過激派ヴィーガンをハムに加工して売るヤバいフランス映画「ヴィーガンズ・ハム」レビュー(1/2 ページ)
マウント取り放題の知り合い夫婦も最悪(褒め言葉)だった。
10月21日よりヒューマントラストシネマ渋谷と池袋HUMAXシネマズで開催中、他劇場でも順次開催となる「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2022」で、「ヴィーガンズ・ハム」というフランス映画が上映されている。
ポスターには太った男を銃殺した夫婦がカメラ目線でニッコリ。そこに「人(ひと)狩り行こうぜ」というどこかのゲームで見たような気がしなくもないキャッチコピーが入っており……「ヤバいだろこれ」と思ったあなたは正解だ。劇中でやっていることはモラル的には完全にアウト、本当にどこかから怒られないかと心配になるブラックコメディーだったのだから。
とはいえ決して出オチではなく、不謹慎でドス黒すぎるギャグはおもいきり笑えて、親しみやすく感情移入しやすいドラマもあり、何より最初から最後まで面白いエンターテインメントとして本当によくできているから困った。さらなる具体的な魅力を記していこう。
発想がひどい(褒め言葉)
本作のあらすじを簡単に説明すると「つい殺っちゃった過激派ヴィーガンの死体をハム加工して間違って売ったら人気商品になって連日行列ができちゃった☆」という、不謹慎が限界突破しているようなものである。
妻がそのことを「遺体を焼いたり捨てたりする手間が省けた! 完全犯罪よ!」と肯定したり、その人肉ハムを食べたお客さんが「あんなの初めて!」「病みつきになりそう!」など半ば中毒になりかける様は笑うに笑えない(笑ってしまったけど)。
言わずと知れた漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の63巻では、「人間の肉ってうまいのか?」という問答がされる一幕があるのだが、そこでは「オレたちがうまいって言っている肉は全て草食動物の肉なんだよ」「つまり結論ッ! 人間は肉食ってるからまずいんだ」などと不思議と説得力のある理論が打ち出される。裏を返せば「肉を食べないヴィーガンの人肉はうまい」ことになるのでは……と思ったものだ。本作はそんなぞっとしない思いつきを地で行く内容となっている。
そして、その夫婦の連続殺人鬼ぶり、過激な行動がエスカレートしていく様こそがエンタメとして面白い。殺人に至るまでのトラブルや「バレてしまうかも」というハラハラが存分に描かれ、殺人とは違うとある犯罪行為にチームで挑む場面もドキドキする。何より人狩りしていく様をノリノリの音楽でテンポ良く見せていく様は楽しく思えてしまうし、伏線を見事に回収したカタルシスのあるクライマックスも待ち受けている。
やっていることが映画史上でもトップクラスにひどいにもかかわらず、ノリが妙に軽く、エンタメとしてうまく作られているため、ついつい楽しく見れてしまう。そうして自分の倫理観が揺さぶられることに、良い意味で刺激を覚える内容でもあるのだ。
人生どん底状態の肉屋夫婦
連続殺人鬼と化す夫婦が「そうなる」までの過程が存外しっかり練られており、ドラマとしても筋が通っている(かどうかは意見が分かれるかもしれない)ことも本作の長所だ。
まず、劇中の過激派ヴィーガンは肉屋にいきなり押し入ってペンキを投げつけ、「Vパワー!」と叫んで逃走する。しかも肉屋の主人はお肉に毎日愛情を注いでいる一方で、妻とはセックスレスの上に愛想をつかされていて、倦怠期を超えてもはや離婚寸前。さらに最悪なのは、絵に描いたようなマウントを取ってくる、知り合いの肉屋の婦人だ。
そのマウントとは、「ずっと肉を売る人生でいいの?」「私は病院を辞めてフリーよ。夫が毎月1万2600万ユーロ稼ぐからね」「この服400ユーロもする服なんだけど、あなたも誕生日プレゼントに普通の服でもいいからもらいなさいよ。50ユーロでもいいから」「別荘が欲しいわ。30万ユーロくらいかしら」などである。
その夫のほうもムカつく尊大な言動をしまくりで、マウントの具体例として教科書に載ってもいいレベル。「こいつらこそハムにされればいいのにな☆」と誰もが思うことだろう。
ともあれ、重要なのは主人公の夫婦が「過激派ヴィーガンに憎しみを募らせている」「お互いにもう愛情をなくしていて離婚寸前」「貧乏のため知り合いの肉屋の夫婦からはマウント取られ放題」というあらゆる面でストレスフルかつ人生最悪の状態だということ。過激派ヴィーガンをハムにして売ったら大繁盛というという異常な事態に「乗ってしまう」理由が嫌というほど描かれている、というわけだ。
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