ニュース
» 2012年08月30日 09時53分 公開

リスナーとクリエイターの境界をあいまいにする産総研「Songle」が本格稼働

「ぼかりす」メンバーが音楽鑑賞を新たな次元に押し上げる。「能動的音楽鑑賞」ってなに?

[松尾公也,ITmedia]

 「ぼかりす」ことVocaListenerのメンバーがまたやってくれた。産業技術総合研究所(産総研)情報技術研究部門の後藤真孝氏、中野倫靖氏、吉井和佳氏、藤原弘将氏が開発した「Songle」は音楽鑑賞を新次元に押し上げる画期的なものだ。後藤氏はこれを「能動的音楽鑑賞」と呼ぶ。

 Songleは今年の2月からβ版として限定的に運用されていたが、8月29日に大幅に機能強化し一般公開された。どこが能動的なのか。これまでの音楽鑑賞といったいどこが違うのか。

 このシステムの背景にあるのは、音楽、特にポピュラーミュージックの楽曲を構造化して再利用可能なものにしていこうという、後藤氏らによる長年の取り組みだ。歌声とバッキングが入り交じった楽曲からボーカルのメロディーのみを取り出したり、同様に楽曲からCやAmなどのコードを抽出したり、サビはここからここまでと推定したりする研究が産総研で行われ、そのうちいくつかは特許を取得している。これらをリスナー向けにアレンジし、まとめあげたサービスがSongleだといってもいい。

画像

 SongleはWebブラウザで汎用的に利用できる、誰でも無料で使える。高性能な機種であれば、Flashの動作するAndroidでも動く。そこで何ができるのか、見ていこう。

 Songleで特徴的なのは、MP3形式の楽曲データから解析を行い4つの代表的な音楽要素(サビなどの楽曲構造、コード、メロディー、ビート)を抽出。楽曲を再生しながらそれらの要素を「音楽の地図」として可視化できるという点にある。音楽要素を解析する技術としては、ソニーの12音解析があるが、ムードなどに応じたレコメンデーションに使うくらいで、ユーザーが利用できる形での実装は現時点では行われていないようだ。

 Songleでは具体的にはこんなことができる:

  • Aメロ、Bメロ、サビの部分を特定し、「サビだけ再生」などができる
  • 楽曲を流しながらその再生部分のコードを表示
  • 歌のメロディーがピアノロール(音楽制作ソフトでよく使われるメロディーの表示形式)で表示される
  • 小節の始まり、ビートが分かる
  • これらの情報をフル活用したビジュアライザーが用意されている(鍵盤を模した立方体が回転し、コードに従って色が変わり、ビートに合わせて鼓動し、サビのところではエフェクトが派手になる)
  • 簡易的なビジュアライザーが入ったプレイヤースクリプトを自分のブログなどに貼り付けることができる
  • コード進行検索ができる
  • 投稿された解析データが間違っている場合にはユーザーがブラウザ上で修正することができる

 音楽に詳しい人がそばにいて、この曲はこういう構造で、コードはこうなっていてと解説してくれる感じだ。

 ネット上にあるMP3ファイルでURLとして渡せるものであればSongleに解析させることは可能だ。さらに、音楽配信サイトと協力することで、一連の流れを簡略化することもできる。その一例がクリプトン・フューチャー・メディアのピアプロだ。初音ミク登場後すぐに公開された音楽・イラストのCGM投稿サイトであるピアプロは、既に8万曲ものオリジナル曲が登録されている。そのすべてがSongleに登録可能になっている。

画像 ピアプロからSongleに登録するときは、「作品のシェア」に用意されているSongleアイコンをクリックする

 さらに、今回追加された埋め込みプレーヤー用ビジュアライザを、初音ミクの英語版CGMサイトであるMIKUBOOK.comで採用。初音ミク生誕5周年企画の中で、ブラウザ画面をフルに使った簡易ビジュアライザーを利用できる。この部分はクリプトンの研究開発部門がさらに拡張を行ったようだ。

 いったんSongleで解析さえすれば、VJが自動でできること以上のビジュアルエフェクトをかけられる。このビジュアライザーをそのまま動画にして、あとは歌詞を追加すれば相当にいい完成動画が簡単にできそうだ。クラウドベースの音楽サービス、携帯音楽プレーヤー、スマートフォンのアプリ、音ゲーなど、提携次第ではさまざまな分野への応用も可能だろう。

画像

 このプロジェクトが継続されれば、数万曲、数十万曲の楽曲の構造データが集積されることになる。後藤氏は「計算可能になっていくということ。高い関心を持っている」としており、今後の研究の素材となりそうだ。

 ネットでの音楽配信により多量の楽曲に触れることができる現在の「量的な変化」に対し、さらに音楽をより深く理解して聴くことができる「質的な変化」をもたらそうとする後藤氏らの取り組み。普通のリスナーはどのように受け止めるだろうか?

関連キーワード

音楽 | 産総研 | 初音ミク | ピアプロ | VocaListener


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/04/news076.jpg 君島十和子の長女・君島憂樹、 “母上のお洋服”を拝借したシャネルコーデが超絶美人 「お人形さんかと」「素敵すぎ」
  2. /nl/articles/2312/02/news048.jpg 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  3. /nl/articles/2312/04/news026.jpg 貞子もビビって逃げ出すレベル 驚異のハイスピードで迫るハムスターの姿に度肝を抜かれる人続出「怖いよ」
  4. /nl/articles/2312/03/news054.jpg 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
  5. /nl/articles/2312/04/news028.jpg 愛猫に「猫鍋」をもらったのに、夢中になったのは予想外の…… 「違う、そうじゃない」とツッコむ展開に笑ってしまう
  6. /nl/articles/2312/04/news022.jpg 秋田犬の子犬、これで生後4カ月!? ベビーデカワンコの抱っこが「“超”大型犬ですよね」「かわいいの塊でたまらん!」と話題
  7. /nl/articles/2312/04/news021.jpg いつも空いているドッグランが大盛況→常連の柴犬が困惑のあまり…… 胸がキュッとする“うろたえっぷり”に応援の声続々
  8. /nl/articles/2312/03/news057.jpg クロちゃん、20歳年下の恋人に旅行持ちかけるも「行かない」 交際1周年のお祝いもなし「1回しっかりしゃべりたい」
  9. /nl/articles/2312/04/news099.jpg 笑福亭鶴瓶、夜中に“超一流俳優”たちの呼び出しでパジャマ出動 豪華メンツの泥酔姿に「凄いメンバー」「映画撮れそう」
  10. /nl/articles/2312/04/news016.jpg 写真家が「もう二度と撮れません」と語るエゾモモンガの水平飛行 貴重な1枚に「感動しました」「最高です!」と絶賛の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」
  3. 愛犬と外出中「飼いきれなくなったのがいて、それと同じ犬なんだ。タダで持ってきなよ」と言われ…… 飼育放棄された超大型犬の保護に「涙止まりません」
  4. ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  5. 永野芽郁、初マイバイクで憧れ続けたハーレーをゲット 「みんな見ろ私を!」とテンション全開で聖地ツーリング
  6. 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  7. 柴犬が先生に抱っこしてほしくて見せた“奥の手”に爆笑&もん絶! キュンキュンするアピールに「あざとすぎて笑っちゃった」
  8. 病名不明で入院の渡邊渚アナ、1カ月ぶりの“生存報告”で「私の26年はいくらになる?」 入院直後の直筆日記は荒い字で「手の力も入らない」
  9. 小泉純一郎元首相、進次郎&滝クリの第2子“孫抱っこ”でデレデレ笑顔 幸せじいじ姿に「顔が優しすぎ」「お孫さんにメロメロ」
  10. デヴィ夫人、16歳愛孫・キランさんが仏社交界デビュー 母抜かした凛々しい高身長姿に「大人っぽくなりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」