これからは救うターン(のはず)! 女子高生連続変死事件「Project:;COLD」を新規で見るならここからだ:あのキャラに花束を
カタルシスの連続、来てくれるって信じてる
いやさ。うすうす分かってはいたよ。誰も生き残らないんだって。
高校生の少女たち6人が、命を理不尽に奪われていく様はあまりに残酷でしたとも。どんどん心が壊れていく女の子たちの姿は、とても儚くグロテスクでしたとも。
ストーリー的に分かってはいたけど、彼女たちを本気で救いたかったんですよ。ちょっとでも生き延びてくれるんじゃないか、一人でも多く、って。でもできなかった。最後まで生き残った青島玲子が心神喪失しながら配信しているとき、そして視聴者の目の前でリアルタイムで彼女の命が奪われたとき、結局何もできなかった。
そしてカタルシスを与えてくれない惨劇のあとに来たのは、突然の反撃ターン。
「みやまん」こと女子高生6人連続変死事件を描くコンテンツ「Project:;COLD」が急展開を迎え、インターネット・SNSを利用した大型企画としてさらなるハンドルを切りました。今まで見ていなかった方へ、見るならここからです。
難解な構造だった「Project:;COLD」
SNSで話題が広がり続けている「Project:;COLD」。「女の子が死ぬ」というところまでは知られているようですが、これが非常に複雑な構造。VTuberなの? アニメなの? 演劇なの? 正確には全部ちょっと違う。SNS時代のインターネットをフル活用した、脱出ゲーム風システムもある参加型リアルタイムミステリー、とでも言うべきでしょうか。
平塚で起きた、女子高生連続変死事件。最初はVTuber的に、6人の女の子のバンド活動の様子をアップするYouTubeチャンネルからスタートしました。青春模様が描かれるのかと思いきや、中心人物だった佐久間ヒカリが突然の変死。そこから定期的に1人ずつ「呪い」とウワサされるもので次々死んでいきます。
リアルタイム進行で、必死に生きたいと願う少女たちの日常を見ることができました。情報は基本的に6人の女の子のTwitterから発信された言葉の断片から探っていきます。大事な部分は彼女たちが直々にYouTubeに動画をアップしていました。
その他細かな情報やヒントは、電話、Dropbox、QRコード、メール、(フェイクの)Webサイト、VRChat(バーチャル空間を利用したコミュニケーションサービス)、テーマ曲のMV、現実の平塚八幡宮、平塚市の広報アーカイブなど、ありとあらゆるところをチェックしなければいけませんでした。このへんのノリは「cicada3301」事件っぽいです。
多数のヒントを手繰って、死に追い詰められる女の子たちを救うのが視聴者の使命。参加者は融解班(ゆうかいはん)と呼ばれます。
加えて女の子たちの隠していた、思いもしない情報がボロボロ後出しされます。明るく元気だった子たちのドロッとした一面が明かされ、何を信じればいいか分からなくなったものです。
こんな感じなので、ディープにハマればハマるほど面白い、どこまでも堀りがいのあるコンテンツでした。同時に情報量が膨大すぎて、一人で全てを網羅するのはかなり困難です。
このハードルの高さをぐっと引き下げたのは、杉田智和のチャンネルにアップされているまとめ動画(※)。取りあえず物語の流れだけはこれを見れば分かります。加えてプロモーションで外部のYouTuberに依頼された動画で、フェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)としても見ることができ、外枠は理解できる用意はなされています。
ただこの作品は体験に大きな意味があるコンテンツでもあるので、リアルタイムで追ってこそ面白さの神髄に触れることができるのは事実です。
※杉田智和さんも参加クリエイター(キャスティング・プランニング担当)の一人
救えなかったシステム
結果として少女たちは6人とも死にました。融解班は彼女たちを一人も救えませんでした。これはあくまでも物語なので、メタ読みですけど流れとしてどうしようもない部分もあったんでしょう。
視聴者は「みやまん」の女の子たちに謎解きを依頼されれば、解答を送ってフォローすることができました。
Twitterで女の子たちに直接語りかけることもできました。彼女たちはたまにレスをしてくれるので、実際に存在し会話できている感が半端ではなかったです。時々ですが「固定ツイートを外したほうがいい」などこちらのアドバイスに対してリアクションし、動いてくれたこともあります。
だからこそ、破滅に向かっていく彼女たちを首に縄をかけてでも止めることができなかったのか、という歯がゆさも尋常じゃありませんでした。
死なないようにするためだったらなんでもするのに! という気持ちで必死にTwitterで訴えても、次の朝にはなにかに巻き込まれ、女の子たちは死んでいる。以降永遠にツイートはない……覚悟はしていても、昨日話した女の子が死ぬ、という喪失体験は特大のインパクトがあります。
これは分岐型アドベンチャーゲームではないです。ヒントや助言を彼女たちに投げかけることはできるものの、思った通りに彼女たちを操縦できるほど干渉はできません。ヒステリックになればこちらのレスをほとんど聞かないこともあります。ラジコンじゃない一人の女の子なので、声が届かないことの方が多いです。
でも見ている側としては隔靴掻痒極まりなし。手を伸ばして「行くな!」って言えるのに、彼女たちは行ってしまって、次の朝死体になって見つかる。明らかになにか起きそうな夜、彼女たちがいわくありげな発言をして消息をたつのを見ちゃうと、訃報が来るであろう次の朝が怖くて眠れなくなる……ってくらい心が持っていかれたもんです。
ある程度は干渉できたので、もしかしたら万が一に、なにかの大きなトリガーを見つけられていれば救うことができたのでは? という疑問はどうしても残ります。でもこれについてはもう今となっては、仕掛け人以外の人間には何も分かりません。
反転攻勢!
1月22日、青島玲子が事故死したことでメンバー6人が全員死んでから、何もかもが反転しました。公式サイトの色は真っ黒になり、カウントダウンされていた数字はマイナスカウントをはじめます。
1月24日、都市伝説風ミステリーは、SFになりました。100年後から届いたイオリ・ハートフィールドなる人物から届いたメッセージで、救済ターンがはじまります。彼と一緒に謎解きをすれば、死んだ6人を救えるかもしれない。この未来からの生配信を、1万人以上の同時接続者が見守りました。
今まで正直カタルシスはほぼゼロでした。頑張っても頑張っても死ぬ。一方的に失われるだけ。最初から今までずっと見続けているファンは、手応えがないストレス地獄に向き合い続けてきたため、今はめちゃくちゃメンタルが強靭だと思います。
救済ターンに入ってから、どこに手をかけて前に進めばいいかが一気に分かりやすくなりました。イオリが必要な情報提供を視聴者に訴えかけ、それを推理して毎日送り、19時に答え合わせの開示をする、という仕組み。正解があれば絶対拾い上げるシステム(ゲーム性の担保の部分なのでここはメタ)らしいので、推理が苦手でも発言して邪魔になることはありません。参加しやすさも格段にアップし、ゲーム感も倍増しました。
何よりうれしいのが、救済ターンなのでこれ以上悪化する可能性は限りなく低いということ。6人とも死んじゃったのだから、今度は救うだけ。失敗はもちろんしたくないけど、少なくとも絶望しかなかった以前より、はるかにマシ(まあでもこの企画容赦ないので、死ぬよりひどい展開が来ないとも言えないけど……考えないようにしよう!)。
視聴者の融解班はあまりにも優秀すぎました。今まで仕掛け人側が出した謎を20分程度で解けてしまう。後から見た別の視聴者が追い付けないという状況もありました。今回はその点をフラットにして全員にチャンスを渡し、答えが間違っていても、多少解答が遅れても参加ができる(イオリが正解も間違いもツイートをチョイスし、ピックアップして読んでくれます)スタイルになっています。
もちろん、今まで現実的なルールに従った殺人事件を想定して考えていたとすると、100年未来のSFのルールが飛び込んでくると根本的な考え方が変わってきてしまいます。「ありえない」と無視していた理論がそうではなくなるため1から洗い直さないといけない、というゆらぎはあります。
でもミステリーうんぬん以前に、救いたいんですよ彼女たちを。だったら100年後だろうがなんだろうが探偵役と手を取り合いますとも。理屈にないハチャメチャしてでも助け出そうぜ。
振り返りの物語
現段階の推理・救済ターンは、新規で見始めるには最高のタイミングです。
先ほども述べたようにこの事件、ゼロから情報を集めるのがめちゃくちゃ困難。そこそこ時間の経過した今では、まとめを見るくらいでしか流れを把握するのは難しいです。でも細部をほじくり返して推理するのが面白いコンテンツでもあるので、その楽しさはやっぱり味わってほしい。
今回のイオリとの謎解き共闘は、亡くなった彼女たちの情報を探ってキーワードを集めるというもの。そのため今までのTwitterの会話や動画から細かな情報を集め見直すことが解決のヒントになります。
これが「見直し」の役を担っています。何にも分からなくても、謎解きに参加すれば必然的に過去の動画やツイートをさかのぼることになる。そうすれば細部に伏線が潜まされているこの作品ならではの雰囲気がどんどん分かっていきます。
全く知らない人でも「6人の子が死んだ」「100年後から救おうとしている」という部分だけ知っていれば、あとはみんなが蓄積されまくった過去の情報を参照して推理する様子が見えるので、このコンテンツがちょっと特殊なのがすぐ分かる構造になりました。
ちなみに事件のトリック推理とかは今の所ありません。どちらかというと設定の細部に込められた事実を掘り下げて人物像を考え、そこにドラマ性があるのを発見する面白さが、この作品の推理の主軸を担ってきている気がします。
のぞき見る体験
今まではモキュメンタリーとしての作りが非常に凝っていたこともあり、第三者目線のリアリスティックショーでした。重要な仕掛けの一つにフェイクニュース記事が入っていたこともあります。
ここからはイオリと視聴者が黒子となり、6人の少女を主人公としてステージにそっと戻すための物語になっていってほしいところです。イオリはもちろん視聴者も、彼女たちからの見返りは何も求めていないはず。「助けたい」「謎解きをしたい」というシンプルな目線で全力でサポートと推理を行ってこっそり阻止しながら、何も知らないままで6人が笑顔でバンドやっているところを、はるか後方で腕くんで見ながら「よかったな……」って涙したいですよ。させてくれよ。
というか、推理のために彼女たちの何を知っちゃっているのかは、彼女たちに知られたくない、という後ろめたさも正直ちょっとあります。
なんせ推理のために見ているのは、外向きの動画とTwitterだけじゃないからです。何人かの子はTwitterの裏アカウントを持っていますが、そこは素の言葉がゴロゴロ転がっている情報の宝庫です。また公式からは「調査ファイル」と呼ばれる6人の裏話もアップされています。佐久間ヒカリが誰にも言っていなかった、過去にバンド解散した痛々しい話もサラッと載っています。女の子同士のいじめの過去の話も載っています。誰が調べたんだ?
プライベートをのぞき見ることは推理のために必須なのですが、みんなで心の闇をじろじろ見ていることは本人には黙っておきたい。自分の黒歴史がネットで世界中にさらされているなんて、ないしょにしておきたい。生きている感じがとても強いが彼女たちであるがゆえに、つい思ってしまいます。
裏垢や過去話を見たことはないしょにしつつ、もし今回彼女たちが死を回避できたら、ただ静かに手を振ってクールに去りたい。それだけが願いです。
(たまごまご)
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