兵站(へいたん)って大事なんですね…… 戦争を「裏方」視点で捉えた異色ミリタリー「大砲とスタンプ」:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第34回
「戦闘」だけが「戦争」じゃない。戦争を陰で支える縁の下の力持ち――それが兵站なのです。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
まずは少しお知らせを。以前本連載で紹介した「出落ちガール」の作者・鈴木小波先生の新作「燐寸少女」(KADOKAWA)が今月4日に発売されました。すでに書店でご覧になったかもしれませんが、実は今回鈴木先生から直々にご指名いただき、本作の帯に社主の推薦コメントを書かせていただきました! しかも社主イラストは先生直筆! これもひとえにただのマンガ好きでしかない社主に連載の場を与えて下さったねとらぼ編集部のおかげです。ねとらぼ最高!
……と、まあ編集部に媚(こ)びるのはこのくらいにしておいて、早いものでもう11月。季節は冬に移り変わり、まもなく1年をしめくくる12月に入ろうとしています。マンガ好きにとって12月の楽しみは「このマンガがすごい!」をはじめとする各誌が発表する年間作品ランキングですが、社主個人としてもう1つ楽しみにしていることがあります。
それは速水螺旋人先生のマンガ「大砲とスタンプ」の発売です。月刊「モーニング・ツー」(講談社)にて連載中、ほぼ年に1巻のペースで発売されている本作ですが、今回は来月の最新第4巻発売を前に、その魅力を知っていただきたいということでこの作品をご紹介します。
「戦争を描かない戦争マンガ」ってどういうことだ!?
「唯一無二のミリタリー法螺漫画」を銘打つ本作は「大公国」が占領した敵国「共和国」の都市・アゲゾコ市を舞台にした戦争マンガ。けれども兵隊さんたちのドンパチを描いた血沸き肉躍るシーンはほとんどありません。「戦闘を描かない戦争マンガなんてあるのか?」と思うかもしれませんが、火薬の匂いだけが戦争ではないのです。
本作の主人公であるマルチナ・M・マヤコフスカヤ少尉が所属するのは大公国の兵站(へいたん)軍。「兵站」というのは、物資の調達・配給など戦闘を行う部隊の後方支援を担う施設や活動の総称。兵站軍は他の軍人から「紙の兵隊」と揶揄(やゆ)されるものの、戦争における「縁の下の力持ち」として重要な役割を任されています。
さて、マルチナが配属を命じられたのは大公国の占領地となったアゲゾコ市内のアゲゾコ要塞。紙とインクの匂いに満ちたこの要塞内の管理部第二中隊が彼女にとっての戦場です。とにもかくにも文書主義、何か問題があると「責任問題です!」が口癖になるほど真面目な彼女にとって、デスクワークがメインの兵站軍はまさに適職だったと言えるでしょう。
しかし彼女が任に就いた中隊は戦争が長引いているせいもあってか、どうにもたるみ気味。上司のキリール・K・キリュシキン大尉は仕事をさぼってはファンタスチカ(SF小説)の執筆に没頭。兵器の補充の手配なども全て伝言ゲームでやりくりしている、何とも緊張感に欠ける職場なのでした。
張り切って職場に赴いたマルチナがそんな現状を許すはずもなく、大好物の懐中汁粉を一服したあと、上官たちを前に
「私が来たからには今後正規の文書で処理してください! 責任問題ですよ いいですか!」
と、一喝。そりゃそうだ。
その性格から着任早々「突撃タイプライター」の称号を拝命したマルチナですが、一方で兵站軍として実際の戦場や軍人たちと接していく中で、その場に応じた柔軟性も身に着けていきます。それでもできる限り規律にのっとって問題を解決しようとするところが何とも彼女らしくはありますが、単なる石頭というわけでもないのです。今後のマルチナの成長も見どころの一つです。
戦争という日常
さて、冒頭で「戦闘を描かない戦争マンガ」と紹介しましたが、戦争ドラマである以上、戦闘シーンはあります。マルチナが物資を届けた部隊が敵軍の急襲に遭い、さっきまで言葉を交わしていた相手がちぎれた腕だけになっているなど、ポップ&コミカルな画風ながら、戦争の残酷な側面もごまかさずに描いています。
ただ、本作において最も注目すべきはこういったシーンより「戦争が日常に組み込まれた風景」だと思うのです。幸いにも戦争を体験することなく生きてきた我々にとって、戦争とはテレビや小説、映画、ドラマなどを通じてしか知ることのできないバーチャルな出来事でしょう。そのようなメディア体験から得る「戦争」はイコール「戦闘」になってはいないでしょうか。
「殺すか殺されるか」に収れんされる殺伐とした世界もまた戦争の一面であることに違いありません。けれど、アゲゾコ市のように直接戦場になっていない場所での生活もまた戦争の一面なのです。
やっかいごとは見て見ぬふり、責任の所在はたらい回しなアゲゾコ要塞のお偉方、賄賂の横行、酒場でのどんちゃん騒ぎ、したたかなアゲゾコ市民たち……。本作からうかがえる何だか今の時代と大して変わらない風景には陰鬱な悲壮感は感じられず、非日常の世界だと思っている戦時中においても、人は生き生きと生活していることを示しているように見えます。
肯定的にせよ否定的にせよ戦争を描くとなると、そこに作者の思想が投影されることが多いです。もし反戦的な作品に触れたなら、そこであらためて今享受している平和のありがたみを感じることもあるでしょう。
ただ、そう言った善悪や価値判断から離れ、戦争が日常として組み込まれた生活を想像してみるのもまた本作の楽しみ方の1つかもしれません。これが実際に起きた戦争ならなかなかそうはいきませんが、これは何たって「ミリタリー法螺漫画」なのですから。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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