ドジっ子“キョンシー”との優しい交流 同人誌マンガ『レンタルキョンシー』が描くファンタジックな日常:司書みさきの同人誌レビューノート
免許1枚でキョンシーを使役できる世界。
かぼちゃのランタンに、魔女とおともの黒猫……そんなディスプレイがあちこちで見られるようになってきました。不思議なものたちが行き交う一夜、お菓子や仮装で盛り上がるハロウィーンもすっかりなじんできましたね。
今回は、オリエンタルなよみがえりの者、キョンシーとの交流をふんわりファンタジックに描いた同人誌です。
今回紹介する同人誌
『レンタルキョンシー』A5 42ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:なかぢま
キョンシーを免許で使役する世界
主人公の“ぼく”がある日、「じいちゃん 受かってる!」と思わず叫んで合格を告げたのは、「キョンシーを使役できる免許」でした。運転免許証のようなカードを手に、“ぼく”は早速専門店に、キョンシーのレンタル手続きに向かうのです。日常生活にぽこんとホラーな要素が入って、それ以外は何の変哲もないような日常がコミカルにマンガで描かれてゆきます。
本文では、免許の条件も、キョンシーがどのような状態なのかも詳しくは解説されません。けれど、レンタルショップで無造作に並べられた「検品前」のキョンシーたちの様子、店員さんに尋ねられるのは「使用」の目的……と、言外に生物ではないことが読み取れるようになっています。作中のキョンシーは歩き、関節も曲がり、動き、働くことができるようですが、やはり生身ではない存在なのです。
生きる者と生きていない者の交流をナチュラルに描く
実はこの世界では、キョンシー免許はなかなかの難関のようなのです。キョンシーと歩いていると「すごいね」といわれて誇らしい“ぼく”。でも実は、彼のうちにやってきたのは、片付け苦手、お茶はこぼす、歩けば転ぶというドジっ子キョンシーだったのです。最初はキョンシーを連れ歩く優越感に満たされていたはずだったのに、それはキョンシーをうまく使いこなせないいら立ちに変わっていきます。物言わぬキョンシーに語り掛け、反応を見、感情を高ぶらせる様子に、読んでいるこちらも、いつのまにか生きる者と生きていない者が自然にまじりあう世界の中に入り込んでいきます。
境目のあいまいな世界。夕暮れに包まれる余韻を感じて
やがて彼らは少しずつ、優しい交流の片鱗(へんりん)を見せ始めます。言葉のないキョンシーのしぐさからやりたいことを知ろうとし、問い、やりとりを繰り返す姿は、やっぱりどこまでも日常的で、かわいらしく温かみを感じる絵柄とも相まって、ホラーらしさなんて全くありません。飾りひものついた襟の詰まった服や、細工の見事な窓、キョンシーにぴったりな異国の雰囲気もすてきです。そう、そんな温かくやわらかな世界で、生きる者が生きていない者をレンタルしているというアンバランスな恐怖が、丸ごとくるまれてしまうのです。
読み終わって、あらためて表紙をまじまじと眺めました。淡い黄色に色づいた街並みを歩く彼ら。キョンシーの足元に影はあるのか? ……見る人によって「影がある」とも「影はない」といえるような絶妙な位置に描かれています。あり得ないことを日常に紛れさせ、あいまいになじんでいく不思議にやわらかな余韻は、秋の夕暮れによく似合うような気がしました。
サークル情報
サークル名:メトロ
Twitter:@uhouho_01
pixiv:https://www.pixiv.net/users/54131824
入手できる場所:BOOTH(※10月30日まで)
今週の余談
お月見のお団子、ハロウィーンにはかぼちゃ料理など、行事にはおいしいものがつきものですね。この本に出ていたチョコレートも、これからの寒い季節にひときわおいしくなりますね。季節ごとのおいしいもの、楽しみです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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