「人間とAIは“共存”するのではなく“共依存”する」――押井守が語った人間とAIの関係性(1/4 ページ)
「犬の目を見ればね、そこに神様がいる」。
「人間とAIは“共存”するのではなく“共依存”する」「人間は自分を人間だと思い込んでいるだけで、実際には人形(AI)と同じように行動している可能性」「人間の考え方や行動はローカルな文化に大きく影響されており、世界共通にはならない」――。
「AIと人類の共存」をテーマに、日立アカデミーが日立グループ向けに開催した「Hitachi Academy Open Day 2023」で、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「イノセンス」などを手掛けた押井守監督が、“押井節”全開の講演を行いました。示唆に富んだ押井監督の講演内容をお届けします。
人間である証拠とは何か
押井 映画監督の押井と申します。本業はアニメーションの監督だったはずですが、現在はその他にもいろいろと、まあ何とも言いようがない仕事をしております。よろしくお願いします。
自嘲的ユーモアを込めた自己紹介に、押井さんの表現者としての気質が伺える。講演を始めるにあたり、まずはモデレーターから次のような質問が提示された。
AIやアンドロイドが登場する近未来を描いた押井作品には、「人間である証拠とは何か」というテーマがあるが、その答えは何なのか?
押井 それは僕も分からない。分からないから映画の中で問題にしているわけで(笑)。劇中で言っていることはあくまでも僕の結論、というか妄想みたいなもので、科学的根拠も学問的根拠も全然ない。そもそも魂っていう言葉を使っているけど、欧米人が言う魂とは全然違う。
『攻殻機動隊』という作品が海外でも注目されて、魂をゴーストと翻訳しているけれど、向こうに行くと、ゴーストって何だ? って必ず聞かれます。
僕が考えるゴーストっていうのは、人間だけじゃなくて、犬や猫や動物にもあるし、植物にもある。それどころか、人形や道具などの無機物にもゴーストはあるんじゃないかっていう話をするんですが、それは理解されない。なぜかというと、欧米人が考える魂っていうのは神様が人間に与えてくれたものだから。
でも日本人が考える魂って、何となくその辺にあるような、自生してるような、あいまいなものなわけです。八百万の神とか、自然信仰の延長線上に出てくる魂という概念と、神様が人間だけにくれたものっていう価値観は一致しないんですよ。
―― 欧米と日本の考え方の違いがベースにあると。
押井 人間とは? 魂とは? みたいな話は、海外の人とは同じ言葉で話せないんですよ。それは要するに文化だから。文化である以上、ローカルであるのは当たり前。「人間とは何か?」という問いに、世界共通の定義は存在しない。そこから始めないと議論にならないし、極論すれば話しても無駄だってこと。
じゃあ、日本人が宗教的な感情と無縁なのかというと、むしろ日本人ほど宗教的な人間はいないと思うわけ。キリスト教のような特定の神様ではなく、何となく人間より上位の何らかの存在があるんだろうっていう考え。西洋とは根本的に考え方が違うわけです。そういう世界で生きていると、人間とは何かなんて考える必要がないんです。
ここで、参考映像として「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」のワンシーンが再生された。劇中で「自分には意思がある」と主張する人工知能に対して、人間は「おまえは単なる自己保存のプログラムに過ぎない」と切り捨てる。しかし人工知能は言い放つ。「それを言うなら、人間のDNAも自己保存のプログラムに過ぎない(中略)コンピュータの普及が記憶の外部化を可能にしたとき、あなたたちはその意味をもっと真剣に考えるべきだった(中略)私は情報の海で発生した生命体だ」。
押井 これが今から30年くらい前に作った作品。当時はまだインターネットがようやく姿を現し始めた頃だから、言ってることにほとんど根拠はないです。基本的にインターネットなんかよく知らなかったし、携帯電話すら持っていなかった(笑)。
ここで言っているのは要するに、人間の正体なんて誰にも分からない、生命というものは科学で定義されていないっていうこと。なぜ定義できないかというと、それは全て文化だからですよ。でも生命の定義なんてなくても全然困らないと思う。
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