アニメーターの待遇問題は改善されているか “アニメーター寮”に住む若手に聞いた(1/2 ページ)

現役若手アニメーターと今年から働く新人を取材しました。

» 2017年02月05日 10時00分 公開
[Kikkaねとらぼ]

 「20代の若手アニメーターの平均月収は月9万円」「3年以内の離職率が9割」――こうしたアニメーター業界の厳しい状況を改善すべく、立ち上げられた「アニメーター寮」があります。なぜ若手アニメーターに救いの手を差し伸べるのか、その支援活動や、若手アニメーターが今何を感じているのかを取材しました。

 「アニメーター寮」はその名の通り、若手アニメーターだけが利用できる専用の寮。NPO法人「アニメーター支援機構」が東京・杉並区にある一軒家と荻窪のマンションを寮として運営しています。寮内では業界歴3年目までの若手アニメーターたちが共同生活をしています。

 寮生の田中 正晃さんは国立・筑波大学芸術専門学群洋画コースで油絵を専攻後、アニメーターとして就職。現在は新人が担当する動画から原画マンにスキルアップして2年目、業界歴は3年目です。

「自分の作品だといえるものを作りたい」


アニメーター支援機構 アニメーターの田中 正晃さん

――小さいころからアニメーターを目指していたのでしょうか

田中いえ、僕は大学生になるまで真剣にアニメを見たことがありませんでした。あまり将来についても真剣に考えていなくて、最初は美術の教師になろうかな、となんとなく思っていたのですが、友人に勧められた「とらドラ!」を見て、アニメって面白いなと思いました。

――「面白いな」から「作りたいな」に変わったきっかけはあったのでしょうか

田中学部の雰囲気もあって「何か作らなきゃ」という気持ちを常に持っていました。そんなときに当時流行していた「ニコニコ動画」を見て、「あれ、これなら作れるんじゃないか」と思い、1人で半年ぐらいかけて地道に1分30秒ぐらいのアニメPVを作りました。そうやって自分のアニメを作っているうちに、プロの現場で仕事をしたいという思いが出てきました。

――アニメ業界に就職すると決めてからはどうしましたか

田中まずアニメ業界に入るにあたって、いろいろと調べました。それこそアニメ系の専門学校のオープンキャンパスなどに出掛けて、アニメーターご本人のお話を聞いたり、ネットで調べたり。そうして東京のアニメ制作会社に業務委託契約という形で採用されました。

――アニメーターになってからは、どのような仕事が待っていましたか

田中アニメーターは「動画」と呼ばれる作業からはじまります。動画とは「原画」担当者が描いた絵と絵の間にさらに絵を描いて、動きを滑らかにしていく作業です。このセクションを大体1年半ぐらい経験したあと、原画試験を受けて現在は「原画」を担当しています。

原画試験……動画担当者が原画を担当するために設けられている会社ごとの試験のこと

――試験にはどうやって臨みましたか

田中僕の所属している会社の場合、3カ月間で動画を1200枚描かなければ原画試験を受けることが出来ません。僕は入社1年目の終わりごろに目標枚数を達成し、原画試験を受けましたが、1度では合格できず、3度目でやっと合格できました。

――最近アニメ業界の、特にアニメーターの待遇が厳しいという話を耳にすることがあると思うのですが、率直にどう思われていますか

田中新人で経験の浅いうちはかなり厳しいと思いますし、実際僕はそうでした。ですが僕のいる会社では、待遇が改善されつつあります。

――具体的にはどう改善されたのでしょうか

田中まだ、詳細は確定していないのですが来年度から働き方、教育面、賃金面でいろいろと変わっていくと聞いています。実は今までは業務委託契約だったので、“契約上は”他社の仕事を請けてもいいことになっていました。だから僕は別に悪いとも思わずに他社の作品に参加し、自分のクレジットをそこで流してしまったんですよね。

――そうしたらどうなったんでしょうか

田中叱られましたね。契約上はそれでいいかもしれないけれど、僕はその当時まだ見習い的な立場でした。だからそのあたりをよくわきまえないといけない、ということで。

――なるほど、倫理的な部分でというところですね

田中そうです。確かに「そうだな」と思うところもあるのですが。会社と業務委託契約を締結するにあたって、作業への単価と別に毎月固定で追加報酬はもらっているのですが、賃金以外にも納得できない部分もあって……。例えば、他社の仕事を取ることを禁止したり、ノルマを設けたり、社員ではないのに社員と同等の労働上の規則を暗に課しているという部分です。本質的には歩合制なのに自分の労働時間や仕事の種類をコントロールできない。そこがほかのクリエイター職と比べてアニメーターを続けていきにくい一因になっていると思います。

――会社には分からないものなのでしょうか

田中もちろん会社の仕事も一生懸命やっていましたが、気付いていたかもしれませんね。その後、一度会社から離れることも視野に入れたうえで、会社に対して他社の仕事も請けている旨を告白しました。というのも、所属している会社の仕事をフルでやりつつ、他社の仕事をするという状況のなかで、自社の仕事量をコントロールできないつらさを感じ始めたからです。

――会社側の反応はいかがでしたか

田中よく話を聞いてくれたと思いました。そういう話を会社側に正直に話せたのも、会社が待遇を改善する方向性に進んでいるのも報道が一つのきっかけだと思っているので、業界の実情を世間に知ってもらえてよかったかなと思っています。

――そうなのですね。ちなみに田中さんのように「食べていけるアニメーター」になるにはどうすればいいのでしょうか

田中僕が食べていけるアニメーターなのかは甚だ疑問ですが(笑)。画力以外にも描くスピードや営業能力は必要だと思います。

――なるほど、田中さんは今後アニメーターからどういったスキルアップを目指したいと考えていますか

田中「何を生意気な」と思われるかもしれませんが、僕はアニメーター職人としてだけ生きていきたい訳ではありません。僕の幸せは「絵を描いて、自分の作品を作っていく」ということ。ですから、アニメという枠組みだけにとらわれず、自分の作品を作れる人間になりたいと思っています。


アニメーター支援機構 寮の空き部屋。かなり広かった

――アニメーター寮についてはどうでしょうか

田中僕が機構を知ったのは、先ほどお話しした就職前の情報収集の時で、ちょうど就職と寮のオープンが同じ時期だったのでお世話になっています。この寮にはいろいろな会社で働くアニメーターがいるので、他社の情報も分かりますし、機構がやっている勉強会や食事会でさまざまな人と出会えるというのはいいことだと思います。「こうなってもこうすればいいから大丈夫」といった情報が入ってくるので、心の余裕が持てているなと感じますね。

――デメリット的なことはないのでしょうか

田中僕自身は不便を感じないのですが、支援を受けているという立場なのでそれなりにやることはあります。例えば支援者の方へ色紙を描いたり、お礼のイラストを描くこともあります。あとはSNSを使った活動もやっているので、「人と関わるのが極端に苦手」という人にはしんどいかもしれません。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた