日本アニメの創成期を知る大ベテラン 「カールおじさん」の生みの親・ひこねのりおさんに聞くアニメ業界秘話【PR】(2/3 ページ)

» 2016年06月20日 10時00分 公開
[ねとらぼ]

カールおじさん誕生秘話

―― ひこね先生のCMキャラクターは時代を超えた普遍性がありますよね。中でも代表作は「カールおじさん」だと思いますが、どうやって発想されたんでしょう?

ひこね あのころは高杉監督の中に、かっこいいCMよりはむしろ田舎っぽいものを作りたい、というイメージがあったんです。それで動物をいっぱい出してみたんですが、その中に大人の人間も1人ぐらい入れたいと思って、いたずら半分で入れたのがきっかけでした。

ひこねのりお 初登場時は脇役だった「カールおじさん」(カール公式サイトより)

―― カールおじさんは人間というより動物のひとつだったと。今でこそ愛されるキャラクターですが、当時はあまり品がないという声があって、一時CMから降ろされたこともあったそうですね。

ひこね 僕はいちアニメーターだから直接聞いてないんですが、明治のえらい人のお怒りに触れたんだそうです。あのおじさんが人気だったので、2作目のCMで主役にしたんだけど、僕もバカだから、2作目のおじさんは歯を2本にしちゃったんだよ(笑)。そしたら明治の方にカールを食うと歯が抜けるのか、見た目も泥棒みたいだ、と誤解されたみたいで。でも3作目で坊やを主役にしたら、「おじさんどうしたんだ?」という人がかなりいてくれたんです。あのころはネットがなかったから、どういう形で反応があったか分からないですけど、おかげでカールおじさんがCMに返り咲けたんです。

―― そういう名キャラクターを作る秘訣は、何かあるんでしょうか。

ひこね 特に秘訣がないのが秘訣ですね。あんまり考えて考えて描いたものよりは、いたずら描きみたいに描いたキャラクターが評判が良かったりします。例えば注文を受けて10パターンのキャラクターを作ったとして、「もうひとつふざけたやつを」と思って11個目に描いたものが一番いいんですよね。

―― 特に名前を見なくても、明らかにひこね先生だと分かるキャラが多いですよね。NHKの「みんなのうた」の「赤鬼と青鬼のタンゴ」も見た瞬間に分かりました。鬼という怖い存在のはずが、どこか親しみやすくて。

ひこねのりお 「赤鬼と青鬼のタンゴ」(右側中段)はひこねさんの手がけた名キャラクターのひとつ(ひこねのりお公式サイトより)

ひこね あれの面白いところは、「タンゴを踊る鬼」というものの国籍がよく分からないところなんです。やっぱり節分に出てくるような鬼だったらタンゴは踊らないだろうし、じゃあどんなデザインにすればいいのか。そういうところで苦労はしたかもしれないですね。

―― 「日本昔ばなし」など一般のアニメも手がけられていますが、CMを作る時との制作姿勢の違いはありますか。

ひこね CMはディレクターがいますから、ディレクターのイメージを一番尊重します。「みんなのうた」や「日本昔ばなし」は自分のイメージで演出しますから、その違いはありますね。どちらも違ったやりがいはあるんですよ。

―― でも、CMでものびのびと作られていますよね。

ひこね 特に昔のCMは自由にやらせてもらったような気がします。監督が僕のことをよく知っているから、そういうことができたんですよ。クライアントからもあれこれと細かい注文はなかったし、自由にできた。すごく恵まれていたと思います。

―― 最近のCMはいかがですか?

ひこね 最近のキャラクターデザインは着ぐるみになることを前提に考えているのが、昔と違うところかな。

―― 確かに今のゆるキャラなどはイベントで活躍するのが当たり前ですし、デザインの段階から「中に人が入ること」を前提にしているんですね。そうすると骨格の違いなども考えてデザインしないといけなくなる。

ひこね ただ、ある程度考えるけど、あんまりそれにこだわっちゃうとつまらなくなっちゃうんですね。アニメのほうも、動かしやすいキャラクターにこだわると、つまらないキャラクターになっちゃうんですよ。

自分にない発想を引き出してもらえたペンギンCM

―― サントリーの缶ビールCMでのペンギンアニメ(1983年)もステキでしたね。ジャズバーでペンギンがバラードを聴きながらほろりと涙を流すという、すごくいい雰囲気のCMでした。松田聖子さんの歌とマッチしていて。

ひこねのりお CMで人気になったペンギンアニメ。後に「パピプペンギンズ」と名付けられました(ひこねのりお公式サイトより)

ひこね 運が良かったですよね、松田聖子さんがすごく人気あった時代で。あれが特に恵まれていたのは、当時のサントリー社長が「何でもやりなさい」みたいな人だったことですよ。本当にラッキーだと思います。

―― 今の時代だと、自由にやらせてくれる依頼があまりない?

ひこね カールでも、一番最近やったCMはかなり厳しかったですね。15秒の中に春夏秋冬を入れてくれという。昔は「春編」「夏編」が別々で、しかも30秒のCMだった。今は1年通して、ずっと使えるやつを作ってくれと。

―― ペンギンの場合は先にキャラクターデザインをされて、CMは後から企画が立ち上がったんですよね。

ひこね ええ、最初は電車の中吊りポスターとしてデザインしたものでした。そしたらテレビCMでもやると。ディレクターの木村俊士さんのイメージがすごく実写的だったから、最初は戸惑いましたね。カールも「きのこたけのこ」もそうですけど、僕がそれまで作っていたのはたいていワンカットで終わっちゃう、舞台でコントをやっているような牧歌的なCMでした。だけど、木村ディレクターが出してきたコンテがすごく実写的で、こういう方向があったんだと目から鱗が落ちて。そういう面では、ディレクターにも恵まれていたんですね。

ひこねのりお 最初はポスター用に描かれたものでした(ひこねのりお公式サイトより)

―― CMでは、他の方が自分にない発想を与えてくれる楽しみもあると。

ひこね 全くその通りですし、おかげで今の自分があるんじゃないかなって気がします。表現を引き出してもらえたという。

ひこねのりお かわいらしいペンギンたちの哀愁漂う振る舞いが印象的なCMでした(ひこねのりお公式サイトより)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/01/news048.jpg 「見間違いかと思った」 紅白歌合戦「ディズニー企画」で起きた“衝撃シーン”に騒然「笑った」「腹痛い」
  2. /nl/articles/2501/01/news049.jpg 星野源がNHK紅白歌合戦で着用? 「1270万円ネックレス」に騒然 「家買える」「集中できなかった」
  3. /nl/articles/2412/13/news144.jpg 軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後……驚きの姿に大反響 2024年に読まれた猫ちゃん、ワンちゃん記事トップ5
  4. /nl/articles/2501/01/news044.jpg 大谷翔平、“2500万円超の高級車”ショットに恍惚 「カッコよすぎる」「助手席に乗せて下さい」
  5. /nl/articles/2412/31/news072.jpg 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→“子どもの予定は?”への回答に再注目 「優しすぎ」「素敵すぎる!」
  6. /nl/articles/2501/01/news052.jpg ryuchellさん姉、母が亡くなったと報告 2024年春に病気発覚 「ママの向かった場所には世界一会いたかった人がいる」
  7. /nl/articles/2501/01/news039.jpg 学校で恋に落ちた2人、11年後…… 同じ場所同じ姿勢で撮った写真がすてき「エモ」「かわいいラブストーリー」【海外】
  8. /nl/articles/2501/01/news051.jpg 「衝撃すぎ」 NHK紅白歌合戦に41年ぶり出演のグループ→歌唱シーンに若年層から驚きの声 「てっきり……」
  9. /nl/articles/2412/31/news047.jpg 知らない番号から電話→AIに応対させたら…… 通話相手も驚がくした最新技術に「ほんとこれ便利」「ちょっと可愛くて草」
  10. /nl/articles/2412/29/news100.jpg 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  2. 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
  3. 「すごい漢字!」 YouTuberゆたぼん、運転免許証公開 「本名の漢字」に衝撃の声続々
  4. 「麻央さんにそっくり……」 市川團十郎の11歳息子・勸玄の成長ぶりに驚きの声 「大きくなってる!」「すでに貫禄がある」
  5. チェジュ航空社長、日本語で謝罪 犠牲者は170人以上との報道 公式サイトは通常のオレンジからブラックに
  6. 「スマホ入荷しました」 ハードオフ店舗がお知らせ→まさかの正体に大横転 「草しか生えない」
  7. 母「昔は数十人もの男性の誘いを断った」→娘は信じられなかったが…… 当時の“想像を超える姿”が2800万再生「これは驚いた」【海外】
  8. 毛糸で作ったお花を200個つなげると…… “圧巻の防寒アイテム”完成に「なにこれ作りたい……!!」「美しすぎる!」と100万再生【海外】
  9. 「思わず泣きそう」 シャトレーゼの“129円クリスマスケーキ”に衝撃 「すごすぎない!?」「このご時世に……」
  10. 「デコピンを抱き寄せたのはもしかして」 妻・真美子さん第1子妊娠発表で大谷翔平の発言と行動に再注目 「“もう帰る?”は気遣っていたのかも」
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」