事態にならない方がいいと、裁判員をされた方ももちろん、きっと誰もが思っていますよね。みんなが穏やかな日々であるように、願っています。

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真摯に取り組むからこそ、一方でほっとしてしまう気持ちも、ほんとにほんとのところでは心のどこかにありうるのではないでしょうか

サークル情報

サークル名:カウラン・ファウス

Twitter:@takatukisino

入手できる場所:メロンブックスコミックZIN

今週の余談

 青々しく、わさわさした春菊に手が伸びて、何げなく炒め物にしたら、これが自分で自分を絶賛するおいしさに! 塩鮭ときのこ、そこに春菊を投入するだけのざっくり簡単料理なのですが、春菊と鮭の塩っぽさが合いましたー。冬の名残を惜しむような一皿になりました。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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