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“絶対悪”を描かなかった「トロピカル~ジュ!プリキュア」は1年間、何と戦ってきたのか?サラリーマン、プリキュアを語る(1/2 ページ)

「プリキュアは堕落している」と語る土田豊SD、その真意はどこにあったのでしょうか。

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 「トロピカル~ジュ!プリキュア」のシリーズディレクターである土田豊さんはこの作品の監督を引き受ける前に、「プリキュアは絶賛、堕落(だらく)中である」と感じていた、と語っています。

 プリキュアが堕落している、とはどういうことなのか。そしてそんな監督の元、「トロピカル~ジュ!プリキュア」はこの1年をかけて子どもたちへ何を伝えてきたのでしょうか?


第45話ではファンがあ然とする驚愕の新技「トロピカルパラダイス」が披露されました。

kasumi プロフィール

プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。

「プリキュアは絶賛、堕落中である」

 「トロピカル~ジュ!プリキュア」のシリーズディレクター(監督、以降SD)の土田さんは「プリキュアは絶賛堕落(だらく)中」だとアニメ誌のインタビュー内で語っています。

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私が「プリキュア」シリーズを俯瞰で見た時に思い浮かべるのが、「ウルトラ」シリーズのデザイナー成田亨さんの言葉です。
「新しいデザインとはシンプルなものであり、人はそれができなくなると複雑化させて堕落する」という意味のことをおっしゃっています。
これは「ウルトラ」同様、長期シリーズであるプリキュアにも(キャラクターデザインのことではなく総合的に)当てはまるでしょう。
「プリキュア」シリーズはスタッフの意識の如何に関わらず、絶賛堕落中だと私は思っています。
『トロピカル~ジュ!プリキュア』特別増刊号 アニメージュ2022年1月号増刊(徳間署書店)土田豊インタビュー(P25)太字は著者による

 ウルトラシリーズのデザイナーである成田亨さんの言葉を借り、「新しいデザインはシンプルなもので、それが出来なくなると複雑化し堕落してくもの」で、プリキュアシリーズも同様に堕落している、と言及しています。


最終決戦に臨む「トロピカル~ジュ!プリキュア」の5人

 確かに現在のプリキュアシリーズは「シンプル」とは程遠く、デザインも複雑化、内容的にもスポンサーや親御さんの意向、世間の風潮までが複雑に絡み合い、年々「新しい要素」が増えていき複雑化しています。

 それを「堕落」と表現するのであればプリキュアシリーズは「堕落」しているのでしょう(個人的には「進化」だとは思いますが)。

 しかし、土田SDは、その閉塞感が漂う「堕落」は自分では打破できないとしながらも、目新しさがなくても「最大限に面白いものを創ろう」と思い、「トロピカル~ジュ!プリキュア」のSDを引き受けたと語っています。


メイクで気分を上げるという要素のあった「トロピカル~ジュ!プリキュア」

その中心に近い所に立たされた時に、「新しいプリキュアを作れるか?」「堕落を打破できるのか?」というと、少なくとも自分には難しい。
制約が多い中、細かい部分で新鮮味を探るという、閉塞感漂う仕事になることは目に見えていました。
しかし、結局は「面白いかどうかが」問題です。大枠で新しさがなくても、面白くすることはいくらでも可能。ならばやってみようと思いました。
『トロピカル~ジュ!プリキュア』特別増刊号 アニメージュ2022年1月号増刊(徳間署書店)土田豊インタビュー(P25)太字は著者による

 「制約」を十分に理解した上で、制約の中でとにかく「子どもたちに面白いものを届けよう」という思いで作られたのが「トロピカル~ジュ!プリキュア」だったのです。

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 そんな「トロピカル~ジュ!プリキュア」は、この1年をかけて何を描いてきたのでしょうか?

「絶対悪」を描かなかったトロプリ

 (※この項以降、「トロピカル~ジュ!プリキュア」終盤の展開についての言及があります)

 「トロピカル~ジュ!プリキュア」では「絶対悪」が描かれませんでした。敵組織はアットホームな家族のように描かれ、ラスボス「あとまわしの魔女」も個人の問題を後まわしにしていただけで悪事を働いていたわけではありません。「最後に裏切る黒幕なのでは?」と一部ファンから疑われていた執事バトラーも純粋な忠臣でした。

 プリキュアシリーズでは「悪いことをした敵」が改心することは良くありますが、「トロピカル~ジュ!プリキュア」は、そもそもの「絶対的な悪者」が存在しない世界だったのです。


敵組織も家族のように描かれた「トロピカル~ジュ!プリキュア」

 「あとまわしの魔女」の前身である「破壊の魔女」は「世界を破壊するためだけに生まれた存在」でした。作中では「われわれには理解できなくても、ただそういう風に生まれた存在」として描かれます。

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 悪意を持って世界を破滅させようとしているわけではなく、そういう風に生まれたからそうしているだけなのだ、としたのです。

 (これは「そういう風に生まれてきただけの存在を、無理に理解しなくてもいいからそのまま受け入れよう」)というメッセージにも聞こえます)

 「絶対悪」の存在しない世界。ではプリキュアは何と戦ってきたのでしょうか。それが描かれたのが第44話「魔女の一番大事なこと」でした。


キュアオアシス(左)と、あとまわしの魔女(右)には悲しい過去がありました
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