「残業100時間が常態化」「残業代は給料の4%のみ」 教職員の過酷な労働実態、過労死遺族らに聞く(2/2 ページ)
上限なき労働が招いた妻の死――過労死遺族
小学校の教諭だった山口聡美さんは2016年1月に勤務先の石川県野々市市立富陽小学校で会議中に倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。51歳という若さで旅立った聡美さんの夫で、今回のネット署名活動にも参加している白山市議の山口俊哉さんは「度重なる長時間労働と校長による無理な人員配置が妻の命を奪った」と悔しさをにじませます。
俊哉さんによると、聡美さんは24歳から51歳までの27年間教師一筋。2014年から同校に赴任し、学年に5クラスある1年生の学年主任を務めていた聡美さんですが、月に100時間近い時間外労働が常態化。亡くなる数カ月前には「大分疲れた……」と疲れた顔を見せていたといいます。
聡美さんの死後、納得できない思いを抱え、公務員の労災にあたる公務災害認定申請を目指した俊哉さんに立ちはだかったのは、聡美さんの命を奪ったともいえる「給特法」でした。申請のためには、出退勤時間や持ち帰り仕事を含めた実働時間など労働時間の算出が必要でしたが、「給特法」によって教職員の勤務時間の把握・管理がされていなかったため、聡美さんの正確な労働時間が分からなかったのです。
その後、野々市市の教育委員会が調査委員会を立ち上げ、聡美さんに貸与していたPCのログイン・ログアウト時間を使って勤務時間を推定する方法で労働時間を推定。聡美さんが倒れた日からさかのぼって半年分のデータを集計したところ、PCを使用していた時間だけでも、月に80時間程度の時間外労働が発生していたと発覚しました。さらに帰宅後も夜遅くまで持ち帰り仕事をしていたことから、月の時間外労働は100時間を優に超えていただろうと推測されます。
このような長時間労働に加えて俊哉さんが問題視しているのが、校長による不可解な人員配置です。聡美さんが学年主任を担当していた小学1年生は、2014年の時点で50代のベテラン教諭、30代の中堅教諭、聡美さんらが5人で担任をしていました。ところが2015年にはまだ若く経験の浅い教諭や非常勤講師が担任を担当することとなった他、そのうち2人が相次いで産休に入ることも決まるなど、聡美さんへの負担が増加していった可能性が考えられます。
こうした状況について、自身も教職員であった俊哉さんは「(1年生の)担任の先生方の経験不足感が否めなかった。しかもそのうち1人は、担任になる前から産休を取ることが決まっており、(聡美さんは彼女の)負担を減らそうと気を遣っていた」と振り返り、「小学校生活でいちばん大事な1年生の担任に、こうした先生方を配置することは通常ありえないことだと考えている。校長の責任は重い」とやり場のない憤りを抱えています。
10年前にも同じ議論が行われるも結論は出ず――文科省
「教職員の働き方改革推進プロジェクト」では、ネット署名以外にもこれまでに集めた署名を文部科学省の義家文科副大臣や馳前文科大臣らに手渡しており、6月22日には松野文科大臣が「中央教育審議会総会」で、教員の勤務時間管理に関する改善策などを諮問(しもん)するなど問題への解決に踏み出しているように見えます。
しかし、文科省の担当者の一人は「10年ほど前にも同じような話題が持ち上がり、議論になったが、そのときは結局結論が出るに至らなかった」と取材に対して明かしました。国がどの程度の熱意を持って問題の改善に取り組むのか、今後の対応に全国の教職者の未来がかかっています。
(Kikka)
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