気分はもう中世暗黒時代 中世どっきり残酷対談だヒャッハー『乙女戦争』大西巷一×『ホークウッド』トミイ大塚 夢の対談

西洋歴史マンガの二大巨頭が語る内容をその目に焼き付けろ。

» 2014年11月21日 10時00分 公開
[西尾泰三eBook USER]
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 あなたはまだすべてを知らない。中世ヨーロッパの魅力を。

 そして、その世界を舞台に、騎士が活躍する現実の物語を。

 そして、それを雄弁に伝える2つのユニークなマンガを――。

 1つは『乙女戦争』(双葉社)。宗教改革の先駆けで、銃が実戦で運用された始めての戦争「フス戦争」で、戦場に立った少女兵の物語。西洋の拷問器具を描いた『ダンス・マカブル~西洋暗黒小史~』など、歴史、特に中世ヨーロッパへの造詣が深い大西巷一さんが描くこの作品は、表紙からはうかがえない残酷な試練の連続が病みつきになる。

 そしてもう1つは、「英仏百年戦争」初期に活躍した実在の傭兵ホークウッドを描いたトミイ大塚さんの『ホークウッド』(メディアファクトリー)。『デンキ街の本屋さん』『となりの関くん』などの作品が並ぶコミックフラッパーにあって、中世傭兵バトルアクションは強力な濃さがある。

ホークウッド ホークウッド
乙女戦争 乙女戦争

 騎士、西洋甲冑、傭兵、鉄砲、政治、戦争、そして宗教――さまざまな要素が、現代のわたしたちとは異なる価値観で、広大なヨーロッパを舞台に複雑に絡み合った両作品の最新巻、『乙女戦争』3巻(双葉社)と『ホークウッド』6巻(メディアファクトリー)が11月22日に発売となる。

 これを記念した「中世どっきり残酷フェア」も開催されるのだが、ここでは大西巷一氏、トミイ大塚氏の対談をお届けしたい。あいさつもそこそこにのっけから中世ヨーロッパのディープな会話で盛り上がる二人。どんな話が飛び出すのか。

コミックスを手に。左が『ホークウッド』の著者、トミイ大塚さん、右が『乙女戦争』の大西巷一さん

お互いの作品の印象は?

―― お二人は同じ中世ヨーロッパを舞台にした作品を描かれていますが、お互いの作品をどのように見ていますか?

『ホークウッド』の著者、トミイ大塚さん 『ホークウッド』の著者、トミイ大塚さん

大塚 改めて言うのもなんですが、(乙女戦争は)女の子がいっぱい出てくるからうらやましいです。野郎ばかり描いてると殺伐としてくるので(笑)。

大西 (ホークウッドで)時々娼婦の女の子の話が出てくると和みますよね、やっぱり。僕がこの題材を描こうと思ったのはそこが1つ大きいんです。実際、女性や子どももフス派の兵士として戦ったりしていたようなので、それなら堂々と女の子を戦場で描けるぞと(笑)。僕は楽しく描いております。

大塚 じゃあ女の子は「普通の人代表」みたいな感じだ。

大西 そうですね。普通の人がいきなり戦争に巻き込まれたとき、戦争はどういう風に見えるのかというところも合わせて描ければと。

大塚 乙女戦争は宗教など歴史的なバックグラウンドも綿密にリンクさせていてすごいなぁって思うんです。大西さんが歴史好きならではなのかなという感じはしたんですけどね。すばらしいなと。

『乙女戦争』の著者、大西巷一さん 『乙女戦争』の著者、大西巷一さん

大西 ありがとうございます。僕から見た『ホークウッド』の魅力ですけど、戦場の駆け引きがすごく丁寧にかつリアルに描かれているところがとても好きなんです。

 この当時のベースになる中世ヨーロッパ的な世界観の中でいうと、ホークウッドのように純粋に戦争の勝ち負けに徹する人々はある種異端なわけですが、そういう価値観のギャップもちゃんと描かれていて。

大塚 戦争ものというと、どちらかが勝って、征服して、はい終わり、みたいなイメージがあったんですが、そうじゃないんですよね。

 戦争も外交の一手段で、どちらかというと賠償金を取ったり身代金を取ったりする感覚。僕は戦争って総力戦のイメージがあったので、焼野原になって終わりって思ってたんですが、ヨーロッパは地続きなので、押してるだけ。どっちがが強かったりどっちかが弱かったりっていう。

大西 そうですね。いい感じのところで、どっちが上かはっきりしたらそこで手打ちみたいなところはありますね。それこそ『ホークウッド』でも、主人公のホークウッドはあの世界の中では異端ですけど、現代のわれわれの感覚からするとホークウッドの感覚の方が常識な感じがしますよね。

 第2話で、「お前たちは主君のために戦わないのか」みたいなことを言われて「金のために戦って何が悪い」とホークウッドが返すところは痛快でした。現代人から見ればホークウッドの価値観の方にずっと共感できるわけで。それこそ今のビジネスマンも共感するでしょうし。

死を伴う仕事である戦いを勝利で終え、その見返りとして対価を求めるホークウッド。あなたの感覚は、これをどうとらえるだろう(画像出典:『ホークウッド』1巻より)

大塚 傭兵団は中小企業なんだなって。

大西 そう、1つの企業体ですよね。当時の騎士の価値観だと、騎士が戦争の主役で、騎士が一番目立ってナンボの世界ですけど、ホークウッドだとチームとしていかに勝つかという戦い方をしていますし。

大塚 それが傭兵団としてリアルだったのかは分からないんですが、現代人に分かりやすい感覚にそこは置き換えなきゃいけないのかなと。ただ騎士の感覚、ポジションは動かしようがないので、自分が描きはじめる前に「ここ変だよね」って思う部分を、ホークウッドに言わせているのかもしれません。

中世ヨーロッパものの面白さ

―― 中世ヨーロッパもののマンガを描かれていて、ポイントを教えてください。

大塚 僕が面白いと思うのは、現代人との感覚、価値観のズレですね。

 まず、騎士の価値観・騎士道が成立している世界があったということ。マンガの世界で騎士道云々はガジェットとしてよく使われますが、実際それを掲げて生きていた人たちがいて、その変さ加減が当時としてはまともだったので、そのギャップが面白いです。それを分かりやすい形で表現できればなと思っていて、それがこの時代を題材にして描くポイントなのだという気がします。

大西 中世ヨーロッパに限りませんが、やっぱり僕も現代の日本人が持っている感覚とは違う世界観、違う感覚で生きている人たちがいっぱいいるというところが描いていて面白いですね。

 特に僕が中世ヨーロッパに惹かれているところは何かなって今考えてみたんですけど、鎧かなって(笑)。完全に鉄で全身を覆ってガシャゴショガシャゴショ歩いている人たちを見ると、これは面白いでしょうっていう。日本の侍の甲冑もカッコイイですけど、騎士の着てる甲冑のカッコよさとおかしさは別格だなと。

 日本では三浦權利さんという西洋甲冑師の方がいて、僕も工房を見学させてもらったことがあるんですが、まさに「仕立て屋」。鉄板を使った服の仕立てみたいな感じで、寸法とって正確に形を再現しないと使えるものにならないそうです。


Le combat en armure au XVe siècle 投稿者 lefigaro
仏国の日刊紙『フィガロ』(Le Figaro)と仏国立クリュニー中世美術館が共同制作した「15世紀における装甲戦闘」(Le combat en armure au XVe siècle)の検証動画も騎士の戦いを知るための参考となるだろう(動画出典:DailymotionのLefigaro.frチャンネル)

イングランド王太子エドワードとホークウッド。黒太子と呼ばれるエドワードの鎧について、対談ではその大きさや色について話が止まらない場面も(画像出典:『ホークウッド』1巻より)

大塚 カッコイイですね。仕立て屋。ホークウッドの中で黒太子は鎧をつけていますが、若いですから身体も大きくなるでしょうし、その都度作り直してたんでしょうね。

大西 まさにこの百年戦争の時代ぐらいが急に鎧の発達し始めた時代なんですよね。それまでは鎖帷子がメイン。13、4世紀ぐらいから水車が発達してヨーロッパ中の川に水車が作られて、それを動力にハンマーやフイゴとか製鉄の技術がグンと上がって、いわゆるプレートメイルが普及するようになっていったと。

大塚 おお! 技術革新の源は水車だったんですね。何かすごい歴史物の対談っぽい(笑)。でも、例えばローマの時代には陣を作るのにも縦横何人ずつ整列するとかの規格があったりして、文明レベルは非常に高かったのに、この時代になると非常に野蛮な方向にいってますよね。この断絶は何だったんだろう。

大西 ローマ帝国が滅んでヨーロッパの文明は一度ポシャってますから。東ローマ、いわゆるビサンツとかには文化はだいぶ残ってましたけど、西ヨーロッパは一度ゲルマン民族が大量に押し寄せてきて大混乱に陥って、文明レベルはガクッと落ちちゃいましたね。

 甲冑の技術も、西洋甲冑を作る職人が一度いなくなったんです。そこで、昔の博物館などに残っている甲冑を見ながら製造方法を復元したりとか。剣術もそうで、中世の時代にあった剣術はいろんな流派があってマニュアルなども残ってるんですけど、それを受け継いでいる人がいなくなってしまったと。一度銃の時代がきて近代化したときに剣術は必要ないってことになっちゃったんでしょうけど。

大塚 一度は極められたはずであったはずの西洋剣術が、今はこう思い出しながらやるしかないみたいな感じになっているのも面白いですね。

ここが変だよ中世ヨーロッパ

―― 逆に、中世ヨーロッパでここが理解できないということはありますか?

大塚 やっぱり「宗教」ですよ。戦争マンガ描いてるのに「殺しちゃいけない」みたいなこと言うわけじゃないですか。まるっきり筋通ってないよねって(笑)。だからそこには何かロジック、当時風のロジックがあるんだろうなと。そこを解釈して解明していくのが面白い部分でもあり、面倒くさい部分でもあるんですが(笑)。ただ、そこまでやっても当時の感覚が分からないっていう。多分当時も分からないままやってたのかなって。

大西 キリスト教の価値観、特に中世のキリスト教は理解に苦しむところがたくさんありますよね。調べている段階から、「何でこの人たちは宗派の違いでここまで命がけで戦うんだろう。さっぱり分からないよ!」って思いながら描いてますよ。

大塚 現代でも宗教上の争いは尽きませんが、古今東西そうなのだと実感しますね。キリスト教的に戦争はなぜ許されていたのかを理解するのがまず難しい。原則論では理解できない感じがして。

大西 元々のキリスト教の教えでは、非暴力・隣人愛をうたっていたはずですけど、いつの間にか信仰のために人を攻撃して戦争をするのがまかり通るようになっていて不思議ですよね。

 話に聞くと、自分が攻撃されてやり返すというのは基本的によろしくない、でも隣人が困っているときに助けないのはダメだと。だから十字軍も巡礼に行っているキリスト教徒が困っているらしいので助けにいこうというのが本来の主旨で。

『乙女戦争』より

大塚 人助けはいいことだと。

大西 そうです。人助けのために戦うという理念が十字軍の思想ですよね。

大塚 集団的自衛権ですね。

大西 まさに。本来のキリスト教の教義と中世のこの時代に行われたキリスト教の実践がずれているところがたくさんあって、そういう意味でも現代人からみればおかしいと思うんですが、当時の人たちもそう思っていたようで。

 「聖職者が贅沢な暮らしをしたり、愛人を囲ったり、免罪符とか売って金儲けしているのはおかしい、キリスト教の本来のあるべき姿に立ち返ろう!」みたいなことを言う人は何度も繰り返し出てきていて、そのたびに戦争が起きたりしてるんです。フス戦争もその一環で、その後出てくるルターの宗教改革もその流れ。改革運動する人が現れて、ある一部は、あなたたちの発想はなるほどと思うところがあるから取り入れようって言って入れたり、あるいは逆に「お前たちの言ってることも分かるけど過激するからアウトー」って異端扱いになって弾圧されたりとか。

大塚 当時の人たちも別にそれを良しとしてるわけじゃなくて、そのフラストレーションが頂点に達すると宗教改革しなくちゃねって言い出す感じだったんですね。原初の宗教は、多くの人が救われるという本質的な部分で生まれたのだと思いますが、時代が進むにつれてだんだん変質してきちゃう。建前が通用しなくなってきて何か言い訳しなきゃいけないんだけど、言い訳の部分が多くなってくるとつじつまが合わなくなっちゃうと。

大西 それこそフス戦争でも、フスという人が「教会のあり方をもっと正しいものにしよう!」と主張して、それに賛同する人が集まってきて抵抗運動して最後は戦争になっちゃうわけですが、その正しい信仰を取り戻すためにそこまでして殺し合わなきゃいけないのは分からないですね。

大塚 大義名分が通っていればそれで良しというところなんですかね。

大西 西洋人の価値観なのかは分かりませんが、現実とは別に、「こうあったらいいよね」という理想像みたいなものをすごく強くイメージしている気はします。仏教だと諸行無常のように、絶対的に正しいことなんかないというのが根本的な価値観で、現実がいろいろおかしくても受け入れるしかないよねみたいな諦めの発想ですけど。

乙女戦争のタイトルに隠された秘密とは?

『乙女戦争』主人公シャールカ。(残酷な仕打ちの数々に)落ち込んだりもするけれど、シャールカは元気です(画像出典:『乙女戦争』1巻より)

―― ところで、『乙女戦争』というタイトルにはどんな意図が込められているんですか?

大西 「乙女戦争」という言葉は、実はこの作品のための造語ではなく、元々チェコの古い伝説にあるものなんです。

 プシェミスル朝の初期、10〜11世紀辺りのチェコで、男と女が分かれて戦争していたという古い伝説があるんです。男たちが国を支配して調子に乗って女たちをないがしろにするようになったことに女たちも頭にきて、男軍と女軍に分かれてドンパチやり合っていたという伝説です。

 その女軍のリーダーがヴラスタという名前で、ヴラスタの側近の女の子でシャールカという人物がいる。主人公シャールカの名はそこから来ているんですよ。そしてその男と女が戦った時代の伝説が、チェコ語で「ディーヴチー・ヴァールカ」、直訳すると「乙女の戦争」とか「娘たちの戦い」というわけです。

大塚 今チェコの人にその話を聞くと、皆知っていたりするんですかね?

大西 チェコの人たちには割と親しまれていると思います。スメタナの「わが祖国」という有名な交響曲では、第2曲の「モルダウ」(ヴルタヴァ)が有名ですが、第3曲が「シャールカ」というタイトルで、今お話しした伝説を題材にした曲なんです。ちなみに、第5曲は「ターボル」で、フス戦争を題材にしています。

大塚 非常にアカデミックな話になりましたね。

大西 そんなわけで、女の子が主人公になって積極的に戦う戦争だという意味を込めて『乙女戦争』なんです。

残酷、残酷、残酷!

『ダンス・マカブル』より。中世・古代ヨーロッパで行われた残酷な拷問器具や処刑を題材にしたこちらの短編は確かに残酷

―― 今回「中世どっきり残酷フェア」ということなので、“残酷”というキーワードで両作品を語っていただければと思うのですが。

大西 残酷フェアというんだったら『ダンス・マカブル』も取り上げてほしかったなって(笑)。冗談ですけど。

 こう言っちゃなんですけど、僕は残酷描写を描くのは大好きです(笑)。「シャールカちゃんがどんなひどい目にあうか楽しみです」と言ってくださる読者の方は結構いるので、頑張って期待に応えさせて頂きたいと思っています。ということで、乙女戦争の残酷の見どころは、幼い女の子でもひどい目に会ってしまうところですね(笑)。

大塚 一話からいきなり相当な残酷度ですよね。

大西 もっともっとひどい目にあいますから。ご期待ください(笑)。

大塚 それでいうと『ホークウッド』は残酷度は低いかもしれませんね。ただ、当時の騎士には、“平民は人間にあらず”的な感覚が恐らくあって、だからどんな殺し方でもそれは死としてカウントされていないような部分があるので、馬に蹂躙されるとか、盾に使われたりとか、無慈悲に死んでいくところが残酷だなと思います。

大西 『ホークウッド』でも出てきましたが、当時のイングランド軍がよくやっていた戦法として、フランス軍が中々出てこないので、敵をあぶりだすためだけに村を焼き打ちしたりしますよね。ホークウッドも「じゃあ村略奪してくるかー」とか言って。「えー、するんだ主人公なのに」って思いますよ(笑)。

大塚 あれもあの世界の感覚だと思うんです。僕が描きはじめたときにはそこのところの感覚が手前で止まる感じがあったんですが、担当編集が「ここはこう皆殺しにしちゃいましょうよ」って(笑)。主人公であっても当時の感覚でおかしくなければそれでいいのかなって。現代人から見て残酷でも当時のレベルでは普通なんでしょうから。

とにかく話がかみ合いすぎて止まらない二人 とにかく話がかみ合いすぎて止まらない二人

中世の象徴である騎士

―― 騎士について。作品中だと、ホークウッドでは5巻で弩(クロスボウ)が登場しますし、乙女戦争だと銃が登場していたりして、騎士は衰退の方向に向かっているように感じます。騎士と傭兵、という視点でお二人はどんなことを感じますか。

『乙女戦争』1巻より。騎士を乗せる軍馬は「デストリア」と呼ばれる重種馬。「ばんえい競馬のばん馬に近い感じ。パワーとスタミナはすごい」と大西さん。

大西 ホークウッドでも乙女戦争でも、いかに平民たちが騎士を倒すか、っていうテーマの部分が描かれていると思うんです。中世の象徴である騎士はゆっくりと衰退していくわけですが、ホークウッドの時代でも騎士は活躍していて、いつもいつも騎士が負けるわけではない。乙女戦争の時代でも騎士の強さはある程度健在で、それに対して、さまざまな工夫・対策をしてようやく勝てるという時代だったと思うんです。

しかしフス戦争の英雄、ヤン・ジシュカはワゴンブルグ(荷車城塞)とピーシュチャラ(ピストルの語源)で応戦(『乙女戦争』1巻より)

 乙女戦争2巻のあとがきにも少し書きましたが、騎士が戦場の存在として一番輝いていたのは、ホークウッドよりもう少し前の12、3世紀ごろ、十字軍とかをバンバンやってた時代だと思うんです。そこからゆっくりと、騎士が存在感を弱めていく一方で、だからこそ騎士はこうあるべきという騎士道はむしろ発達していったんだと思うんです。

大塚 べき論は、実際の戦闘力が衰えていくにしたがって、逆に高まっていく、みたいな。

大西 そんな気がしています。日本の武士道も江戸時代になってからですよね。武士道とはかくあるべし、みたいなのが出てきたのは。

大塚 確かにそうですね。百年戦争の時も、初期の鎧は普通なのに、終わりのころになるとかなり豪華になりますしね。憧れ、崇める対象としての価値はだんだん上がっていった気はします。騎士が実効力を失ってきた分、「“なんとか騎士団”でも作って形だけでも盛り上がろう」という流れも出てきたりして。

 傭兵の登場は、金で兵力を買うことなので、貨幣経済の始まりみたいに言われる一方で、土地で物の価値を測っている封建領主がまだ存在する。端境なんですよ。完全に切り替わるにはものすごい先に行かなきゃならない。

大西 騎士は、今おっしゃったように土地を持っていて、土地からの上がりで生活をしている人たち。それに対して、都市がだんだん発達して貨幣経済が発達すると金で生活する人たちが現れていって、傭兵のその一種。だから貨幣経済は、騎士の文化とは本来相容れないものなんですよね。経済が発達していくにつれ、騎士は少しずつ衰えて行かざるを得ないものなのかもしれない。

 しかも、本当の意味で戦闘のプロフェッショナルは、騎士ではなく傭兵。騎士は本来、領地を治めるのが役目で、そのために必要だから戦闘もしているだけ。戦場においても次第に傭兵に座を譲っていくのは必然だったように思いますね。

悪知恵、陰湿な戦い――最新巻の見どころは?

乙女戦争3巻 乙女戦争3巻

―― 発売される最新巻の見どころは?

大西 次は3巻です。2巻で皇帝とドンパチやったので、3巻は教皇とカトリック教会からの刺客と戦う話になります。

 プラハの町を舞台に暗殺者が出てきて、ある意味知能戦みたいな感じになるので、2巻の派手な戦いとは違う陰湿な戦いがみられます(笑)。

 もちろん残酷要素たっぷりで、若い女の子もさんざんひどい目に会います。


ホークウッド6巻 ホークウッド6巻

大塚 そこに注目して読むマンガになってる(笑)。

 ホークウッドはジェノバの弩(クロスボウ)隊とイングランド軍の白鴉隊が対決します。またホークウッドが卑怯な手で戦うわけですが、そこでも兵隊たちがまったく無用に死んでいくシーンがあるので、残酷というポイントではそうかな。あとはホークウッドの毎回の悪知恵の部分を読んで頂ければと。

大西 クレシーの戦い(百年戦争初期、イギリス軍がフランス軍に大勝利を収めた戦い)にはまだ突入しないんですか?

大塚 今まさに突入せんとしている感じですが、描くのが大変だなって。最初の構想では2巻で(クレシーの戦いを)やる予定だったんですが、クレシーやるために描かなきゃならないものがあるって言ってたら、クレシーが全然始まらないっていう(笑)。

『ホークウッド』はクレシーの戦いに。この戦い、見逃せない 『ホークウッド』はクレシーの戦いに。この戦い、見逃せない(画像出典:コミックフラッパー編集部ブログ

大西 クレシーは戦術の革命ですよね、騎士で突撃すりゃ勝てるだろうというのが当たり前だった時代に、騎士をズラっとそろえて突撃かましたのにボロ負けしたっていう。何を言ってるのかわからないと思うが、ありのままに見てきたことを話すぜ、みたいな(笑)。

大塚 それまで描いてきたテーマからその戦い自体がかなりズレることになるわけなんですよね。今になって気が付くわけですけども。

大西 フランス軍はなぜ負けたのか理解できなかったみたいで何回も同じことやりますよね。ポワティエの戦いもあるし、だいぶたってからアジャンクールの戦いもありますけど、だいたいやってることは同じ。

大塚 クレシーで大勝利したからといって、その戦い方がいいものだと受け止めてはなかったんでしょうね。あれだけ大勝したのになぜそのときだけにしたのかは疑問ですが。

気になる今後の展開は?

ホークウッド5巻のラストでは圧倒的不利に陥る騎士。「騎士の時代は終わったのだ」と言われてしまう状況は覆るのか(画像出典:『ホークウッド』5巻より)

―― 史実によるとホークウッドはかなり長生きしていますが、作品ではホークウッドの生涯を描いていく感じなんでしょうか。

大西 それは僕も聞きたかったです。ホークウッド、どこまで描くのかな、イタリア時代を描くのかな、って。

大塚 ホークウッドについては、イングランド人である、百年戦争に行ったというところは、「らしいよ」なんですよね。ただイタリアに行ってからは、きちんとした記録がある。だから、設計図は何となくあるんですが、エドワードは途中で死んじゃうわけですからね。大河だとすると生涯を描ききるのは目的ではありますので、イタリア時代に突入できればとは思っていますけど。

大西 ちなみにこの当時、ホークウッドは何歳ぐらいの設定なんですか?

大塚 20いくつのイメージで描いてます。あとから考えると、もう少し若くないといけないので、おっさん顔だけど意外と若いっていう(笑)。乙女戦争の方は、(ヤン・)ジシュカが死んだ後はどうなっていくんですか?

大西 ヤン・ジシュカは、この数年後には死んでしまいますね。ただ、彼の軍隊と彼の編み出した戦術はフス派に受け継がれて、フス戦争は15年くらい続くんです。フス戦争が終わったあとも、フス派の残党が傭兵団みたいになって、各地で活躍していたようですし。

大塚 その人たちが、あの戦法を広めていった感じなんですね。

大西 ええ。だからこのあと、東ヨーロッパの方でフス派の戦術が主流になっていって。オスマントルコもフス派の戦術を取り入れていたようで、別の遊牧民族と戦うときに、荷車を並べて、相手の騎馬隊が突撃してきたのを、銃火器でガーって打ち返して倒していって。その戦術を「ターボル」と呼んでいるんですよ。フス派のターボル派の戦術を受け継いだんじゃないかなって。

大塚 じゃぁ、乙女戦争については、ジシュカが死んでも、引き続きシャールカちゃんがかわいそうな目に遭い続けるという展開なわけですね(笑)。

大西 シャールカを中心に、フス戦争の最後までは描きたいな、とは思っています。その気になればその続編も描けなくはないですけど、今のところは構想外ですね。

大塚 ひどい目に合うのが定番だけどなかなか死なない主人公(笑)。

大西 死なない程度に(笑)。でも主人公に試練が与えられてそれを乗り越えていくのが物語の基本ですから。シャールカもきっと、試練を乗り越えて、成長していくんだと思います。むしろ心配なのは周りの人たち。シャールカと仲良くなると死ぬ、っていう(笑)。

最後はお互いの作品を手に1枚

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