リスナーとクリエイターの境界をあいまいにする産総研「Songle」が本格稼働
「ぼかりす」メンバーが音楽鑑賞を新たな次元に押し上げる。「能動的音楽鑑賞」ってなに?
「ぼかりす」ことVocaListenerのメンバーがまたやってくれた。産業技術総合研究所(産総研)情報技術研究部門の後藤真孝氏、中野倫靖氏、吉井和佳氏、藤原弘将氏が開発した「Songle」は音楽鑑賞を新次元に押し上げる画期的なものだ。後藤氏はこれを「能動的音楽鑑賞」と呼ぶ。
Songleは今年の2月からβ版として限定的に運用されていたが、8月29日に大幅に機能強化し一般公開された。どこが能動的なのか。これまでの音楽鑑賞といったいどこが違うのか。
このシステムの背景にあるのは、音楽、特にポピュラーミュージックの楽曲を構造化して再利用可能なものにしていこうという、後藤氏らによる長年の取り組みだ。歌声とバッキングが入り交じった楽曲からボーカルのメロディーのみを取り出したり、同様に楽曲からCやAmなどのコードを抽出したり、サビはここからここまでと推定したりする研究が産総研で行われ、そのうちいくつかは特許を取得している。これらをリスナー向けにアレンジし、まとめあげたサービスがSongleだといってもいい。
SongleはWebブラウザで汎用的に利用できる、誰でも無料で使える。高性能な機種であれば、Flashの動作するAndroidでも動く。そこで何ができるのか、見ていこう。
Songleで特徴的なのは、MP3形式の楽曲データから解析を行い4つの代表的な音楽要素(サビなどの楽曲構造、コード、メロディー、ビート)を抽出。楽曲を再生しながらそれらの要素を「音楽の地図」として可視化できるという点にある。音楽要素を解析する技術としては、ソニーの12音解析があるが、ムードなどに応じたレコメンデーションに使うくらいで、ユーザーが利用できる形での実装は現時点では行われていないようだ。
Songleでは具体的にはこんなことができる:
- Aメロ、Bメロ、サビの部分を特定し、「サビだけ再生」などができる
- 楽曲を流しながらその再生部分のコードを表示
- 歌のメロディーがピアノロール(音楽制作ソフトでよく使われるメロディーの表示形式)で表示される
- 小節の始まり、ビートが分かる
- これらの情報をフル活用したビジュアライザーが用意されている(鍵盤を模した立方体が回転し、コードに従って色が変わり、ビートに合わせて鼓動し、サビのところではエフェクトが派手になる)
- 簡易的なビジュアライザーが入ったプレイヤースクリプトを自分のブログなどに貼り付けることができる
- コード進行検索ができる
- 投稿された解析データが間違っている場合にはユーザーがブラウザ上で修正することができる
音楽に詳しい人がそばにいて、この曲はこういう構造で、コードはこうなっていてと解説してくれる感じだ。
ネット上にあるMP3ファイルでURLとして渡せるものであればSongleに解析させることは可能だ。さらに、音楽配信サイトと協力することで、一連の流れを簡略化することもできる。その一例がクリプトン・フューチャー・メディアのピアプロだ。初音ミク登場後すぐに公開された音楽・イラストのCGM投稿サイトであるピアプロは、既に8万曲ものオリジナル曲が登録されている。そのすべてがSongleに登録可能になっている。
さらに、今回追加された埋め込みプレーヤー用ビジュアライザを、初音ミクの英語版CGMサイトであるMIKUBOOK.comで採用。初音ミク生誕5周年企画の中で、ブラウザ画面をフルに使った簡易ビジュアライザーを利用できる。この部分はクリプトンの研究開発部門がさらに拡張を行ったようだ。
いったんSongleで解析さえすれば、VJが自動でできること以上のビジュアルエフェクトをかけられる。このビジュアライザーをそのまま動画にして、あとは歌詞を追加すれば相当にいい完成動画が簡単にできそうだ。クラウドベースの音楽サービス、携帯音楽プレーヤー、スマートフォンのアプリ、音ゲーなど、提携次第ではさまざまな分野への応用も可能だろう。
このプロジェクトが継続されれば、数万曲、数十万曲の楽曲の構造データが集積されることになる。後藤氏は「計算可能になっていくということ。高い関心を持っている」としており、今後の研究の素材となりそうだ。
ネットでの音楽配信により多量の楽曲に触れることができる現在の「量的な変化」に対し、さらに音楽をより深く理解して聴くことができる「質的な変化」をもたらそうとする後藤氏らの取り組み。普通のリスナーはどのように受け止めるだろうか?
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