レビュー

製造業者が「コマ」でガチ対決 世界大会優勝者が解説する同人誌『全日本製造業コマ大戦のコマが見たい!!』司書みさきの同人誌レビューノート

公式戦でも負けたらコマを取られるシビアな世界。

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 2022年のお正月はどんな風に過ごされましたか? おいしいものを食べたり、のんびりしたり……くつろぐときも、ふと耳にする音楽が和楽器だったりと、この季節は伝統の習慣に触れることも多くなりますね。今回の同人誌は、古くから伝わる遊びの一つとして紹介されることも多いコマ回しの、新たな展開の一端を伝えるご本です。

今回紹介する同人誌

『全日本製造業コマ大戦のコマが見たい!!』A5 28ページ 表紙カラー・本文モノクロ

著者:テラシマ


明るいオレンジ色が元気! つなぎ姿もかわいいです

全日本製造業コマ大戦って何?

 こちらのご本は「全日本製造業コマ大戦」で使われたコマを紹介する同人誌です。全日本製造業コマ大戦は、全国の中小製造業をはじめとした製造業者の方々が、自作したコマを持ち寄って戦う大会とのこと。企業以外でも、一般や学生の出場も可能な場合もあり、地方大会、世界大会、子ども大会、高校生大会も開かれているのだそうです。

 ご本では使用するコマの大きさ、コマを回す土俵、回し方などの基礎情報と、実際に戦いに参加したコマを中心に20個のコマの写真が掲載、またそのうち9個については解説が添えられています。

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 白黒の写真ですが、金属製のコマはどれも鈍く光る質実剛健なかっこよさが感じられます。大会では土俵で長く回っていた方が勝ちとのこと。そのためには重さや、相手を土俵外に弾き飛ばすアイデアもポイントになるようで、直径2センチに秘められたさまざまな工夫が見えてきます。


コマ大戦の基礎知識からご紹介

驚愕の総取りルール! 世界大会優勝者がコマを読み解く

 掲載されているコマの多くは、ご本の作者さんが手元にお持ちのものだそうです。作者さんはなんと世界大会で優勝した経歴の持ち主。でもそれにしてもこの種類、あまりに多いのでは? と不思議に思っていたら、実は全日本製造業コマ大戦の大会では、勝ったら相手のコマをもらえるというルールがあるとのこと! 負けたらコマは相手のもとにいってしまうのは、ベーゴマやメンコを思わせますが、世界大会に出るような磨き上げられたコマも手放すことになるなんて。作者さんが、世界大会優勝の過程で出会ったたくさんのコマをじっくり観察できる環境を生かして、コマの強さ、戦い方を読み解いていきます。

 コマといわれてイメージしやすいスタンダードな形から、どうやって回すの? と思わず問いたくなる、ただの円柱に見えるコマもあります。しかしそんなコマも「取っ手を無くすことで、おもりの高さを制限いっぱいまで大きくし、重さを稼いだ攻撃型」との解説で、「おお……この無骨(ぶこつ)さは内面の闘志の証だったのですね!」と気付かされます。さらに回し方で「胴体を持って指を弾く要領で回すのだが、非常に力を要求されるコマになっている。回すには筋トレは必須」と、プレイヤー側の身体能力にも言及し、このコマたちは、素材や設計の知識と精密に作り上げる技術、そしてそれを回す人も自らの体力を磨き上げて臨む、心技一体の大会で戦うのだと伝わってくるんです。


優勝コマの詳細、そして土俵のフチで華麗に相手の攻撃をかわす雄姿も!

ストイックさからにじむ、戦うコマへの情熱

 本文ページは白黒で、レイアウトは写真部分と文章部分にすっきりとわけられています。また、解説は無く、写真だけのコマもあります。そんな構成に、全体の見やすさと同時にストイックさを感じました。大き目な写真でコマの姿を見せながらも、添えられているのは特徴と重量についてで、制作者名や入手時期などには触れられていないのは、目の前のコマを分析する方に注力されているからでしょうか。短い文章の中に良いところばかりではなく弱点も考えてみる解説、細かな傷がついているのが分かる写真といったページから、真っすぐにコマと向き合うまなざしが見えるようです。

 手元に獲得したコマを所有するだけでなく、読み解き、知り、そして広くみんなに公開するためにご本にされるのは、なかなかに手間のかかることだと思います。回って戦うコマが、いまは静止した写真と文字で静かに一冊の本になっています。けれど、そこはコマを作った人、戦った人の情熱が収められていました。

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不思議な形も解説から戦い方が見えてきます。かっこいい!

サークル情報

サークル名:こましん

Twitter:@ShinsyuKoma

入手できる場所:とらのあな

今週の余談

 コマは木製のイメージでしたが、金属製のコマの奥深い世界もあるのですね。研ぎ澄まされて戦うかっこよさ、観戦も楽しそうです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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