2020年東京五輪により消えゆく「霞ヶ丘アパート」 そして建設中の湾岸地区を写真集に司書メイドの同人誌レビューノート

静と動の対比。

» 2016年11月13日 13時00分 公開
[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 前回はロボットプロレスの本を紹介したのですが、今回もスポーツとご縁のある、でも打って変わって写真集同人誌を2冊レビューいたします。

今回紹介する同人誌

「霞ヶ丘アパート」 A5 32ページ 表紙・本文カラー

「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」 A5 24ページ 表紙・本文カラー

著者:世羅拓人


同人誌「霞ヶ丘アパート」 桜と鮮やかな色の柑橘の実が、古びた団地の前に鮮やかです
同人誌「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」 まだまだ草生い茂る中からのスタート

人の気配が感じられる古い団地写真集。でも実は……

 「霞ヶ丘アパート」の表紙には白い壁の団地が立ち並んでいます。赤い色のべランダがアクセントになって、なかなかモダンな色使い。でもよく見ると壁もくすんで、赤い色も褪(あ)せているみたい。

 ページを開くと、さらにたくさんの団地構内の様子が掲載されています。模様のように這(は)い登るつたのシルエットは、大きな海藻の押し花のよう。巨大化した植物はアロエでしょうか。写真に閉じ込められた、そんな1つ1つの光景が、この団地の歴史の長さを物語っています。

同人誌「霞ヶ丘アパート」 向こうからランドセルを背負った子が走ってきそうな道ですね

 よく育った木々にお花が咲いているのが、団地の窓からもよく見えそう。けれど、ふと気づきました。団地なのに住人の姿がない……。そう、これは取り壊しを目前にした霞ヶ丘アパートの姿なのです。

 団地があるのは東京都新宿区霞ヶ丘町。すぐ近くには国立競技場があったのです。国立競技場はいま建て替え中……ということからお分かりになった方もいらっしゃるかもしれません。写真に収められたのは、2020年の東京オリンピックに向けての開発により消えゆく姿なんです。

同人誌「霞ヶ丘アパート」 雲ひとつない青空の下。遊具はひっそりとしています

 いずれ取り壊されるということは知らなかった場所なのに、本を見ていると、なぜか郷愁を帯びた気持ちになります。ゴミ置き場に出されたアイロン台、給水塔の手前に咲く椿の鮮やかなピンク色、そんなところに住人の気配を濃厚に漂わせ、けれども明るい日差しの中を出歩く影はひとつもない……。よく晴れているのに傾いた日差しは、団地に長い影を落としています。それは日の短さを連想させて、まだまだ遊びたいのに「さよなら」と友達と別れて家路につくような、そんな名残惜しさを感じます。そしてそれは終盤のページ、重機によって取り崩された風景につながっていくのではないでしょうか。

同人誌「霞ヶ丘アパート」 いったん大きな力が加わると、もろくさえも見える光景です

 取り壊しの写真は、薄日のくもりと、そして夜。団地跡に、ぽっかりと空が広がります。今はもう、この写真の光景はありません。

同人誌「霞ヶアパート」

重機+野原。え、ここに競技場が建つの?

 それに対して、重機が「どん!」と、真ん中に据えられた写真が多いのは「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」。砂場や砂利に囲まれてせっせと働く重機など、「真新しさ」を感じる画面で、工事に取り組むスタート前の準備体操のような1冊です。ゆりかもめでぐるっと巡れそうな、湾岸地帯は国際展示場もあって、個人的には割と行き慣れたところです。そんな東京の湾岸地帯を中心に、これからオリンピック関連の建物を建設するよ! という瞬間が切り取られています。

同人誌「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」同人誌「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」 青空に重機。ショベルカーにおでこがあるなら、汗が浮いていそうです

 整地した土の脇で、工事が始まっているのも気にかけないとでも言いそうなほど、青々と葉を伸ばす雑草。写真はまだまだどんなものが建つのか全く未知数な、最初の一歩とも言えそうな状態のものばかりです。勢いのある雑草に囲まれて、重機が汗をかきかき奮闘しているようにさえ見えますもの。

同人誌「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」同人誌「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」 ここに自転車競技場ができるのですね

 毎ページ、横に簡単な地図と、工事予定の内容が添えられて「あっ、ここですか!」と、分かりやすいです。しかし競技場、選手村、道路や公園と、工事の目的は様々です。こーんなにたくさんの建物をいまから作るの!? とあらためてびっくりします。

同人誌「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」同人誌「東京湾岸地区の五輪再開発地区写真集」 明るくて、それでいて一台も車のいない光景は神秘的です

気付かないうちに変わって行く街、2020年に向かって

 2020年の東京オリンピックの話題を聞かない日はないくらい、いろいろなところでニュースが流れています。しかし、団地が消え、新しい道や競技場の建設に向かって着々と一歩が進んでいることを、どことなくまだ遠いことだと思っていました。でも、こうしている間にも街は変わって行くんですね。

 本を眺めていると、人々がたくさん住んでいた場所は更地に返り、そこから人が集う施設が生まれるのは、なんだか秋の落ち葉の後に、新芽が芽吹くような輪廻みたいだと思いました。A5サイズは写真集としてはコンパクトな作りかもしれませんが、そのシンプルで軽やかな装丁ゆえに、同じ版型で並べて読んで「いま、街は動いている」というのを多方向から身近に感じることができました。

 そしてあともう幾度か夏が来たら……大きな大会は、すぐそこまで来ているんですね。


サークル情報

サークル名:東京五輪工事中

Twitter:@TakutoSera_Plan

本の入手先:次回のイベント参加など含め、Twitterで発信中


今週のシャッツキステ

シャッツキステ 当館のちっちゃなメイドうさぎのカッタンと、クッキー売りのムスタフィがサッカー対決? 草サッカーならぬテーブルサッカーで、まつぼっくりがボール代わり。シュートの行方を見守ります!

著者紹介

司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/18/news202.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
  2. /nl/articles/2412/20/news023.jpg 60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
  3. /nl/articles/2403/21/news088.jpg 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  4. /nl/articles/2412/21/news038.jpg 皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
  5. /nl/articles/2412/21/news088.jpg 71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
  6. /nl/articles/2412/21/news056.jpg 真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
  7. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2412/21/news005.jpg 藤本美貴、晩ご飯に手料理7品 多忙でも野菜とお肉たっぷりで反響 「お疲れ様です」「凄く親近感」【2024年の弁当・料理まとめ】
  10. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」