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「女の子は何でも許してくれる女神ではない」 「ヒーリングっどプリキュア」は子どもたちに何を伝えたかったのかサラリーマン、プリキュアを語る(1/2 ページ)

ヒープリで何が描かれたのか、公開されている文献を中心に紐解いていきます。ヒープリ、最高でした。

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 「女の子は何でも受け止め許してくれる女神ではない」

 「ヒーリングっど・プリキュア」(「・」はハートマーク。以降省略)のシリーズ構成、香村純子氏はアニメ誌のインタビューでそう語りました。

 作品終盤で描かれたキュアグレースと宿敵ダルイゼンの戦いは、子どもたちやオトナのプリキュアファンの枠を超え大きな話題となりました。

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 それはわれわれ一人一人の「プリキュア観」を揺るがす出来事だったのです。

 「ヒーリングっどプリキュア」で何が描かれ、何がオトナたちの心をざわつかせたのか? そしてキュアグレースの言葉を通し、製作者が子どもたちに伝えたかったこととは何だったのでしょうか?


最終決戦に挑むキュアグレース

kasumi プロフィール

プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。

「ヒーリングっどプリキュア」とビョーゲンズ

 2021年2月21日。「ヒーリングっどプリキュア」が最終回を迎えました。コロナ禍に振り回され、9週にも渡る再放送を経て、例年より3週間の延長、全45話での決着となりました。

 「ヒーリングっどプリキュア」は“地球のお医者さん”をモチーフに、キャッチコピーは「手と手でキュン!ハートつないで地球をお手当て!」。地球のお医者さん見習いであるヒーリングアニマルと絆でつながった4人のプリキュアが地球をお手当する姿が描かれました。


花寺のどか(キュアグレース)は幼少期に重い病を患っていた

 対峙(たいじ)する敵組織はビョーゲンズ。病原体をモチーフとして、自分たちだけが生息しやすい世界にするため地球を蝕(むしば)み、人間や世界を病気にします。

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 近年のプリキュアシリーズでは、終盤に敵にも手を差し伸べ「和解、救済」が描かれることも多いのですが、異世界や宇宙からの侵略者でもない「病原体という、絶対に人間と相いれない存在」であるビョーゲンズとプリキュアは、どんな結末になるのかプリキュアファンは注目していました。


ビョーゲンズの一人、シンドイーネ

ヒープリ終盤で描かれたダルイゼンの行動

 中でもビョーゲンズの一人であるイケメンキャラ「ダルイゼン」と主人公、花寺のどか(キュアグレース)の確執はファンの間でも大きな話題となっていました。

 花寺のどかは幼少時に重い病気を患っていて、その原因は彼女を宿主としていたダルイゼンでした。のどかの体から出た後もダルイゼンはプリキュアと対峙する「悪」として地球を蝕み続けます。


ラビリン(左)を苦しめるビョーゲンズの一人ダルイゼン(右)

 しかし終盤になり、敵の親玉キングビョーゲンの進化のために取り込まれそうになったダルイゼンは命からがら逃げだし、花寺のどかに「もう一度お前の体の中にかくまってくれ」と助けを求めます。これはすなわち「俺を助けろ、お前はもう一度病気になり苦しめ」ということでもあります。

 花寺のどかは優しい娘です。散々悪さをしてきたダルイゼンといえども助けるべきなのでは? と悩みに悩みますが、パートナーである妖精ラビリンとの対話を経て、戦いの中でダルイゼンの要求を突き放します。

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 「都合のいいときだけ私を利用しないで!」

 「私はあなたの道具じゃない!」

 「私の体も! 心も! 全部私のものなんだから!」

 花寺のどかは敵を救う道ではなく、自分の心と体を第一に考える選択をしました。


メガパーツを取り込み暴走したダルイゼン

 このプリキュアが「助けを求めてきた敵を突き放し自分を守る選択をした」という行為に対し、自分の周りでも意見は真っ二つに分かれていました。

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 いわく、「優しさに付け込み傷つけてくる存在にノーを突き付けることは正しい」。いや、「敵といえども最後は救うのがプリキュアじゃないのか」と。

 まさに、それぞれの思う「プリキュア観」に沿った大論争が起きたのです(女の子向けアニメで大論争が起きるのは社会が健全な証拠ですよね)。

病気のメタファーにした以上、和解は無理

 この問題を紐解くヒントがアニメ誌のインタビューにあります。

 「ヒーリングっどプリキュア」のシリーズ構成、香村氏は2021年2月発売のアニメ誌のインタビューで次のように語っています。

香村 敵を病気のメタファーにした以上、和解は無理ですよね。現実には、病気を抱えたまま、「病と共生」している方はいっぱいいらっしゃいます。でもその方たちも、完治できるに越したことはないわけで……。私はありがたいことに、これまで重い病気にはかからず生きてこられました。そんな私の立場から、「病気と和解しなさいよ」なんて言える勇気はありませんでした。
(徳間書店『Animage(アニメージュ)』2021年03月号 P70から ※強調表現は記事作成者による)

 香村氏は敵が病気のメタファーである以上、最初から「和解」は無いものと考えていたようです。彼らはあくまで「病原菌をモチーフとした存在」なのです。

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 今も、コロナ禍でプリキュアを見ている子どもたちの周囲にも実害が及んでいます。そして何よりもプリキュアを毎週楽しみにしている子どもたちの中にも病気で苦しんでいる子どもやその家族がいるはずです。


中盤、ダルイゼンによりメガパーツを埋め込まれ苦しむ花寺のどか

 香村氏の言う通り、世間には「病気と共存」している人もいますが、病気が治るに越したことはありません。だからこそ「病気を受け入れ、和解する」という安易な選択肢を取らなかったことは素晴らしいことだと自分は思います。

 イケメンであろうと、面白い人であろうと、どんな姿であろうとも「優しさに付け入り、自分の心を傷つける存在」にはノーを突き付けても良いのです。

 しかし、「受け入れる」「突き放す」以外の第3の選択はなかったのでしょうか?

 AかBかを選べ、となったときに「俺はCを選ぶぜ」と大逆転ウルトラCの選択をするというのはヒーローもののお約束です。

 しかし、現実問題として子どもたちがAかBかを選ばないといけないときは必ず来るのです。

 「自己犠牲か? 自分を大事にするか?」といった2択を迫られたときに、第3の選択で逃げずに、真正面から回答を出した今作は、子ども向けアニメとしてとても真摯(しんし)な対応だと思うのです。

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