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英老舗ギャラリー、パレスチナ・ハマス紛争に言及した中国人アーティストの展覧会を直前中止 決定は「ソフトな暴力」と批判(1/2 ページ)

アイ・ウェイウェイ「自己検閲はアーティストから重要な機会を奪い、多様な声を求める時代にとって痛恨の矛盾となる」

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 中国の現代美術をけん引してきた反体制派のアーティスト、アイ・ウェイウェイ(艾未未)が英ロンドンの老舗ギャラリー「リッソン・ギャラリー」で開催予定だった展覧会が直前でキャンセルになりました。現在も衝突が続いているイスラエルとハマスの紛争に関する投稿が理由とされていますが、ギャラリーとアイの主張は食い違っています。

長年中国政府の人権や民主主義への姿勢を公然と批判してきたアーティスト


展覧会のキャンセルを明かしたアイ・ウェイウェイ(画像はリッソン・ギャラリーのInstagramから)

 今回アイの展覧会キャンセルの原因となった投稿は、フォロワーの質問に答える形でポストされ、内容は以下のようなもの(現在は削除済み)。「ユダヤ人迫害への罪の意識は、時としてアラブ世界を相殺するために転嫁されてきた。経済的、文化的、またメディアへの影響力においても、ユダヤコミュニティーは米国で大きな存在感を示してきた。年間30億ドルのイスラエルへの援助パッケージは、何10年もの間、米国による最も価値ある投資のひとつとしてもてはやされてきたのだ。このパートナーシップは、しばしば運命共同体と表現されるものだ」と、イスラエルと米国の結び付きについて述べていました。

 ところがアイは11月14日に公開された英/米The Art Newspaper紙の記事で、この投稿によって展覧会が「事実上キャンセルされた」と告白。決定は「さらなる論争を回避することと、私自身の幸福のため」下されたとコメントしています。

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 一方ギャラリー側はこの出来事に関して、開催直前のキャンセルとなったものの、アイが投稿をしたのち、両者は長く「広範囲な話し合い」を行ってきたと主張。続けて「私たちは今が彼の新しい作品群を展示する適切な時期ではないということで合意に至りました。イスラエルとパレスチナの領土、また国際的なコミュニティーにおける悲劇的な苦しみを終わらせるためみんなが努力すべきときに、反ユダヤやイスラムフォビアと捉えられるような特性について議論する余地はないのです。アイ・ウェイウェイは表現の自由を支え、虐げられた人々を擁護することで知られており、私たちは長年にわたる彼との関係を尊重し、大切に思っています」と声明を出しています。なおアイの展覧会があらためて開催されるかについては「協議中」と現時点での明言をさけています。


過去アイ・ウェイウェイの展覧会を何度も開催してきたリッソン・ギャラリー(画像はリッソン・ギャラリーのInstagramから)

 しかし、ギャラリー側が声明を発表後の15日に公開された米Hyperallergic紙の記事でアイは、キャンセルについては展覧会開催数日前にギャラリーからメールで通知を受け取っただけと反論。「単に、私の展覧会をキャンセルするという彼らのメッセージを承認しただけです」と、ギャラリー側が主張する“広範囲な話し合い”の存在を否定しました。

 さらにアイは同紙に向け、「私が驚いたのは、表向きは民主的で自由な社会で、文化的表現を抑え込むため暴力的な手段が使われたこと」と皮肉を込めてコメント。「文化というものがソフトパワーのひとつの形だとするなら、これは声を封じ込めることを狙ったソフトバイオレンスという方法を表しています」と意見を述べました。

 そしてこれは自身だけに向けられた問題ではないと前置き、「社会が多様な声に耐えられなくなったとき、社会は崩壊の瀬戸際に立たされている」と主張。基本的に政治的な作品を展示することが多く、政治・文化と結び付いているはずのリッソン・ギャラリーが今回下した決断について、「自己検閲はアーティストからこの重要な機会を奪い、多様な声を求める時代にとって痛恨の矛盾となる」と批判しました。

 現在66歳のアイ・ウェイウェイは、文化大革命の時代に一家で新疆ウイグル自治区の労働改造所へ送られ、幼少期の5年間を過酷な環境で過ごしています。中国政府の人権や民主主義への姿勢を公然と批判し、2008年の四川大地震の際には、校舎の下敷きになった児童のリストを独自に調査・公開する活動でも注目の的に。2011年には“経済犯”として北京空港で逮捕され81日間勾留されました。活動家であり、社会・文化評論家でもあるアイの芸術表現にはその要素が多分に含まれていることで知られています。

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 今回のニュースが広がるとアイのSNSへは、「大量虐殺に反対することは反ユダヤではない。アイ・ウェイウェイ、あなたの活動に感謝します」「あまりの皮肉に驚く。中国で言論の自由のため戦い称賛されたアーティストなのに、今度は言論の自由のため戦ったら“支持者たち”から沈黙させられている」「リベラルは、あなたが中国政府を批判していたときは大好きだったけど、自分の周囲の不正を暴かれると好きではなくなるんだね」など、リッソン・ギャラリーへのシニカルなコメントが多数寄せられています。また、ギャラリーのInstagramアカウントには、批判的なコメントが数多く書き込まれています。

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