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「動物の死体を厄介なものと捉えるのは、人間だけ」 大阪湾の迷いクジラ「淀ちゃん」の海洋投棄は妥当だったのか? 市・博物館・専門家に聞いてみた(2/4 ページ)

「死」に対して、どう向き合っていくのか。

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博物館「博物館の資料は飾って終わりではない」

 大阪市立自然史博物館は、1月19日、公式サイトにて標本化を希望した経緯を表明しました。マッコウクジラのオスとメスは形状が異なる上、博物館に展示しているマッコウクジラはメスだったことから、オスの標本の入手を希望したといいます。

発表文(画像は大阪市立自然史博物館公式サイトより)

 しかし、標本化には資金のみならず、埋葬をするための土地や重機などのコストがかかります。編集部が工程や日程、費用などについて尋ねたところ、次のような回答がありました。


 

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大阪市立自然史博物館: これまで当館が対処してきた鯨の骨の作業手順は以下のような工程を経ています。

 標本と言っても解体後、骨だけを研究者らの手によって取り出し、処理できる砂場などに埋めて1年程度で油の抜けたきれいな骨になります。土に深く埋めると数年以上かかります。

 これを掘り出し、洗浄して計測するすれば研究用標本としてはとりあえず完成です。半永久的に保管でき、研究用資料としても活用できます。クレーン付きトラックで運び込む費用、埋める場所(どことは言明できませんが博物館の所有地でなんとかなります)があれば数十万円でここまでは対処しています。

 しかし、これを生きていた形に鉄骨などを使って形に組み上げ、現在博物館で行っているように吊り下げて展示するとなると100万円単位の費用がかかります。また、これらの費用には解体までにかかる費用や切り落とした肉の処分費用は含めていません。


 

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 これだけのコストがかかるとなると、博物館単独で標本化を行うことは不可能です。博物館は調査によって判明する事柄や標本化の意義などを説明し、「一般財団法人 日本鯨類研究所」などと協力して、調査と処理の手順について自治体へ情報を提供しましたが、申請は受け入れられませんでした。

ナガスクジラの骨格標本(画像は大阪市立自然史博物館公式サイトより)
ナガスクジラの骨格標本(画像は大阪市立自然史博物館公式サイトより)

 では、クジラを標本にすることで、どのようなことが明らかになるはずだったのでしょうか。博物館によると、一般的には次のようなことが解明されるといいます。


 

大阪市立自然史博物館: 「歯による年齢の査定」「骨折の跡あるいは胃内容物や栄養状態など、死因に関係する要因」「生態系の頂点にいるクジラだからこそ分かる海の現状」などが解明されることを期待していました。

 胃内容物からは海洋プラスチックなどの問題だけでなく、何を食べていたのかを調べることができます。腎臓や肝臓、精巣などで健康状態や成熟、老化なども見ることができるでしょう。脂肪からは化学物質汚染の影響を、歯に含まれる微量元素からはどの海域でどのように育ったのかを調べることもできます。筋肉などのDNAからはこのマッコウクジラがどの海域の群れの出身だったのかを調べることができます。

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 そうしたクジラの生態が分かることで、「ホエールポンプ効果」など海洋生態系に大きな影響を与えるクジラの役割なども判明すると考えられます。

 実物標本と、そうした研究成果がセットで得られることで、市民が得られる驚き、興味関心はとても高いのではないかと考えていました。


 このように多くの学術的発見を見込んで、博物館は市へ埋設を提案しましたが、実際に下されたのは海洋投棄という判断でした。その決定について、博物館は次のように話します。

大阪市立自然史博物館の外観(画像は大阪市立自然史博物館公式サイトより)

 

大阪市立自然史博物館: 標本化作業を迅速に行うためには、まずは自治体がご理解をいただき、ゴーサインを出して日本鯨類研究所や関係機関の協力を得ることが必要ですが、今回は処理のプロセスへの合意、匂いを含めた懸念や迅速生、作業場所の確保などの面でご理解をいただけなかったという結論になってしまいました。

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 博物館の資料としての必要性、重要性を判断する以前での行政判断となり、結論は残念ですが受け入れざるを得ません。行政は住民への苦情対策なども重要な判断根拠ですし、科学だけのために行われているわけではないことも理解しています。

 対処に異を唱えているわけではなく、そのプロセスの中で博物館資料としての必要性は表明し続けていたので、博物館としての表明を関係機関との了承のもと公開させていただきました。

 今回のマッコウクジラに限ったことではありませんが、博物館の資料は飾って終わりではありません。そこが研究への、科学への、自然への入り口、興味関心の突破口になります

 博物館の基本的な姿勢として、今の大阪そして大阪湾の自然を日本を取り巻く海の生態系を記録し、解析して広く伝え、また将来世代に残すことが博物館の基本的な使命だと考えています。クジラだけではなく、動植物や化石も含め、それが博物館の資料収集の基本線です。これを示すための表明でした。

 沈下、海に還すということは弔い方の1つとして、大切な行為だと思います。その一方で、私たちが標本として残し、そこからさまざまなことを読み取り、クジラを、海を大切にするヒントを探すこともまた、大切な弔い方の1つだと考えています

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 今回、多くの方に、クジラの骨を標本として残そうと言っていただきました。いまだに残念がっていただく方も多くいらっしゃいます。そうした期待、ご理解は博物館として大事な財産だと思っています。

 私たちとしてはこうした声をはげみに、再びこうした事態が起きたときには関係各方面のご理解をしっかりと得て、迅速に処理できるよう、日常の活動とその成果によって、より幅広い理解形成にはげんでいくことが何よりだと考えています。


 

 沈下という判断は、研究という面から考えると大きな損失となりました。それでは、沈下という埋葬方法そのものが自然界に与える影響はどうなのか。博物館とともに大阪湾のマッコウクジラを調査した国立科学博物館の研究主幹・田島木綿子先生に話を聞きました。

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