かわいい絵柄に小さなトゲ――北欧女子・オーサの描く4コマが魅力的なワケ:北欧女子×メイド 対談(1/2 ページ)
日本で見つけた不思議や驚きを4コママンガで描き、その独特の視点や絵の巧みさから注目を受けているスウェーデン人マンガ家のオーサ・イェークストロムさん。好きな作家に矢沢あいさんを挙げるオーサさんに、秋葉原のメイドカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノさんが切り込む。
スウェーデン人マンガ家、オーサ・イェークストロムさん。彼女が描く4コママンガがいま、ネットを中心に注目を集めている。
日本での生活で出会った驚きや発見を自らを主人公に描いたブログ「北欧女子が見つけた日本の不思議」はアメーバブログジャンル別ランキングや、デイリーランキングで1位を獲得(1月15日付け)。3月6日には、ブログに掲載されている4コママンガを中心に収録したエッセイマンガ『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』が発売された。
今回、そんなオーサさんの魅力に迫るのは、秋葉原のメイドカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノさん。商業誌から同人誌まで幅広い知識を持ち、海外のマンガ事情にも興味を持つ彼女が、オーサさんの日本観やマンガへの思いを明らかにしていく。記事中のライブドローイング動画もお見逃しなく。
きっかけはスウェーデンで見た「セーラームーン」
ミソノ 初めまして、秋葉原のメイドカフェで働いているミソノといいます。今日はよろしくお願いします。
オーサ わー! メイド服素敵ですね!
ミソノ ありがとうございます! オーサさんは秋葉原に行ったことありますか?
オーサ ありますよー。
ミソノ 最近、秋葉原に来る外国の人が増えてきて、お店にもスウェーデンの人が来てくださったことがあるんです。北欧の人も増えてきたなあって。
オーサ そうかもしれませんね。私も東京でよくスウェーデン人と会ったりします。スウェーデンの人口は日本に比べるとあまり多くないので(編注:2014年5月時点で約968万人、スウェーデン統計庁)、本当にたくさんの人が東京に来ているんだなって思います。
ミソノ オーサさんがどこで日本のマンガやアニメを知ったのかすごく気になるんですけど、きっかけは何だったんですか?
オーサ スウェーデンのテレビで「セーラームーン」を見たことです。ものすごく影響を受けまして、10代のころはセーラームーンのコピーマンガをよく描いていました。制服ではなくて、スーツを着て敵と戦ったり。誰にも見せてないですけどね(笑)。
ミソノ シャッツキステのメイドにヘルシンキに行ったことがある子がいて、日本のアニメショップみたいなお店があったと言っていたんですけど、オーサさんがマンガを描こうって思った時に周りにマンガを描く道具を売っていたりとか、描き方を教えてくれるような場所はありましたか?
オーサ いまはスウェーデンにもマンガの専門学校があって、マンガ家になりたい人はそこに入学して勉強したりします。若い時にスウェーデンにいたときはマンガを描く道具はあんまりなかったですけどね。
ミソノ 子どものころからマンガ家になろうと思っていました?
オーサ はい、それは夢だったんですけど、スウェーデンでマンガはそこまで大きなマーケットではないですし、難しいだろなぁと。なので高校時代は研究をしたり、マンガとは全然違う勉強をしていました。
ミソノ 何の研究をしていたんですか?
オーサ 英語で言うと「Nature and Science」ですね。バイオロジーとか……すみません、日本語で何といえばいいんでしょうか(笑)。
ミソノ 生物学とか科学とかですか?
オーサ あ、そう、そんな感じです!
一度はマンガ家を諦めたことも、外国人が日本でマンガを描くことの難しさ
ミソノ もともとスウェーデンでマンガを描かれていて、『SAYONARA SEPTEMBER(さよならセプテンバー)』というストーリーマンガを出されたり、「IKEA」でテキスタイルの仕事をされたり、いろいろなお仕事をされていたんですよね。
オーサ はい。でもスウェーデンのマーケットは小さいので、マンガだけではちょっと食べていけないんです。皆、マンガ以外のイラストの仕事などをしていますね。
ミソノ 日本のマンガ家もたぶん同じ感じかも……(苦笑)。今日は「SAYONARA SEPTEMBER」を持ってきていただいているんですよね。
オーサ はい、いろいろ持ってきました! いま見ると1巻はちょっと絵が汚いですね(笑)。
ミソノ 単行本を3巻も出すって大変ですよね。
オーサ 大変でしたー。スウェーデンにはマンガ誌が全然なくて、連載もありませんので。
ミソノ マンガ誌がないとなると、この作品はどういう流れで単行本になったのでしょうか。日本だとマンガ賞に応募するとか、出版社に持ち込みしたりだとか、そういう方法がありますけど。
オーサ えっと、単行本にした作品を出版社に持っていきました。
ミソノ 自分で本の形にして、「この本を売ってくれませんか?」っていう感じで持ち込むんですか?
オーサ そうそうそう、日本とは全然違いますね。日本では担当編集者にフィードバックをもらいながら一緒に作りますけど、スウェーデンではあまりフィードバックはもらえないです。
オーサ 実は2007年に一度日本に来て、日本語の勉強をしながら9カ月ぐらい住んでいたことがあるんです。でも日本語の勉強のやる気がだんだんとなくなってしまって(笑)。とにかくマンガが描きたくなってスウェーデンに戻り「SAYONARA SEPTEMBER」を出版しました。そしたら今度は日本が恋しくなって、日本に引っ越しすることにしたんです。それが2011年ごろ。
ミソノ 日本に引っ越してくるときは「絶対マンガ出すぞ!」って思ってました?
オーサ 私のプランでは、グラフィックデザイナーとして仕事しながら、時間があるときにマンガを描いてデビューという感じだったんですけど、ちょっと無理だなと気がつきまして。日本のデザイン会社は残業が多いんですよね。だから難しいかなって。
ミソノ 私、図書館司書もしているんですけど、スウェーデンの図書館ってすごく進んでるって言われていて、でも夜遅くまで開いている図書館ってあまりないんですよね。スウェーデンでは、あまり遅い時間まで働いたりしないんでしょうか。
オーサ そうですね、残業はあまりないです。お店とか図書館は、平日なら午後6時には閉まってしまいますし、日曜日なんてどこも開いていません。
ミソノ じゃあ日本に来てこんなに夜も明るくて、みんな忙しく働いていてって、びっくりしませんでしたか?
オーサ びっくりですよー。スウェーデンは自然が好きな人から見ればすてきな国だと思いますけれど、悪く言うと何にもないですね。なので日本、特に東京に来ましたら、月曜日でもバーに行けるのでびっくりしました。
ミソノ それでもやっぱり一番はマンガだったんですね。
オーサ そうですね。でも、マンガをやめようと思ったこともあったんです。グラフィックデザインの仕事を続けていこうかなと。日本ではマンガ家は競争が激しいし、それにビザの問題もあったので。でも無意識的にマンガを描くようになりました。
ミソノ 無意識的に、ですか。
オーサ 何でしょうね、とにかくやめられませんでした。いまはマンガを出版することになってすごくうれしいです。
ミソノ 「SAYONARA SEPTEMBER」のようなストーリーマンガではなく、4コママンガを描くことになったのはどうしてですか?
オーサ グラフィックデザインの勉強をしながらストーリーマンガを描くのは大変だったので、試しに4コママンガを描いてみたら、「あ、これ楽しい!」ってなりまして。スウェーデンに“コミック・ストリップ”というジャンルがあるんですけど、それに似てるんです。
ミソノ コマが横長のものですか?
オーサ そうそうそう、それは大嫌いでしたけど(笑)。日本の4コママンガは4コマしかないからこそ、面白く感じますね。
ミソノ 確かにあちらのコミックって、連続したストーリーが四角でつながれている感じがします。日本は4コマで起承転結を表したりしますよね。
オーサさんって、4コマの中にドラマといいますか、ストーリーが入っているのがお好きなのかなって思うんです。矢沢あいさんの作品(代表作に『NANA -ナナ-』など)ですとか、「少女革命ウテナ」がお好きとおっしゃっていたので。
オーサ 大好きです! ちょっと暗い話というかドラマチックな話がすごく好きなんですけど、でもいまは全然別のストーリーを描いても、新しい経験だしワクワクして面白いです。
ミソノ オーサさんのそういう大人っぽいところ、4コマによく表れていると思います。
オーサ えっ、本当ですか!
ミソノ 日本のエッセイコミックって、主人公は無色・透明なイメージなんですけど、オーサさんの作品は特に自分の意思が強く描かれていると思うんです。好きとか嫌いとか困ったとかそういうのがストレートに伝わってくるなっていうのと、ナンパをネタにした話とか大人の視線だなーって感じました。矢沢あいさんを好きなんだなっていうのが伝わってくるんです。
オーサ すごい、すごいですね! うれしいです!
ミソノ オーサさんの昔のブログを読ませていただくと、スウェーデン人だからこそ日本に対して変わった視点を持っているというのを武器にしたい、みたいなことが書かれていたんですね。自分は日本人じゃないからその事を面白く描くことが、自分にとって強みになるとかプラスになるっていう考えがあったのでしょうか。
オーサ 最初からそういう考えだったわけじゃないですけど、でもおっしゃった通り学校の先生をはじめとするいろんな人から、外国人だから自分らしい物語にした方がいいよとか、外国人しか描けないマンガを描いた方がいいよとかアドバイスをいただきまして、じゃあそうした方がいいかもとは思ってました。
ライブドローイングで作品の魅力に迫る
インタビュー中、4コママンガにも登場する自身をモチーフにしたキャラクターを描いてもらった。下描きもそこそこに、会話を挟みながらもあっという間に描き上げる姿に、マンガ家・グラフィックデザイナーとして絵を描いてきたことで得られた経験値の高さを伺い知ることができた。
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