インタビュー

まるで初代プレステみたいな“ローポリゴン” VTuber「蟹」が作る映像作品「空想料理店」が90年代レトロゲー好きの心をくすぐる教えて!先輩VTuber(1/3 ページ)

古くて新しい。

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 初代プレイステーションを思い出す趣深いローポリゴン。絵本のような優しさを備えた物語からは、程よくちりばめられたファンタジーの要素がスパイスのように香ってきます。

 VTuber(バーチャルYouTuber)として活動する「蟹」さんの映像作品「空想料理店」は、自らが空想料理店の店長となり、一風変わった料理でおもてなしするという1話完結のストーリー。

 美麗さを求める昨今の流れに逆流するかのように、蟹さんが作る映像は低解像度でテクスチャーが粗く、まるで90年代のゲームやCG作品のようなレトロな雰囲気が漂っています。

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 映像作りは独学でありながらも、Blenderと呼ばれる3DCGソフトウェアで作り出した映像を、あえて一度VHSに録画することで劣化した映像のリアルな質感を表現するなど、映像への強いこだわりと“ローポリ愛”を抱く蟹さんに制作の裏側を聞きました。

「教えて!先輩VTuber」とは

VTuberとして(だいたい)1年以上活動している人をゲストに招きいろいろ聞いてしまおうというインタビュー連載企画。インタビューを通して、これまでの活動を振り返ってもらい、活動を続ける中で得られた知識や経験を共有してもらいます。動画では、ねとらぼエンタ所属のバーチャルライター・白瀬カタルがインタビューを担当しています。

  • インタビュー動画(前編)
  • インタビュー動画(後編)

知識ゼロからのデビュー。輝夜月を見て即決「自分もやりたい」

―― VTuberを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

 2017年末に輝夜月さんというVTuberの動画を見て「なんて面白いことをやっているんだろう」「これは表現として新しいものだ」と思ったんです。新しいものに感銘を受けると、僕は「自分もやりたい」と思うたちで、すぐに通販で20万円するモーションキャプチャーの機材を24回ローンで買いました。それがVTuberを始めようと思ったきっかけですね。


バーチャルYouTuber四天王として知られる輝夜月さん(画像は【自己紹介】輝夜 月の特技がスゴイ!!!!から)

―― 蟹さんがデビューした2018年1月ごろは、まだVTuber向けの配信アプリも少なく今ほど配信環境は整っていなかったかと思います。その中で一歩を踏み出せたのは、蟹さん自身に技術があったことが大きかったのでしょうか。

 これがですね、僕はそれまで音楽は作っていたんですけど、3Dモデルや配信などの知識は全くゼロの状態だったんです。モーションキャプチャーの機材を買ったのも、勉強すればなんとかできるだろうっていうレベルで、全く無知の状態でした。VTuberを始めると同時にモデルの作り方や配信の勉強を始めた感じです。

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―― となると、映像作品を作り始めたきっかけは?

 VTuberって、初期のころは(生配信ではなく)動画投稿をしてなんぼみたいな感じだったんです。動画投稿をしてどんどんチャンネルを大きくしていくのが当たり前で、それが伸びるきっかけみたいな。視聴者側もそういう雰囲気だったんです。

 活動を始めた当時、配信をメインにする人たちがどんどん増えていったことで、視聴者側から「(見たいVTuberが多すぎて)配信を追えない」「動画にしてほしい」という声が上がっていまして、それなら僕は動画をメインに活動しようと思ったんです。

「犬ヶ島」に感銘を受け本格的な料理動画をつくるように

―― 「空想料理店」を始める前は、リズミカルな音楽と映像を合わせた一風変わった料理動画を作っていましたね。

蛍光灯の食べ方【自作アニメーション】【Vtuber蟹】

 エイフェックス・ツインっていうミュージシャンのプロモーションビデオを作っているクリス・カニンガムっていう人がいるんですけど、その人が作る前衛的な映像が好きなんです。

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 音楽にカットアップという、いろんな音楽を細かく切り刻んで組み合わせるという手法があって、それを映像版でやろうと思って最初に作ったのが、音楽と映像を組み合わせた料理動画でした。

 それから、そういった手法に見切りをつけてちゃんとした料理動画を作ろうとするんですけど、そのきっかけが「犬ヶ島」という海外のアニメーション映画。劇中に料理を作るシーンを俯瞰で撮影したシーンがあって、ストップモーションアニメなのでコマ撮りなんですけど、それがすごく衝撃的だったんです。

―― どちらかというと海外作品に影響を受けている?

 海外作品の方が多いですね。もちろん日本のアニメーションも好きでよく見ているんですけど、技術は海外の影響を受けていて、思想や手段は日本のものを参考にしています。

―― 空想料理店はいずれも3~5分ほどの短編映像ですけど、細かな料理工程だけでなくストーリーも1つ1つ完成度が高く、かなりの手間がかかっているんじゃないかと思います。1本あたり制作にどれくらいの時間を費やしているのでしょうか。

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 アイデアを出すのに1週間、アニメーション制作や編集にまた1週間ほどかかります。もっと細かくいうと、絵コンテが大体1~2日かかって、声の収録に1日、残りを全部アニメーション制作に当てています。

―― 絵コンテ作りはジブリ作品を参考にしているそうですね。

 絵コンテというよりは、アングルですね。ジブリ作品って、料理を作るときは人間の目線で描いていたりするなって思うんです。自分の中の1つの答えなので、宮崎駿さんや鈴木敏夫さんに言うと違うよって言われるかもしれないですけど、ジブリ作品で料理を作るシーンって人間以外の目線、俯瞰とか、下からとか見上げるとか、そういうのをあんまり入れないで真正面から、例えばお母さんが料理を作っているのを子どもが椅子に座りながら見るみたいな。そういうところが親近感のわく、一つの要因だと思っていて、料理を作ることに関して皆に親近感を覚えさせたくて、よくジブリアニメーションとかを参考にしています。

・「眼鏡で作るレンズレーズンサンド」絵コンテ

レンズレーズンサンド コンテ

・実際に制作された「眼鏡で作るレンズレーズンサンド」

眼鏡で作るレンズレーズンサンド

―― 空想料理店では、「花火の押し花」や「本のページを使ったハンバーガー」みたいな、素材はフィクションでありながら調理工程はリアルに寄っているものが多いですよね。現実と空想のバランス感覚が難しそうだなと感じます。


空想に寄りすぎると視聴者がおいてきぼりになってしまう(画像は贅沢な本バーガーから)

 そこらへんは今も悩んでいるところで、よく分からない料理をよく分からない調理法で作っちゃうと、見ている人が全然入り込めないと思うんです。僕の作品を見てくれている人は、“驚き”より“安心”や“懐かしさ”を求めていると思っていて、だからそこらへんの塩梅(あんばい)を今も模索していますね。

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―― 蟹さんの作品は、料理名に詩的な雰囲気が漂っていたり、ナレーションやセリフもすごく叙情的に感じられて、それが映像と相まってファンの心を強くつかんでいる要因だと思うのですが、そういったセンスは何から影響を受けたものなのでしょうか。


現実にあってほしいきらきらと輝く「星砂糖」(画像はまぼろしベーカリーのフレンチトーストから)

 あまり考えたことなかったですね。強いて言うなら、伊集院光さんがやっている深夜ラジオで立川談志さんと対談する回があって言葉遊びがものすごかったんですけど、それにちょっと近いかもしれない。あとはラーメンズのコントがすごく好きなので、ラーメンズが好きな人にはシンパシーみたいなものを感じてもらえると思います。

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