インタビュー

とにかく俳優の良い芝居が見たい―― 佐藤二朗が語る、映画監督をする理由と第2作「はるヲうるひと」を経て強固になった思い(1/2 ページ)

打ち合わせ中だという3作目についてもお話を聞きました。

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 俳優、脚本家、映画監督としてマルチに活躍する佐藤二朗さんの監督映画2作目「はるヲうるひと」の全国公開が、6月4日にスタートしました。


はるヲうるひと

 「はるヲうるひと」は、佐藤さん主宰の演劇ユニット「ちからわざ」で2009年に初演、2014年に再演された舞台を映画化した作品。架空の島の売春宿で生きる男女の姿を描いた物語で、主演に福田組の盟友である山田孝之さんを迎え、仲里依紗さん、坂井真紀、向井理さんさんらが脇を固めます。

 ねとらぼでは、同作で監督、脚本を務め、役者として出演もしている佐藤さんに動画インタビューを実施。映画化の経緯から、映画監督としての思い、そして気になる次回作まで話を伺いました。

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負を抱えた人間の逆転劇にはあまり興味がない

―― コロナ禍で延期となっていましたがようやく公開ですね、今のお気持ちはいかがですか?

佐藤 むしろ今の方が見ていただきたいという気持ちがより強まりましたね。1年延期になりましたけど、日本全体で抑圧された空気がある中で、ある意味では抑圧された人を描いている作品なので。今こそ見てほしいなという思いです。

―― 「はるヲうるひと」は、もともと佐藤さんが主宰されている演劇ユニット「ちからわざ」で2009年と2014年に公演された作品です。架空の島の売春宿で生活する男女を描いた重苦しいストーリーですが、この作品はどのようにして生まれたのでしょう。

佐藤 もともと僕、負を抱えた人間が、その障害が全て取り払われて最後にはものすごく良い結末になるという作品にはあんまり興味がないんです。昨日と変わらず、それは相変わらず今日もそこにあるのに、明日もちょっと生きてみようかと思える、という話にどうしてもグッとくるんですね。そして、ほんの些細(ささい)なきっかけで明日もちょっと生きてみようかと思える、そこにすごくドラマを感じるんです。

 舞台の脚本を書いたのが13年前で、今はない新宿の「THEATER/TOPS(シアタートップス)」(2009年3月閉館、2021年8月に本多劇場グループの運営で「新宿シアタートップス」として再開予定)という小っちゃい劇場でやったんです。

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 大きな劇場であれば、話の流れに合わせて場面転換もできるんだけど、当然、予算もなかった。小さい劇場の場合は一つの場所を舞台に話を展開させる必要がある。それで、非常に濃密な女郎部屋というのを舞台に、抑圧された女郎たちを描いてみようと思ったんです。

―― なぜ「はるヲうるひと」を映画化することになったのでしょう。

佐藤 正直に言いますと、初監督作品として「memo」(2008年)という映画を作ったときに、初めて僕の書いた脚本を「面白い」と言ってくれ、お金を出すことを決意してくれた映画プロデューサーの永森裕二さんという人がいたんです。その人と2作目もやりたくて、僕が書いて永森さんに見せてといったやりとりを何年か続けていく中で、「はるヲうるひと」の初演と再演を見た永森さんが「二朗さん、監督2作目、これを映画にしたら、どう?」と言い出したんです。

役者たちの見たことのない姿を見たい

―― 主人公の得太役に山田孝之さんをキャスティングした決め手はなんだったのでしょうか。また、得太の妹・いぶきを演じた仲里依紗さんはいい意味で、これまでとは違った内にこもった性格の役柄だったのが印象的でした。

佐藤 山田孝之は本当に日本最高レベルの俳優だと、それは今も自信を持って思っています。舞台で僕がやった得太という役を映画で主役にしようと思い、脚本を書き換えて「じゃあ、誰を得太に?」と考えたときに、やっぱり孝之がやってくれたらいいなという思いがありました。

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 得太は、舞台では僕に当て書(※演じる俳優を先に決め、俳優に合わせて脚本を書くこと)しているんですけど、要するに頭が悪くて、気が小っちゃくて、そのくせ、よく吠え、でも泣き虫で……という、もうどうしようもないチンピラ。そういうのを孝之にやってほしかったんですよね。

 孝之も里依紗ちゃんもいろんな役をおやりになっていますけれども、孝之はあそこまでどうしようもないクズみたいな役を演じているところを見たことがなくて、里依紗ちゃんもあそこまで精神的に追い込まれて病んでいる役というのは見たことがなかったので、2人のそういう演技を見てみたかったんです。

 最近、夜中に酔っ払ったときにTwitterで「僕はやはりとにかく俳優の良い芝居が見たいんだ」というだけのツイートをしたことがあって。自分でもつぶやいたことを覚えていないんですけど、でもね、監督する場合でも、脚本を書く場合でも、大好きな俳優たちの「こんなところが見たい」だとか「あんな芝居が見たい」という思いでやってるし、幸運にも「はるヲうるひと」ではそういうキャスティングができたんですね。

―― 最適なキャスティングだったと。

佐藤 ネタバレになるので、どのシーンだというのは明かせないんだけど、孝之はオファーを受けたあと、あるシーンについて「何度読み返しても魂が震えます」というメールを送ってきたんです。

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 孝之って、「魂が震える」なんていうワードをそんなに言う人じゃないんです。なんちゅうの、もちろん内にはものすごく熱いものを秘めているけど、それを表に出さない人。そういう人が「魂が震えます」というメールをくれた。

 僕は舞台で得太を演じていたので、孝之が「何度読み返しても魂が震える」と書いたシーンがどんなシーンか、得太がどんな状況に追い込まれているかを知っている。孝之がメールしてきてくれたことで、「はるヲうるひと」を映画化するというある一つの勝負に勝てるかもしれないなと、そう感じましたね。

 坂井真紀ちゃんなんかも、これ言ったら本人に怒られるかもしれないけど、普段は割と毒舌なんです。でも、本当にもうはっきり僕の目を見て、「この脚本は面白い」と言ってくれた。

 そういう感じで、皆が僕の書いた脚本に乗ってくれたし、賭けてくれたし「この作品を絶対に良い作品にしよう」という思いで芝居をやってくれました。撮影期間中、撮影終わりで飲み屋に行ったときに「俳優が乗ってくれているのを感じるよ」と孝之に言ったら、「いや、二朗さん、スタッフもですよ」と言ってくれて。スタッフも含め、皆が良い芝居をする、それを見る。そうしたら「これは良い作品になるな。自分もやらなきゃ」という感じで相乗効果でどんどん皆が一つの方向に向かった撮影期間だったと思います。

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