空想世界に漂う生活感 “秘密基地”のようなお部屋を集めた魅惑のイラスト集「おさまる家」:司書メイドの同人誌レビューノート
こんなお部屋に住んでみたい!
予想外のいいお天気にびっくりする日が続いています。ひとことで言うと暑いですね! 私設図書館にいると「本当にこのあと梅雨が来るのかなあ?」なんて話題になることも。日差しが強すぎるとき、じめじめ雨のとき、ちょっと外には出たくないとき……そんなときに、「こんなお部屋に引きこもりたーい!」と思ってしまうような同人誌があります。
今回紹介する同人誌
「おさまる家」 B5 28ページ 表紙・本文カラー
著者:井田千秋
小さなお部屋にときめきがいっぱい! 魅惑の小部屋イラスト群
こちらの同人誌はオリジナルのイラスト本です。収録されているイラストは、3月に開催された個展の展示作品が中心。
淡いけれど深みのある色合いが重なる幻想的な世界を、やわらかなペンタッチがまとめます。そうして表現されたのは、小さなお部屋。一つ一つのページに、一つ一つのお部屋の様子と、そこに住まう女の子たちの様子が描き出されています。
とても穏やかな画風なのに、私は「うっ!」と胸をつかまれてしまいました。それは部屋が素晴らしく小ぢんまりしているから。“素晴らしく小ぢんまりした部屋”って、あまり口にしたことのない言葉ですが、でもそこが魅力的なんです。
例えば「ごめんください」と題された絵を見ると、まず壁から突き出た階段にわくわくします。そして、座ってすぐに手が届く場所にある棚には、本がたっぷり入れられています。少し本が曲がっているのは、いかにも読みかけそのままという感じ。階段下の戸棚には食パンとジャムの瓶が並んで……と、細部まで描き込まれた部屋の品々。それがこの小さな空間にすっぽりと収まっているところを見ると、
“秘密基地”
なんて言葉が浮かんで、胸のときめきと、ほんのりとした郷愁が湧きあがってくるのです。お部屋はどれも決して不自然ではないのに、どこか不思議な、空想世界に通じているような雰囲気です。
夢想世界にゴミ箱1つ。日常と夢のはざまで
「私設図書館」と題されたお部屋には、ひときわ胸が高鳴ります。2階に登るはしご、階下には引き出し式の本棚が並んで、そこには見だしが付いています。「あれはきっと書架番号を書いているんだわ! どんな本が所蔵してあるのかしら」と、いつしか食い入りるように紙面を見つめていました。
濃紺のインクのような落ち着いた色合いでまとめられた世界は、本を読むときに訪れる静寂を思い起こさせるのにぴったりの色彩です。「はぁ……憧れます」と、うっとりしていたとき、私の目に、その部屋の一隅が驚きとともに飛び込んできました。
このお部屋、ゴミ箱がある!
にわかには信じられず、え? とまじまじと見つめてしまいました。2階の戸棚の横、確かにこれはゴミ箱です。えー! こんなかわいい、ファンタジック感さえ漂う世界にゴミ箱描いちゃいます!?
しかも、特にきらびやかでもない、この形、事務用品のカタログで見たことある気がします。うーん、幻想的な世界にゴミ箱……あ、でも、ふと気付くとこれが全然違和感ないんですね。それどころか、ほっとすらしました。「ああ、この世界にもゴミはあるんだ」って。人が暮らしていくときに、ぬぐいきれない日常感が生まれていくものですよね。それは空想世界の場合にはあえて描かれないことが多いですが、この「おさまる家」のイラストはどれも人が暮らしている匂いがするようです。わくわくの部屋設計と、こまごまとした愛らしい品たち、「このにじみ出る生活感がいい!」とすら思うのです。
住人とその暮らしに思いをはせて
こんなすてきなお部屋で暮らしている住人たち、そのたたずまいがさらに絵の中の世界を広げていきます。女の子たちが、本を読んだり、お料理をしたりする様子から、彼女たちの“普段の様子”に思いをはせます。「こっち私わたしこっち」の2人は姉妹でしょうか。年長の女の子のまなざしがとても穏やかです。きっとケンカをするときもあるけれど、仲の良い2人ではないかしら、と想像してしまいます。
日常あふれる小さなお部屋なのに、その空間はとっても奥深くて、きっと安心して過ごせるような……と、いつしか自分もその部屋に一緒に居るような気持ちになってしまう本です。
サークル情報
サークル名:tot lot(トットロット)
Twitter:@dacchi_tt
Webサイト:http://chiakiida.tumblr.com/
入手先:http://chiakiida.tumblr.com/store
次回のイベント参加予定:デザインフェスタvol.45(5月27日・28日、スペース/E-377)、「私のお部屋」(6月23日〜7月2日、グループ展、会場:ブックギャラリーポポタム)
今週のシャッツキステ

著者紹介

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