「描きたかったのは“見る”ことがどういうことか」 映画「東京喰種 トーキョーグール」萩原健太郎監督に聞いた
「“目”から始まって“目”で終わるように作った」という作品への思いを聞きました。
映画「東京喰種 トーキョーグール」が大ヒット公開中です。人間の姿をしながら人を喰らう“喰種(グール)”におびえる東京で、平凡な大学生・カネキ(窪田正孝)がリゼ(蒼井優)という女性と出会い、その運命を大きく変えていく――という物語。石田スイさんの人気漫画の実写化でメガホンを取った萩原健太郎監督に話を聞きました。
―― 萩原監督は、ショートフィルムや企業CMなどで知られていますが、長編映画は今作が初ですよね。
萩原 そうです。ムービーというものは前後関係で成立するものなので、どんな尺でも撮り方自体は変わりませんが、長編はカットやシーンがより複雑ではありますね。だから、事前にコンセプトというか、作品の根底を貫くテーマを1つ考え抜くことにものすごく時間を掛けました。
―― 原作がある本作を映像化するにあたってどんなテーマを設定されたのですか?
萩原 “見る”ということがどういうことなのかを描きたいと思いました。
僕は“見る”ということは“知る”ことだと考えています。でも、現実の世の中では相手の気持ちを知らなくても物事が進んでいくことが多いような気がしていて、僕はそれを見ていないのと一緒だと思うんです。
カネキも普通の大学生で、本ばっかり読んでいて友人もヒデ(小笠原海)しかいないような人間で、世界を見ているようで見ていない。喰種に対してもそんな感覚で、自身が半喰種となり、喰種を見る中で彼らがただの化物ではなく、人間と同じように痛みを抱えていることを知り、ついには彼らのために立ちあがっていく。喰種になることでかえってより人間らしく成長していくストーリーにしたいという思いがありました。この作品は“目”から始まって“目”で終わるように作ったのですが、これにはそうした思いを込めています。
実は、カネキが見ている世界も、半喰種になる前、人間だったころは色味を落とした彩度の低い画面にしています。彼にとって唯一の光であるヒデだけ少し色味があって。喰種になって赫眼(かぐがん)で街を見たときに、色づいていく。ただ映像としてカッコイイからとかではなくて、テーマに沿ったビジュアルを構築していきました。
―― あんていくの店内が妙に白っぽく感じたのもそういうことなんですね。人は認識したものしか見ていないというお話は興味深いです。現代的というか都会的というか。
萩原 タイトルにも“東京”と入っているので、やっぱり海外の人はこれは東京を描いたものとして見ると思います。だから、“東京”の若者を描かないと成立しないなと。
“見る”という先の文脈でいえば、それが東京、あるいは日本特有かといわれれば必ずしもそうではないかもしれません。ただ、僕が1つ思うのは、日本はほとんど日本人しかいなくて、共通の“何か”があるだろうという考えがありますよね。さらに、自分の意見をあまり言わず相手に感じ取ってもらいたい文化というか、そういうものが全て悪く作用しているように思えてならない。そういう感覚が日本は大きいんじゃないかなと。
―― なるほど。少し話を変えて、実写化に取り入れたテーマもあれば、捨てたものもありましたか?
萩原 はい。一番は、キャラクターそれぞれのバックグラウンド、例えば喰種捜査官の真戸呉緒(大泉洋)や亜門鋼太朗(鈴木伸之)のそれですね。そういうものを描いた方が「何が正しいのか」をより描けたでしょうが、限られた尺の中では取捨選択しました。カネキもそうで、カネキがどんな人間なのかを描く前にストーリーを進めていかなければならないので、そこは結構悩みましたね。
―― キャストを決めるとき、監督が特に起用したいと思ったのは?
萩原 (真戸役の)大泉洋さん。それはキャスティングの際、原作の石田スイ先生、プロデューサーとも意見が合致しました。リアリティーが持てるか不安だったので、真戸の髪色を原作通り白でいくかは迷ったんですが、大泉さんからも「白くしたい」と。結果、全然問題ありませんでしたし、まさしく真戸でしたね。
―― 石田スイ先生は、カネキを演じた窪田正孝さんへの評価がとても高いですよね。実写化が発表されたとき、「実写やるなら、(カネキは)この方がいいなと思っていた」とおっしゃっていたり。石田先生とは完成後何かお話されましたか?
萩原 はい。ジャパンプレミアのときに。作品については「いろいろ考えて結果的によかったです」とおっしゃっていて。窪田君のお芝居に関してはすごく喜ばれていました。窪田君は運動神経もメチャメチャよくて、亜門鋼太朗役の鈴木伸之君もアクションがよくできるので、二人のアクションシーンも苦労はなかったです。
―― トーカ役の清水富美加さんについてもお聞きしたいです。
萩原 彼女は、「選んでもらえたからには死ぬ気で頑張ります」と言っていたのが印象的でした。彼女、日常的な演技はとてもうまいですが、今回は普段やったことのない役だったのにもかかわらず、すごく一生懸命やってくれました。
―― マンガ的なキャラにどうリアリティーを出していくかは常に悩ましいところですが、私は、喰種の親子、笛口リョーコ(相田翔子)とヒナミ(桜田ひより)がハマり役だった印象があります。
萩原 そうですね。僕も、相田さんはほんわかした感じがあったので、演技を見て驚きました。
桜田さんも、本当にあの時期の彼女しかいない気がしました。僕は最初、ヒナミは小学生かと思っていたんですが、設定を確認したら14歳。桜田さんも撮影時は14歳で、大人と子どものちょうどいいころ合いというか。撮影が数カ月先だったら逃していただろうなと。この前ジャパンプレミアで会ったときにはもう大人でしたから(笑)。
―― 赫子(かぐね)のように作品に独特な要素を描くことに苦労はありましたか?
萩原 ただカッコイイでは意味がなくて、最初は気持ち悪いと思っていたものがだんだん美しく見えてくるように考えていく中で、結果的に行き着いたのは「気持ち悪さ7:美しさ3」でした。トーカは気持ち悪さではなく痛々しさをイメージしましたが。ネガティブな感情の中に美しいものを組み込んでいくようなバランスで考えれば成立するなと。
―― 原作ありの邦画で、ビジュアル的に成功しているものって私はそれほど多くないと思うんです。萩原監督の起用はストーリーや感情を描きつつ、ビジュアルでも表現できるバランスが評価されたのではないかと考えているのですが、実際にはどうでしたか? 自分なりの『東京喰種』を撮りたかったと思っていましたか?
萩原 いえ、そこは割と客観的でした。CMなどコマーシャルベースのものって、監督がやりたいことは二の次というか。クライアントのお題に答えつつ、どう自分が面白いと思えるものに仕立てていくか。今作もそうで、どうしたら自分がやりたいことと、作品を面白いと思っているファンの気持ちを合わせられるかを考えましたね。
映画って根本的には、みんな“見たことがないもの”を見たいと思うんです。僕も「こういうものを作りたい」みたいに踏襲するのは嫌で、「東京喰種でしかできないこと」がしたかった。原作のビジュアルのかっこよさを映像としてどう表現するか、ドラマとアクションをどう両立させていくか。自分に求められているものがあってそれを考えながらやりましたね。そういう意味では見たことがない、自分らしいものができたんじゃないかと。
スタッフもキャストも皆、『東京喰種』が大好きで、それをどう実写化として落とし込めるか、みんなが突き詰めて考えて作りました。そうした気持ちがすごく出ている映画だと思いますので、ぜひ見てほしいですね。
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