連載

「スマイルプリキュア!」10周年 震災の翌年、日本中を笑顔にしたシリーズで「追加プリキュア」が出なかった理由とはサラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)

10周年を迎えた「スマイルプリキュア!」。あのとき何が起きていたのかを振り返ります。

advertisement
前のページへ |       

追加プリキュアの重要性

 そのキーになるのが「追加プリキュア」です。

 2009年「フレッシュプリキュア!」以降のシリーズでは、毎年7月に追加プリキュアが登場し、番組と市場を盛り上げ、子どもたちへの興味を引き続けてきました。

 「スマイルプリキュア!」では追加プリキュアは登場せず、代わりにフォームチェンジ(プリンセスフォーム)が導入されましたが、やはり新しいプリキュアがいないと1年を通して玩具の購買につなげていくのは難しかったようです。

advertisement

「スマイルプリキュア!」では追加プリキュアは登場せずフォームチェンジとなった(画像はAmazon.co.jpから)

 「スマイルプリキュア!」は逆説的に追加プリキュアの商業的な重要性を再認識させることとなったシリーズとなり、以降のシリーズでは初夏に追加プリキュアが必ず登場するようになりました。

 (ただ最終的な2012年度のバンダナムコのプリキュアシリーズトイホビー売り上げは106億円と、歴代シリーズの中でも5本の指に入る程の売り上げであり、そのシリーズ人気の高さが伺えます)。

追加プリキュアが出なかった理由

 では、なぜ「スマイルプリキュア!」では「追加プリキュア」が登場しなかったのでしょうか?

 「スマイルプリキュア!」のプロデューサーの一人である東映アニメーションの梅澤淳稔さんはコンプリートブックのインタビューで下記のように触れています。

「フレッシュ」、「ハーキャッチ」、「スイート」では物語中盤でプリキュアが増えましたが、今回は最後まで5人のままでした。
この3作でプリキュアが増えたのは、私がやりたいと思っているテーマを凝縮して浮きぼりにするキャラが必要だったからなんです。
例えば「フレッシュ」でいえば、テーマは「幸せとは何か」だったのですが、プリキュアにも敵にもそれぞれの思う幸せがある。そのままだと平行線にしかならないので、どちらが本当の幸せなのかと悩むキャラクターとしてせつな(キュアパッション)を登場させ、彼女はプリキュア側の幸せを選んだので、プリキュアが増える形になりました。
『スマイル』に関しては,テーマが「みんなで力を合わせる」ことでしたし、そのことに関して悩むキャラはいなかったので、追加の必要はありませんでしたね。
『スマイルプリキュア!コンプリートファンブック』(学研ムック)P94

 追加プリキュアは、作品のテーマを浮き立たせる存在なのです。

advertisement

 「スマイルプリキュア!」の「みんなで力を合わせる」というテーマは、5人で完結しているために追加プリキュアを出す必然性がなかったのです。

 ある意味、東日本大震災により「みんなで力を合わせる」というテーマになったからこそ追加戦士が出なかった、ともいえるのでしょうね。


「スマイルプリキュア!」は5人でテーマが完結していた(画像はAmazon.co.jpから)

キュアマーチは紫色になる予定だった?

 そういった意味でも「スマイルプリキュア!」は作家性が強く出ていたシリーズでした。

 おそらく玩具会社的には要求されたであろう追加プリキュアを、その作品テーマのために登場させなかったのもそうですが、子どものマーケティング的に重要な「色」の要素一つをとっても強い作家性が出ています。


緑川なおが変身するキュアマーチ(画像はAmazon.co.jpから)

 例えば、キュアマーチは子どもに鉄板の人気色「紫」になる予定だったのが、全体の色のバランスから「緑色」に変わりました。

advertisement

色の話になりますが、実はマーチ(にあたるキャラクター)は企画当初は緑ではなく紫だったんですけど、キャラクターが並んだ時の全体的なイメージに「明るい虹色感」が欲しかったので、緑に変えさせてもらいました。
髪型も色合いも、一つ一つで見るのではなく、5人揃った時の全体のトータルバランスで作らなくちゃいけないんです。
『アニメージュ』2012年06月号(徳間書店)P45

 またキュアサニーが、これも子どもに鉄板人気の「赤色」ではなくオレンジ色のプリキュアになったのは、スーパー戦隊のレッドのようなリーダーと間違えられないためだったりと、アニメ製作者サイドの思惑が強く出ていた作品だったといえます。

サニーのイメージカラーが赤ではなくオレンジなのは主役がハッピーであることをブレさせないためです。赤を入れると誰が主役か一瞬迷うのでサニーは明確にオレンジにしました。
『スマイルプリキュア!コンプリートファンブック』(学研ムック)P83

 さらに、「スマイルプリキュア!」は一見キャラクターの魅力で引っ張っていく作風にも見えますが、そのシナリオにも作家性が強く出ていました。

 後に「Go!プリンセスプリキュア」(2015年)を手掛ける田中裕太さん演出の第36話「熱血!?あかねの初恋人生!!」(いわゆるブライアン回)のラスト、日野あかねが空港へと走るシーンはシリーズ屈指の名エピソードですし、「トロピカル~ジュ!プリキュア」(2021年)のシリーズディレクターとなる土田豊さんが演出を手掛けた「修学旅行回」や「ミエナクナ~ル回」など、個性的な演出が多くのファンを魅了しました。


青木れいかが変身するキュアビューティ(画像はAmazon.co.jpから)

 プリキュアでガチのロボットが登場する第35話「やよい、地球を守れ!プリキュアがロボニナ~ル!?」などハチャメチャに楽しいお話があると思いきや、第18話「なおの想い!バトンがつなぐみんなの絆!!」の衝撃的なラスト、本気で保護者を泣かせにきた第19話「パパ、ありがとう!やよいのたからもの」など、大人にもグッとくるお話も多々あり、演出面においても、「楽しい作風」と「琴線に触れる作風」の緩急差も魅力的なシリーズとなっていたのです。

日本中を笑顔にしたプリキュア

 震災の翌年、暗く沈んだ日本を笑顔にした「スマイルプリキュア!」。

advertisement

 5人のプリキュアの魅力はもちろんのこと、毎週繰り広げられた「キュアピース変身のじゃんけん」、日野あかねの淡い初恋、緑川なおの家族愛、そして青木れいかの名言「寄り道、脇道、回り道……しかしそれらも全て道!」。


画像はAmazon.co.jpから

 キャンディ、ポップら妖精たちの魅力、ウルフルン、マジョリーナ、アカオーニら3幹部の人気まで、「スマイルプリキュア!」の魅力は枚挙にいとまがありません。

 日曜日の朝、たくさんの子どもたちがプリキュアと一緒にエンディング「イェイ!イェイ!イェイ!」を踊り、まさに震災後の日本を笑顔にしたのです。

 一方で追加戦士が出ないと関連商品の売り上げが失速してしまう、などの課題も再度浮き彫りにし、以降のシリーズでは必ず追加戦士が登場するようになるなど、後のプリキュアシリーズに大きな影響を残したシリーズともなりました。

 基本的には、1話完結で楽しく明るく見られるシリーズとなっています。

advertisement

 スマイルプリキュア10周年。

 もし、あなたが落ち込でしまったときは「スマイルプリキュア!」を見てみてはいかがでしょうか。きっとウルトラハッピーになれますよ。


 現在放送中の「デリシャスパーティプリキュア」は、プリキュアシリーズでは初のAmazon Prime Video、NETFLIX、dアニメストアほか各種見放題配信サービスでも見逃し配信中です。

「デリシャスパーティプリキュア」
毎週日曜8時30分より
ABC・テレビ朝日系列にて放送中
(C)ABC-A・東映アニメーション

関連キーワード

プリキュア | アニメ | 東映

前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

記事ランキング

  1. 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  2. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  3. 海で“謎の白い漂流物”を発見、すくいあげてみると…… 2億1000万再生された結末に「本当によかった」「ありがとう」【チュニジア】
  4. スーパーで売っていた半額のひん死カニを水槽に入れて半年後…… 愛情を感じる結末に「不覚にも泣いてしまいました」
  5. 難問の積分計算をホワイトボードに書き置きしておいたら……? 理系大学での出来事に「かっこいい」「数字でつながる感じいいな」の声 投稿者にその後を聞いた
  6. 「うおおおおお懐かしい!!」 ハードオフに3300円で売っていた“驚きの商品”が140万表示 「ガチのレアモンや……」
  7. 夫妻が41年ぶりに東京ディズニーランドへ→“同じ場所”での写真撮影時に「キャストの粋なサポート」明かす
  8. 「大企業の本気を見た」 明治のアイスにSNSで“改善点”指摘→8カ月後まさかの展開に “神対応”の理由を聞いた
  9. ワゴンに積まれていた“980円の激安デジカメ”→使ってみると…… まさかの仕上がりに「お得感がすごい」
  10. カマキリを操る寄生虫「ハリガネムシ」食べてみた 未知すぎる“衝撃的な内容”に震撼 「正気を疑う」「鳥肌立ったわ」