「妻のイライラする態度が嫌」“先輩パパ”の不満まとめた資料が批判殺到で配布中止に 専門家が考える“炎上”した3つの理由(2/3 ページ)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さんが解説。
理由3:SNS上では情報は切り取られて拡散されること
メディアの尾道市健康推進課への取材によると、資料はこれから父親・母親になる人に向けて、先輩の父親・母親が育児に関してどのように思っているか知ることで、父親と母親の違いについて知ってもらう狙いがあったようだ(関連記事)。
実は、資料には「先輩ママ約100人の産前産後のママの気持ち」というページもあり、「夫のこういう態度(言葉)にイラッとした」というコーナーがあった。妊娠中の1位は「飲み会や趣味を優先させる」で、出産・産後の1位は「あくまでもマイペース」である。
これらを読んでイラっとする男性もいるかもしれない。しかし、精神的に大きな不安やプレッシャーを抱えるとされる妊婦が、前述のようなメッセージから受けるネガティブな影響に比べると、その心理的影響は小さいものだろう。
その結果、「先輩パパからあなたへ」の部分のみがクローズアップされ、それが広く拡散されて批判を浴びることになった。批判した人の中には、“先輩ママ”のページも存在することを知らない人も少なくなかったと考えられる。
自治体が“炎上”を防ぐために必要なこと
不安を抱える妊婦などにとって、すでに子育てをした人たちの声は貴重な情報となるのは間違いない。両親がお互いの立場に立って物事を考え、相互理解をしていくことも大切だ。そのような状況を踏まえての資料であったのであろうことは見当が付く。
資料はあくまでアンケート結果を載せただけ、つまり、人々の声を反映しただけのため、配布しても問題ないというのが市側の判断だったかもしれない。しかし、「統計調査結果なのだから、何でもそのまま発表して良い」というわけではない。また、“先輩パパ”の体験談や意見は、その人自身の個人的な経験に基づいており、それを一般的なものとして伝えることのリスクも考慮する必要がある。
問題点はこれまでに指摘した通りだが、簡潔に言うと、妊婦がどのような状況や心境で資料を受け取るのか、その想像力が欠如していたことが大きい。情報提供の際には、その内容がとりわけ対象読者にとってどのような影響をもたらすか、しっかりと事前に考えをめぐらせるべきだ。
具体的な予防方法としては、資料の内容作成に関与する多様なステークホルダーと協議をすること、配布対象となる人々の意見を取り入れるプロセスを設けること、多様な属性の人が制作に関わることなどが挙げられる。多様な属性の人が制作に関わる際には、誰もが自由に発言できるように心理的安全性を確保することも大切である。
さらに、配布前に試験的に一部の人々に内容を公開し、意見やフィードバックを収集することで、予期しない問題や誤解を事前に避ける手法も有効である。以上のような方法で、情報提供の際のミスや誤解を減少させ、より信頼性の高いコミュニケーションを目指すことが、今日の自治体には求められるのだ。
(文:山口真一 編集:上代瑠偉)
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