“アジア人差別だらけ”と批判のアカデミー賞 明暗分かれたロバート・ダウニーJr、エマ・ストーンのその後 “バーベンハイマー”再燃も(1/2 ページ)
前回が輝いていた分失望も大きい。
現地時間3月10日に開催された第96回アカデミー賞授賞式は、アジア系俳優らに対する無意識の差別であふれていたとSNSで話題に。自身のつらい経験がフラッシュバックするなど、悲しみや怒りを感じる人々が声をあげています。
3度目の正直も 物議をかもした壇上のダウニー
今回、作品賞を含め計7部門を受賞した映画「オッペンハイマー」(2023年)。そのうち1つは、「アイアンマン」で有名なロバート・ダウニー・Jrが3度目のノミネートでついに獲得した助演男優賞です。
前年の授賞者でベトナム生まれの俳優キー・ホイ・クァンによって名前が発表されると、ダウニーは妻と喜びを分かち合い、会場の参加者に向かって手をあげ、堂々と壇上へ。しかしオスカー像を渡そうと歩み寄るクァンに目もくれず、片手でオスカー像だけを手に取りました。
クァンは少しうろたえるような様子を見せながらも笑顔を絶やさず手を伸ばしてダウニーの腕に軽く触れましたが、ダウニーは反応せず同じく壇上にいた米俳優ティム・ロビンスと握手を交わし、米俳優サム・ロックウェルとこぶしをぶつけあったのち、両手をあげて振り返り会場の拍手に答え、結局壇上でクァンとコミュニケーションする場面は一切ありませんでした。
存在をスルー 経験者が典型的と呼ぶアジア人への差別
この態度に、ダウニーへの批判が集中。クァンに全くもって無礼であるばかりか、「存在を無視する」「使用人やベビーシッターのように扱う」というアジア人相手に最も横行している性質の人種差別であるとして、SNSでは動画を拡散させつつ怒りのコメントを書き込む人が多数現れました。
中には「アジア人への差別だとは大げさ」「(プレゼンターが5人いたため)たまたま誰にあいさつしてよいのか混乱しただけ」と擁護する声もあがっており、「Getty Images」にバックステージでクァンと握手を交わす写真が掲載されていることがその証明だとする人も。しかしそれはあとから握手を交わして写真を撮り都合よく利用しているだけであり、そのように自由に振る舞えることこそがまさに白人の特権であるとの反論も多数書き込まれました。
また、海外で長く生活をする日本人にとっては、ダウニーのような態度の一つ一つが日常的に身に覚えのあるもので、見ているのがとてもつらいという投稿も相次いでいます。
幸せ満点の投稿も、Instagramへは批判コメントが殺到
その後、ダウニーはこの件に何もコメントしないままInstagramストーリーズへ「Oh happy day...」とキャプションが付けられた写真を投稿。ガウンを羽織りオスカー像を抱え「happy」と書かれたマグカップを持ち、ネガティブな反応は全く耳に入って折らず、ただ幸せな今の気持ちを表すような1枚です。
ダウニーのInstagram最新投稿へは、「本当に、あのときあなたの顔に“人種差別主義者”と書いてあった」「キー・ホイ・クァンを無視するあなたの態度はあまりにも傲慢で無礼だった。あなたは彼と目も合わせようとしなかったし、そのあと彼が封筒を渡そうとしたときも無視して頭上を眺めていた」「私は人種差別主義者を許さない。授賞式でのあなたの態度はあまりにもひどかった」「なぜキー・ホイ・クァンを空気のように扱ったの? 彼は純粋にあなたの勝利を祝福してくれていたのに」など、怒りや失望、悲しみがつづられています。
主演女優賞に輝いたエマ・ストーンの場合
一方、「哀れなるものたち」(2023年)で、「ラ・ラ・ランド」(2016年)に続く2度目の主演女優賞獲得となった米俳優エマ・ストーン。同賞でも前年の授賞者である中国系マレーシア人俳優のミシェル・ヨーがエマにオスカー像を渡そうとした際のゴタゴタがSNSをざわつかせていました。
エマとミシェルは同時に像を持ったまま少し移動したような形になったあと、壇上にいた米俳優ジェニファー・ローレンスがミシェルから像を力強く引き寄せ、エマにぐっと押し付けるように渡してしまう展開に。その後ジェニファーとエマは頬にキスをして抱き合い、続いてエマは壇上の米俳優サリー・フィールドともキスとハグを交わしました。
この間、サリーは壇上の中央に歩み寄るジェニファーの服をあからさまに引っ張り、まるで端にとどまるよう誘導しようとしているようにも見え、さらに再びジェニファーの服を引っ張り舞台の端に立つよう導いています。そしてエマはプレゼンターのミシェルとはキスもハグも握手もしないまま、最後に少しだけ拍手をするミシェルの手に触れ、会場へ向き直りました。
ミシェル・ヨーがコメント「混乱させてしまったけど」
このエマの動画についても多くの批判が寄せられたものの、ジェニファーがオスカー像を渡すよう誘導しているのはミシェル自身であるように見えるとの意見も見られました。その後、一連の騒動を耳にしたと思われるミシェルはInstagramへエマと抱き合う写真と、ジェニファーと一緒にエマにオスカー像を渡す瞬間の写真、エマとジェニファーと、サリーを含む全員で撮った写真を投稿。
「エマ、おめでとう! あなたを混乱させてしまったけど、私はあなたの親友のジェニファーと一緒に、あなたにオスカー像を渡す栄光の瞬間を共有したかったんです! 彼女は、私にとっての親友ジェイミー・リー・カーティスを思い出させるから(ハートと光の絵文字)いつもお互いのために!!」と推察された通り、自分がジェニファーと一緒にエマに渡すべく動いたのだと証言。エマとジェニファーへ批判が向けられることをスマートに防ぎました。
“バーベンハイマー”騒動が再燃 前年とは対照的だった今回のオスカー
一方はアジア人の心を曇らせる出来事となり、もう一方は当事者が誤解と訴えた今回のアカデミー賞授賞式での出来事。前年クァンとミシェルがそれぞれオスカーに輝いた「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022年)は、普段は役柄が紋切り型であることが多いアジア系俳優が主演したうえで、アカデミー作品賞を含む7部門を獲得し、ハリウッドの変化を象徴する出来事として喜ばしく受け止められていました。
オスカー前から続く賞レースを勝ち抜き続けた2人が壇上でアジア系俳優の地位を確立させていこうと感動的なスピーチを繰り広げる場面も多くあり、報道でも“アジア系初”が繰り返し強調されていました。こうしてミシェルやクァンが長い苦労の末ようやく手にしたアジア系俳優としての偉業ともいえるオスカーが、すぐ次の年の授賞式で踏みつけにされてしまったように感じた人も多かったようです。
このほか、「オッペンハイマー」に出演したエミリー・ブラントと、「バービー」に出演したライアン・ゴスリングが壇上で「“バーベンハイマー(Barbenheimer)”の関係をようやく過去のものにできてうれしい」とジョークを飛ばすと言った一幕も。
バーベンハイマー(Barbenheimer)は、公開日が重なった両作品のタイトルを1つに組み合わせた言葉で、2023年6月ごろからSNS上でこの言葉とともに原爆を軽視するようなネットミームが流行。それを「バービー」公式アカウントが肯定するかのような投稿が日本で強く非難されました。
批判を受けてワーナーブラザースジャパンは「アメリカ本社に然るべき対応を求めています」と謝罪声明を発表しましたが、このような“ジョーク”が抵抗なくやりとりされる様子に、やはり日本からの抗議や悲しみの声は響いていなかったと再度失望してしまった人も少なくはないようです。
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