「スプラッシュ・マウンテン」になぜ消滅の噂が? 大人気アトラクションをめぐる日米の動向を知る(3/5 ページ)
しかし、それは今ではない?
ただ、それを実行するには、相当な時間がかかるであろうという情報も合わせて記しておきたいと思います。その兆候は、2024年8月に開催されたディズニーファンのためのイベント「D23」で発表されました。それが、冒頭に紹介した謎の模型写真です。
“究極のディズニーファンイベント”と称して開催された公式のイベント「D23」では、世界のディズニーパークに関する、将来の計画を大々的に発表しました。その中で個人的に大注目したのは、東京ディズニーリゾート……ではなく、遠くのディズニーランド・パリにおける新発表です。
ディズニーランド・パリの第2パーク「ディズニー・アドベンチャー・ワールド」(現:ウォルト・ディズニー・スタジオ・パークが名称変更する予定)では、新たなアトラクションとして、映画「ライオン・キング」をテーマにしたボートライドを新設することを発表しました。アニメ版をベースとし、最後はプライドランドの急流にボートが落下するというイメージのアートと、会場にその模型が公開されていました。
見ていただくとお分かりのように、明らかにベースとなるハードウェアは「スプラッシュ・マウンテン」そのものといえます。が、ディズニーランド・パリにはこれまでスプラッシュ・マウンテンが存在していた訳ではなく、驚くべきことにこれをゼロから作り出すことになります。
ここからはあくまで筆者の私見でしかありませんが、この発表を聞いたときに違和感を覚えるとともに、これはもしかしたら何かを再利用した案なのでは? と感じました。
あるパーク向けに計画をしたものが流れてしまったとき、それが他のパークで現実になることはこれまでもいくつかあり、例えば当初東京ディズニーシーを拡張しようとした「北欧」をテーマとした新テーマポート構想(2015年)の基本構成は、ほぼそのまま香港ディズニーランド、そしてディズニーランド・パリの「World of Frozen」に引き継がれています。それについては以前書いた記事でも触れていますので、ぜひ参照ください。
この想像を前提とすると、もしかしたらパリに作られる「ライオン・キング」テーマのアトラクションは、どこかのパークが蹴った案だったのでは? と考えることもできないでしょうか。
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、東京ディズニーリゾートに作られる要素のクオリティーに関して厳しいことで知られており、東京ディズニーシーの構想前にはディズニー本体から、映画スタジオをベースにしたテーマパークを打診されたものの、あくまでそれは二番煎じであり日本人には合わないと判断し、当初の検討作業をちゃぶ台返ししたという記録が残っています(オリエンタルランド代表取締役 取締役会議長の加賀見俊夫氏の著書「海を越える想像力」を参照)。
つまり、ディズニーの提案をそのままを採用することは少なく、いくつもの案が却下されたと考えると、カリフォルニア、フロリダでテーマ変更された「ティアナのバイユー・アドベンチャー」、および「ライオン・キング」テーマのアトラクションも、どちらもオリエンタルランドのOKが出なかったのではないか、と推測しています。
裏を返すと……世界の「スプラッシュ・マウンテン」刷新作業は、東京を含めディズニーのイマジニアリングがストーリーと模型を作るレベルにまで進んでおり、かつそれが却下されて他のパークで受け入れられる、というとこまでの時間が経過しているという、現在進行形の作業であることも把握できるかと思います。そのため、未来永劫東京だけは「スプラッシュ・マウンテン」が残るとも全く思えないというのが、私自身の考え方です。
ただ、2028年まで新生「スペースマウンテン」はオープンせず、さらに10月末で「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」がクローズすることを考えると、パーク自体のキャパシティ減を引き起こす、Eチケット級のアトラクションを今クローズできないという事情もあります。
安心してほしいのは、オリエンタルランドほど日本のテーマパークを理解している企業はなく、ファンの嗜好を理解し、最も素晴らしいものを持ってきてくれるであろうという信頼がある点です。ティアナもシンバもストーリーとしてはよいかもしれませんが、あのスプラッシュ・マウンテンを置き換える力が日本にあるかというと判断が難しいでしょう。
かつてディズニーのCEOだったボブ・チャペック氏は、ある講演のなかで「ウォルトは、彼が作ったパークをディズニーの歴史を見るための博物館にしようとは考えていないだろう。パークは時代とともに、そしてゲストとともに進化する生き物だ」と述べていました。ファンからは嫌われていたCEOでしたが、この言葉だけは心に残っています。
私自身は「スプラッシュ・マウンテン」の行く末を楽観的に捉えています。そして、これまでと同様に新しいエンターテイメントで「驚かせてくれたまえ!」と、脳内のイーゴが叫んでいます(『レミーのおいしいレストラン』)。いま、ディズニーのテーマパーク事業はノリにノっています。まだ見ぬ未来を一緒に夢みようではありませんか。
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