藤原カムイ&じゃんぽ〜る西が熱弁 マンガ界に影響を与えた「バンド・デシネ」の魅力とは?

日本初の電子書籍化を記念してトークイベントが開催された。

» 2015年09月12日 11時00分 公開
[宮澤諒ねとらぼ]

 東京・渋谷にあるマンガサロン「トリガー」で9月4日、「ユマノイドとバンド・デシネの夜」と題したトークイベントが開催された。これは、日本で初めてバンド・デシネの電子版(日本語訳)が配信されることを記念したもの。同日には、イーブックイニシアティブジャパンの電子書店「eBookJapan」で配信がスタートした。

 トークイベントには、マンガ家の藤原カムイさん(代表作「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」など)、じゃんぽ〜る西さん(代表作「パリ 愛してるぜ〜」など)、海外マンガフェスタの代表も務めているユマノイド・ジャパン代表のフレデリック・トゥルモンドさんが登壇し、バンド・デシネの魅力を実際に本をめくりながら語り合った。

ユマノイドとバンド・デシネの夜 左から、フレデリック・トゥルモンドさん、藤原カムイさん、じゃんぽ〜る西さん、トリガーを運営するサーチフィールド代表取締役社長の小林琢磨さん

バンド・デシネとは?

 そもそもこの「バンド・デシネ」という単語、耳慣れない人も多いはず。これはフランスやベルギーなどフランス語圏のマンガを表す言葉で、バンドは「帯」、デシネは「描かれた」という意味(バンド・デシネはBD「ベデ」とも呼ばれているため、以下BDとする)。日本でよく知られる海外のマンガといえば、スーパーマンやバットマンなどの「DCコミック」、スパイダーマンやX-MENなどの「マーベル・コミック」といった、いわゆるアメリカン・コミックス(通称、アメコミ)だろうが、いまこのバンド・デシネがじわじわと人気を集めているのだ。

「ファイナル・アンカル」(著:ホドロフスキー 作画:メビウス 訳:原正人) 「ファイナル・アンカル」(著:ホドロフスキー 作画:メビウス 訳:原正人)

 フランスには文学や音楽、建築、映画など芸術のジャンルごとに番号が付けられているのだが、BDは「9番目の芸術」と呼ばれ、批評の対象にもなっている。BDの特徴にはコマが横長であること、そしてその1コマ1コマが緻密(ちみつ)に描かれているということなどがあげられる。現在BDの作家は約1500人ほどで、そのうち約10%が女性なのだという。

 ベルギーのマンガ家・エルジェの代表作「タンタンの冒険」は日本でも知られた作品だが、これも実はBDだ。BDは日本のマンガ家にも大きな影響を与えていて、中でも「アンカル」シリーズや「ブルーベリー」シリーズなどで知られるメビウスは、宮崎駿さん、大友克洋さん、谷口ジローさんといった大御所といわれるような人たちにも影響を与えていることで知られる。

藤原さんによる日本マンガの樹形図

 トークイベントではまず、トゥルモンドさんによるBDの簡単な説明が行われた。日本では、マンガ誌などで連載し、その後単行本化するというのが一般的な出版スタイルだが、フランスでは「いきなり単行本で発売するのが一般的」だという。20〜30年前には、日本と同じように雑誌の掲載もあったようだが、だんだんと廃れていったのだそう。また、「昔は『タンタンの冒険』など子ども向けの作品がほとんどでしたが、1970年代半ばからは、メビウスたちの活躍のおかげで大人向けの作品が登場してきました」と、BDの変遷も語られた。

 近年では「フランガ」「マンフラ」と呼ばれるような日本のマンガに影響を受けたBDも増えている。トゥルモンドさんが代表を務めるユマノイド・ジャパンは、日本にBDを広めるべく2014年に設立された出版社。もともとは、1974年にメビウスやフィリップ・ドリュイエといった作家が中心となってフランスで設立されたユマノイド・アソシエという出版社があり、ユマノイド・ジャパンはその日本支社に当たる(本社はアメリカのロサンゼルス)。トゥルモンドさんは、BDの柱となるような有名な作品を紹介した後は、「フランガ」「マンフラ」のような新しい形式の作品をユマノイド・ジャパンから発信していきたいと考えている。

 続いて藤原さんは「かなり個人的な思い入れが中心だし、不完全で、重要な作家さんが抜けていたりするんですが」と前置きしつつ、自前の樹形図を公開。横山隆一や長谷川町子、田河水泡などから始まり、ディズニー、手塚治虫、そして「ガロ系」「劇画」などのジャンルを経て、現在の幅広いジャンルに続くマンガ家、ジャンルの派生について説明した。マンガ家が語るマンガ論に、会場の参加者は熱心に耳を傾けていた。

藤原さん作の樹形図 藤原さん作の樹形図

 藤原さんがメビウスの作品に初めて出会ったのは「Heavy Metal」という雑誌で、これはメビウス、ベルナール・ファルカ、フィリップ・ドリュイエらが手掛けた雑誌「メタル・ユルラン」をアメリカで翻訳出版したもの。高校生のときに神保町に通っていたという藤原さんだが、当時アメコミは600円ぐらいだったのに対し、Heavy Metalは1900円と高価でなかなか手に入らなかったと、昔の思い出を振り返った。

「Heavy Metal」をめくりながら語る藤原さん 「Heavy Metal」をめくりながら語る藤原さん

 西さんは、「子どものころはジャンプや藤子不二雄作品を読んでいて、小6で『AKIRA』(大友克洋)、中1で丸尾末広作品に触れた」と自身のマンガ遍歴を告白。初めて読んだBDはマックス・カバンヌの「目隠し鬼」で、「これは何だ!」と衝撃を受けたという。家から大量のBDを持参した西さんは作品を広げながら、「日本のマンガって輪郭を黒のペンで描いて、スクリーントーンでいろいろ表現するんですけど、この作品は主線がないというか、光で輪郭を表現しているんですよね」とマンガ家視点でBDの魅力を力説した。

登壇者が愛するBDは?

 続いておすすめの作品を聞かれると、西さんはホドロフスキー原作で、メビウスが作画を担当した「アラン・マンジェル氏のスキゾな冒険」を紹介。「これ、タイトルどうなの?」と突っ込みを入れつつも、「すごい読みやすい、手塚治虫のマンガを読んでいる感覚になる作品」とコメントした。藤原さんはジェリー・フリッセンの「ルチャドーレス・ファイブ」を紹介。「絵が親しみやすい。いつか日本でアニメ化してほしい作品です」と、猛プッシュした。

「ルチャドーレス・ファイブ」のフィギュア 藤原さんが苦労して手に入れたという「ルチャドーレス・ファイブ」のフィギュア

 BDとマンガの違いについて藤原さんは「BDは1枚絵を主体に描く手法で、日本のマンガは映画のようにカット割りをして、スピード感を出す手法。そこが一番大きな違いなんじゃないかな。だからその文法に慣れるまでちぐはぐな感じを受けるかもしれないけど、慣れてしまえば読めるようになる」とコメント。また最近気になる作家として、「ウルトラジャンプ」(集英社)で「レビウス」を連載中の中田春彌さんの名前をあげ「『静』なんだけどすごく『動』を感じる。写真で一瞬を切り取った感じ。モーションの途中の浮遊感がかっこいい」と絶賛した。

ユマノイドとバンド・デシネの夜 トークイベント後の懇親会では、BDの試し読みも行われた
ユマノイドとバンド・デシネの夜 参加者の多くがこれまでにBDに触れたことがなく、興味深そうにページをめくっていた

 電子書店「eBookJapan」では、「ファイナル・アンカル」(著:ホドロフスキー 作画:メビウス 訳:原正人)、「テクノプリースト」(著:ホドロフスキー 作画:ゾラン・ジャニエトフ 彩色:フレッド・ベルトラン 訳:原正人)、「わが名はレギオン」(著:ファビアン・ニュリ 作画:ジョン・キャサデイ 訳:原正人)など12タイトルを配信。1話500円で提供している。

(宮澤諒)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news189.jpg 「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
  2. /nl/articles/2411/22/news014.jpg 川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
  3. /nl/articles/2411/22/news114.jpg 中村雅俊と五十嵐淳子の三女・里砂、2年間乗る“ピッカピカな愛車”との2ショを初公開 2023年には小型船舶免許1級を取得
  4. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  5. /nl/articles/2411/22/news032.jpg 「壊れてんじゃね?」 ハードオフで買った110円のジャンク品→家で試したら…… “まさかの結果”に思わず仰天
  6. /nl/articles/2411/22/news018.jpg 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  7. /nl/articles/2411/22/news171.jpg なんと「身長差152センチ」 “世界一背が低い”30歳俳優&“世界一背が高い”27歳女性が奇跡の初対面<海外>
  8. /nl/articles/2411/22/news145.jpg 大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
  9. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  10. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた