「映画プリキュアオールスターズF」公開 「手をつなぐ」「思いをつなぐ」「世代をつなぐ」20周年のプリキュアが問いかける「プリキュアって何?」:サラリーマン、プリキュアを語る(2/3 ページ)
「プリキュアとは何か?」をぜひ劇場で確かめてください。
プリキュアの原点は「アクション」である
まず言っておきたいのは、この映画、バリバリの「アクション映画」です。冒頭のキュアサマー、プレシャス、スカイの地上と空中を躍動する戦闘シーンから始まり、73分の間ずっとキレッキレのアクションが展開されます。プリキュアの原点は「アクション」である、ということを再認識させられます。実力派アニメーターが集結した、かっこいいアクションを堪能してほしいのです。
また、決して「無理に泣かせに行くストーリー」ではなく、ストーリー的には壮大なSFアニメとなっています。むしろガチのSFすぎて、大人が引くレベルでプリキュアがピンチを迎えてしまいますが。
「泣かせに行っていないのに、なぜか見た人のほとんどが泣きながら映画館を後にする」という稀有(けう)な作品となっていますが、この映画で「泣いた」という感想が多いのは、懸命に戦う少女の姿に感銘を受けたり、ファンが自分の思い出と対話して勝手に泣いているだけですので、プリキュアをあまり知らない人たちも安心してください。「アクションアニメ」のファンも満足するものと思います。
どんなお話なの?
(この映画は「プリキュア78人」全員が登場しますが、メインとなるのは「この8年間のシリーズから選抜された16人のプリキュア」となります。後半戦で78人が大集合しますが、残念ながら出番が短いプリキュアもいます)。
物語は2部構成となっていて、前半は16人のプリキュアたちが4つのチームに分かれ、それぞれがお城を目指していくロードムービーとなっています。
シリーズの垣根を越えたプリキュア同士の掛け合いが多く見られ、プリキュアファンは「こういうが見たかった!」と満足するでしょうし、プリキュアをあまり知らない方には「私が見ていない間に、こんな個性的なプリキュアたちが出ていたんだ!」ときっと驚くはずです。
特にバタフライチーム(大人チーム)、の「琴爪ゆかり」と「羽衣ララ」の出会いは、近年プリキュアの特徴の1つでもある「お互いが違うことを認め合い、少しずつ受け入れていく」を体現するような絡みとなっていて、長らくプリキュアを見ていなかった方には新鮮に映るかもしれません。
さて。前半の「これぞプリキュアオールスターズ!」といった、ファンの思いと同化するような、コミカルで和やかな物語を経ての後半戦は、まさに怒濤(どとう)の展開が待ち受けます。
ここからの「どんでん返し」と「プリキュアの戦い」は歴代プリキュア映画でも最大のものとなっています。ぜひ劇場でご確認ください。
やや「大人向け」なシナリオ構成にもなっていますが、お子様にも好評なようです。事実、僕の席の隣の女の子は、開始早々からブンブンとライトを振り回しながら熱中していましたし、帰りがけには「もう1回みたい!」といっていたのが印象的でした。
「つなぐ」物語
この映画のキャッチフレーズは「繋ぐ」。
それを象徴するかの様に本映画では意図的に「手をつなぐ」シーンが多用されています。プリキュア同士が手をつなぐことで物語が進行し、つないだ手が離れることで世界が分断されるなど「手をつなぐ」ことが一つの象徴として描かれています。
ゲスト妖精のプーカは、ある事情で「手をつなぐことを恐れている」キャラクターとして描かれ、同じくゲストプリキュアのキュアシュプリームとの関係性が、物語をけん引していきます。
この妖精プーカと最初に手をつないだのは、いったい誰なのか? そこにも注目なのです(個人的には「まさにこの人しかいないだろう」というキャラだったので大満足です)。
初代「ふたりはプリキュア」は手をつなぐことから始まりました。
そこから20年。手をつなぎ、思いをつなぎ、世代をつないできたプリキュアたちの集大成がこの映画なのではないかと思うのです。
妖精とプリキュアの物語
この映画のキーとなるのは、プリキュアの物語には欠かせない「妖精」という存在です。「プリキュア」と「妖精」の物語が濃密に描かれ、物語が進行していきます。
ゲストの「キュアシュプリームとプーカ」の関係性が「キュアグレースとラビリン」「キュアプレシャスとコメコメ」たちとの対比で描かれ、プリキュアにとって「妖精」とはどんな存在であるのかを浮かび上がらせていくのです。
そして後半戦にも、妖精たちは大きなお仕事をしますのでそこにも注目です。個人的にはトロピカル~ジュ!プリキュアの「何もしない事でおなじみの、あの妖精」の姿が見られただけでも大満足です。
プリキュアって何?
映画の中でプリム(キュアシュプリーム)は「プリキュアって何?」とキュアスカイたちに問いかけます。この「プリキュアって何?」が本作で描かれる、一番大きなテーマとなっています。
劇中、「何をもって、プリキュアはプリキュアたるのだろうか」という問いが根底に流れ続けます。製作者はこの映画を作る際に「プリキュアとは何か?」を徹底的に議論したといいます。
そのため、この映画ではこれまであえて触れてこなかった「プリキュアの深部」に大きく踏み込みます。「プリキュアとは何か?」を明確にするため、あえて劇中で「最後のプリキュア」という言葉まで使って、「キラキラでかわいい」「強くてカッコイイ」などといった表面だけ取り繕うのではなく、「子ども向けアニメーションとしてのプリキュア」の本質まで深く掘り進みます。
この映画のために「キュアシュプリーム」と「プーカ」という新キャラを用意しました。それはつまり、「キュアシュプリーム」と「プーカ」の存在こそが「プリキュアとは何か?」の答えにつながることに他なりません。
しかし、その問いの答えは劇中では明示されません。
ただ、たくさんのヒントが映画の中で提示されます。ラストシーンは「新しいプリキュアの未来」を象徴するものでもありました。
「可愛ければプリキュアなのか?」「強ければプリキュアなのか?」「そもそも、プリキュアは何をもってプリキュアなのか?」
映画を見終わった後には「きっと、プリキュアとはこんな存在なのだろうな」と一人一人の「プリキュア観」を持つことができるのではないかと思います。
(C)2023 映画プリキュアオールスターズF製作委員会
関連記事
プリキュア映画歴12年の筆者が教える、大人のプリキュア映画鑑賞法
第37話は映画との連動回。ビブリーちゃんのツンデレっぷりがかわいかったです。14歳の娘と、8年ぶりにプリキュア映画を見に行ったお話
2018年のプリキュア映画は、女子中学生をも劇場に呼び戻す力がありました。プリキュアが戦い続けてきた“表現の歴史” 過剰な自主規制を打ち破り進化を止めなかった20年
プリキュア20周年おめでとうございます。何が問題? プリキュアファンを毎年悩ませる「商標バレ」
プリキュアでも商標バレは毎年のように起こります(幸いにも2022年はまだ起きていません)。商業的に見たプリキュア20年史 隆盛と苦戦を繰り返しながら歩み続けた玩具戦略
プリキュアが20周年を迎えられたのも、ひとえに子どもたちが玩具を買ってくれたからなのです。ようやく会えるぞキュアヤムヤム 「デリシャスパーティプリキュア」1カ月の放送延期がもたらす商業的な影響とは?
まずは放送再開に向けて動いてくれた全ての関係者さまに感謝したいと思います。「おいしそうにご飯を食べる」「敵と一緒にごちそうさま」 デリシャスパーティプリキュアが子育て世代にも支持される理由
デリシャスパーティプリキュアで描かれる「ごはん」は本当においしそうなのです。プリキュアが歌い出した日 Perfumeの振付師MIKIKO先生が手掛けた「ドキドキ!プリキュアEDダンス」の衝撃
個人的には「ハピネスチャージプリキュア!」の前期ED「プリキュア・メモリ」も大好きなエンディングです。人魚のローラが「キュアラメール」に変身 「トロピカル~ジュ!プリキュア」で描かれた“足を得る”選択について
人魚姫の物語は足を得てからが本番なのです。「ヒープリは不遇だったと言わせるつもりはない」と語る悠木碧の思いに、僕たちができること
あらためて「ヒーリングっど プリキュア」は製作者に愛されている作品だと思いました。「なんだあの動きは?」「板岡錦だ!」 プリキュアがカッコよく動く、アニメーター板岡錦の世界
板岡錦さん、初の作画監督、おめでとうございます。全ての原画をたった1人で 「キラキラ☆プリキュアアラモード」第36話を支えた青山充という伝説
あきらさんが頭なでなでされる姿、かわいかったです!!14歳の娘と、8年ぶりにプリキュア映画を見に行ったお話
2018年のプリキュア映画は、女子中学生をも劇場に呼び戻す力がありました。プリキュア映画と「応援」の話 120%の力を引き出す「プリキュアがんばれー」
「映画プリキュアミラクルリープ」は5月16日公開になりました! 楽しみです!「応援なんて誰にでもできる」という正論に、プリキュアはどう立ち向かったのか? 「HUGっと!プリキュア」開始3カ月を振り返る
まだ4分の1が終わっただけなのにこの密度。2018年のプリキュアはとにかくすごいぞ。主人公がピンク髪でマスコットいて悠木碧……! シリーズ第17弾「ヒーリングっどプリキュア」が2020年2月スタート
あのピンクの髪の魔法少女が今度はプリキュアに。【訂正】星の次はハートだ! 「ヒーリングっど プリキュア」、ヒーリングアニマルと力を合わせ地球をお手当て!
「スタプリ」終了間近を惜しむ声も。娘に「実はわたし、プリキュアなの」と言われたとき 親はどう振る舞うべきか?
スタプリ第40話、「わたしは2年3組、羽衣ララルン!」もう本当に神回でした!(本編シリアスなときに、こんな内容で申し訳ない)。願いと祝福、新時代のプリキュア映画は子どもたちに何を伝えたのか? 「映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて」を見て
映画スタプリ、2日間で3回見に行くほどには最高の映画でした。心が温かくなります。2世代を取り込む「ハートキャッチ」の強さ 「NHK全プリキュア大投票」を初動のデータから予測
NHK全プリキュア大投票は「ランキング」を語るのではなく、「愛」を語るのです。「善悪はグラデーションで描く」 スター☆トゥインクルプリキュアが切り開く“新しいプリキュア観”
スター☆トゥインクルプリキュア、新しいエンディングが最高にカッコイイのでおすすめですよ。新プリキュア「キュアコスモ」に見る、追加プリキュアの“商業上の重要性”について
ネコ耳、ネコシッポ、ネコポーズ、舌をペロっと出す変身。子どもにも大人にも人気出そう!的確な描写に「弓道警察」も納得? 「スター☆トゥインクルプリキュア」の弓道描写がスゴかった
個人的には「弓道警察」は人の心が生み出した形而上の存在だと思っています。平成のプリキュアは、いかに“2度の危機”から復活したのか マクロ視点から振り返る
平成最後のプリキュア記事、気合入れて書いたら1万字を越えちゃいました。プリキュアも場合によっては“侵略者”となる 価値観の衝突を描いた「スター☆トゥインクルプリキュア」第8話がアツイ
「スター☆トゥインクルプリキュア」宇宙進出、本格始動です!「オヨ~」が口癖 宇宙人プリキュア“キュアミルキー”は2本の触覚かわいい 「スター☆トゥインクルプリキュア」2月を振り返る
「HUGっと!プリキュア」の最終回にも少し触れています。全人類がプリキュアになった日 「HUGっと!プリキュア」が示した「こうでなければならない」からの脱却
この記事は最終回1話前の第48話の時点で書いています。プリキュアはあと100年続く 「HUGっと!」から「スター☆トゥインクル」へ、1年の振り返りと“2018年の奇跡”
2018年のプリキュアの出来事を振り返りました。平成の特異点「ハートキャッチプリキュア!」 “キュアマリン”が今も愛され続けている理由
NHK全プリキュア大投票は「熱量」が可視化されたすてきなイベントでした!歴代プリキュア55人+αが勢ぞろい HUGプリ第37話「奇跡のBパート」で何が起きたのか
僕はその日、確かに「奇跡」を見たのです。プリキュアって今、何人いるの? 気になったので調べてみた結果
「プリキュアは何人いるのか?」問題は永遠に答えの出ない超難問なのです。「女の子同士が手をつなぐ」ことから始まったプリキュアが「男の子同士が手をつなぐ」までに至ったことに祝福を
「ふたりはプリキュア」から15年。当たり前のことが当たり前になる世の中に。3分に及ぶ「出産シーン」 「HUGっと!プリキュア」が子どもたちに伝えたかった“母の強さ”と”父の責任”
いつだって子どもに誇れる大人でありたいですよね。もう一度、新しいステージに 一発屋芸人を声優に起用する「HUGっと!プリキュア」が描く“再生の物語”
ダイガンさん、生きていて本当に良かった……。元クライアス社の3人が本当に楽しそうで何よりです。「子どもを持つことだけが、女性の幸せではない」を描いていく「HUGっと!プリキュア」のすごさ
キュアマシェリとキュアアムール……今年のプリキュアは何もかもが……すごい……尊い……。“13の数字”から見るプリキュア通算700回 一番多い色は? アルバムは何作つくられた?
「HUGっと!プリキュア」第15、16話がすごすぎて、思考が追い付かない……。「映画プリキュアスーパースターズ!」 僕が思う“ただ1つ”の残念な点と、それでもこの映画が最高な理由【ネタバレあり】
2018年のプリキュアの勢い、本当にすごいことになっている。悪の組織も「稟議」を通す時代 「HUGっと!プリキュア」のクライアス社が社会人をザワつかせる
「HUGっと!プリキュア」、育児の丁寧な描写が光ります。2018年「HUGっと!プリキュア」が神アニメになる5つの理由
「HUGっと!プリキュア」今から楽しみです。「キラキラ☆プリキュアアラモード」が大成功を収めた5つの理由
この時期はプリキュアロスと新しいプリキュアへの期待で複雑な気持ちになります。プリキュアは、平均15分50秒でラスボスを倒す
あと1回でキラキラ☆プリキュアアラモードが終わるなんて悲しい……。「妖精ペコリン」が「キュアペコリン」に 妖精がプリキュアになれる確率は何%なのか調べてみた
じゃあもう、リオ君もビブリーちゃんもプリキュアってことでいいじゃん。脚本家・坪田文は、なぜキュアマカロンの「弱さ」を描いたのか?
琴爪ゆかりさん、キラキラ☆プリキュアアラモードで「最も成長した」キャラですよね。自分に合ったプリキュアの見つけ方 2017年の「最も再生数が多かったプリキュア第1話」から考える
ここまで大差がつくとは思いませんでした。娘を、プリキュアにするために就くべき職業5選
サラリーマンにも希望はあります。歴代プリキュアの「決め技バンク」で一番長い技って? 実際にストップウォッチで測ってみた
ストップウォッチ片手に本当に測定しました。これは福音である 「プリキュア男子」という多様性についての考察
「プリキュア論」をどうしても書きたかったので、いつもと文の雰囲気が違います!「闇堕ち」の対義語は「光堕ち」? プリキュアで使われている謎の言葉
「光堕ち」という言葉がいつから使われだしたのか、調べてみました。「映画ハピネスチャージプリキュア!」の興行収入はなぜ半減した? 2014年の出来事から考える
映画キラキラ☆プリキュアアラモードが絶好調の今だからこそ、語るべきことがある。今までのプリキュア映画とは540度違う? 「映画キラキラ☆プリキュアアラモード パリっと!想い出のミルフィーユ!」レビュー
映画キラキラ☆プリキュアアラモード。とにかくね、ものすごい映画でした。プリキュア映画歴12年の筆者が教える、大人のプリキュア映画鑑賞法
第37話は映画との連動回。ビブリーちゃんのツンデレっぷりがかわいかったです。プリキュアが「手をつなぐ」意味とは?
プリアラ第35話レビュー。「2人はどうして友達なの?」への回答はあおいちゃんらしいものでした。プリキュア恒例の入れ替わり回は「自分らしく生きる」ことの意味を問う
猫になっても全く動じないゆかりさん、さすがです。ニチアサ改編でプリキュア人口が増える? 「さあ、プリキュアを始めよう」
「プリキュアの数字ブログ」の管理人・kasumiが、毎週プリキュアの魅力をお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.