連載を取り消された漫画家の復活劇――『あいこのまーちゃん』が書店に並ぶ日:漫画家・やまもとありさ インタビュー(2/4 ページ)
アシ時代には『進撃の巨人』の作画も担当
―― 立て続けの受賞ですね。専門学校での勉強も生かされているんでしょうか。
やまもと ……実は専門学校は1年で辞めちゃったんです(笑)。漫画家さんのアシスタントもやっていて、学校との両立が厳しかったのと、アシスタントの方が勉強になったのでそっちに専念しました。
―― ちなみに専門学校時代は誰のアシスタントを?
やまもと 篠房六郎先生です。『アフタヌーン』や『IKKI』で連載されてました。
―― 専門学校の1年生からアシスタントをしていたとなると、アシスタント生活は何年になるんでしょう。
やまもと 5年ぐらい……ですね。レギュラーで5、6人の先生に就いてて。ヘルプも合わせると10人ぐらいでしょうか。
最近までアシスタントをさせていただいていたのは、諫山創先生(代表作『進撃の巨人』)と、野球漫画を描かれているA先生のところで、A先生のところは3年、諫山先生のところは1年8カ月ぐらいアシスタントをさせてもらいました。
―― 諫山先生とやまもと先生は、確か同い年なんですよね。仕事場ってどんな感じなんですか?
やまもと たまに先生が好きなモモクロのDVDが流れたりするんですけど、私も好きなんで見入っちゃって作業できなくなったり(笑)。
―― モモクロを聞きながら巨人の捕食シーンを描くって、想像するとかなりシュールですね(笑)。確か、諫山先生の仕事場にいるときに連載の連絡が来たんですよね。
やまもと そうですね。それからは、A先生にアシスタントをやめることになった連絡をしたりと……。この辺のことは『連載中止』という冊子に描いているので、よかったら買っていただけると……(笑)。
―― 宣伝しておきます(笑)。ところで、「あいこのまーちゃん」のアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
やまもと その冊子に描いてある通りですね。歩いてるときにふとアイデアが浮かんだんです。あ、でも前々からそういうネームは切っていたんです。男が聖女と欲望むき出しの女の子の間に挟まれて、うわーってなる話ってよくあるじゃないですか。こっち(頭)と、こっち(下半身)で、思っていることが別っていうのは、男性漫画ではよくあるんですけど、女もそうだよなーって思っていて、じゃあもういっそ顔描いちゃえばいいじゃんってなったんです。
―― 過去の作品も幾つか拝読しましたが、青年誌ということもあり性的な描写が結構出てきますよね。そういう描写を描くようになったのはいつごろからですか?
やまもと んー、中学生のころからですね。
―― 青年誌やレディコミを読み始めたころですね。
やまもと うちはケーブルテレビが見れたので、そういった番組を見たりだとか。あとは親が隠し持ってたエロ漫画を読んだりしてました。
―― 男子中学生と変わらないですね(笑)。ばれなかったですか?
やまもと 手に取る前に並んでる角度を記憶して、読み終わったらこうやって……元通りに直してました(笑)。そんな感じだったので、描くことに抵抗はないですね。楽しく描いてますよ。
―― 確かにやまもと先生の絵は性的なものでもネガティブな印象を受けないです。
やまもと 暗いものも描いたことはありますけど、「あいこのまーちゃん」は明るくするよう意識しています。暗いものは描いてて辛くなってしまうので。
賛否両論の第1話、アクセス数は33万PV
―― こうして生まれた「あいこのまーちゃん」が、不健全図書になるかもしれないと判断されてしまうんですよね……。
やまもと 私も描いていて「大丈夫かな?」って心配はしていたんですけど、やっぱりそうかーって。編集さんがOKしてくれていたので、じゃあ遠慮なく描こうと思ったら……やっぱりほら! っていう(苦笑)。
―― 「ぜにょん」で連載するだけだったら問題なかったんでしょうね。ただ、出版しないとお金にはならないから……。ネットの方がやっぱり紙よりも規制が緩いんでしょうか。
やまもと 場所によるみたいですね。どこでも見られるといえば見られますけど、そういう作品は一部に集約されるみたいで。「あいこのまーちゃん」の場合は、ネットで掲載するだけなら問題なかったかもしれません。でも、紙になると都条例の問題とかでいろいろとチェックが入るので、最近は自主規制しようっていう流れになっているみたいです。
2日前に連絡するっていうのは、前例がなかったからかもしれないですけど、まあ、運が悪かったですね。
―― 東京オリンピックもありますし、規制の問題はこれからも付いて回りそうですね。あまり思い出したくないかもしれませんが、連載取り消しの電話がかかってきたときはどう思われましたか?
やまもと 事実を飲み込めなくて、飲み込みたくなくて、もう笑うしかないなみたいな。2日目からじわじわとすることがなくなったっていう不安が押し寄せてきました。
―― ほかの出版社からもお話はきていたんですか?
やまもと どういう漫画なのか興味があるので見せてください、みたいな話はありましたが、内容が内容なので、見せる相手も選んでました。エロサイトからもきましたけど、そういう作品でもないしなーって。
何よりまず読まれたいという願望があったんです。読まれていないのに騒ぎになったのがくやしくて、それで漫画 on Webの方に声を掛けていただいて、ネットで第1話を掲載してもらいました。33万PVぐらいいってたかな。
―― 1話だけで33万はすごい反響ですね。公開されたことでいろいろな意見も寄せられたと思います。
やまもと 「あぁ、読まれるってこういうことなんだ」って思いましたね。いままで誰にも見向きもされなかったので、あまりにコメントが来すぎて感覚がマヒするというか。それまで1、2人から言われて傷つくということはあったんですけど、いろんな意見があるので、逆に楽しめたというか、何だか他人事のように感じました。
―― 寄せられた意見に影響されたりしましたか?
やまもと ちょっと悩んだりしました。最初は、影響を受けちゃうから見ないようにしていたんですけど、それでもたまにTwitterのタイムラインとかで目に入って、その言葉にいちいち反応しちゃいそうになるんですよね。それで、諫山先生に相談してみたんです。
―― 人気になるといろいろなことを言われますよね。それにしてもメンタル強いですね。
やまもと 諫山先生によると、批判的な意見を見たときに「へーそうなんだ」と思う部分と、「あぁそうか……」と思う部分があって、自分の中で痛いとこ突かれたと思った意見だけを飲むようにしているそうなんです。
その話を聞いてから、私も気付かされたと思った意見を見つけたときには受け入れるようにしていますね。意見を作品に反映させたこともあります。
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