「描きたかったのは“見る”ことがどういうことか」 映画「東京喰種 トーキョーグール」萩原健太郎監督に聞いた

「“目”から始まって“目”で終わるように作った」という作品への思いを聞きました。

» 2017年08月01日 17時00分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]

 映画「東京喰種 トーキョーグール」が大ヒット公開中です。人間の姿をしながら人を喰らう“喰種(グール)”におびえる東京で、平凡な大学生・カネキ(窪田正孝)がリゼ(蒼井優)という女性と出会い、その運命を大きく変えていく――という物語。石田スイさんの人気漫画の実写化でメガホンを取った萩原健太郎監督に話を聞きました。

萩原健太郎監督 映画「東京喰種 トーキョーグール」萩原健太郎監督

―― 萩原監督は、ショートフィルムや企業CMなどで知られていますが、長編映画は今作が初ですよね。

萩原 そうです。ムービーというものは前後関係で成立するものなので、どんな尺でも撮り方自体は変わりませんが、長編はカットやシーンがより複雑ではありますね。だから、事前にコンセプトというか、作品の根底を貫くテーマを1つ考え抜くことにものすごく時間を掛けました。

東京喰種 カネキ (C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

―― 原作がある本作を映像化するにあたってどんなテーマを設定されたのですか?

萩原 “見る”ということがどういうことなのかを描きたいと思いました。

 僕は“見る”ということは“知る”ことだと考えています。でも、現実の世の中では相手の気持ちを知らなくても物事が進んでいくことが多いような気がしていて、僕はそれを見ていないのと一緒だと思うんです。

 カネキも普通の大学生で、本ばっかり読んでいて友人もヒデ(小笠原海)しかいないような人間で、世界を見ているようで見ていない。喰種に対してもそんな感覚で、自身が半喰種となり、喰種を見る中で彼らがただの化物ではなく、人間と同じように痛みを抱えていることを知り、ついには彼らのために立ちあがっていく。喰種になることでかえってより人間らしく成長していくストーリーにしたいという思いがありました。この作品は“目”から始まって“目”で終わるように作ったのですが、これにはそうした思いを込めています。

 実は、カネキが見ている世界も、半喰種になる前、人間だったころは色味を落とした彩度の低い画面にしています。彼にとって唯一の光であるヒデだけ少し色味があって。喰種になって赫眼(かぐがん)で街を見たときに、色づいていく。ただ映像としてカッコイイからとかではなくて、テーマに沿ったビジュアルを構築していきました。

神代利世 蒼井優 (C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

―― あんていくの店内が妙に白っぽく感じたのもそういうことなんですね。人は認識したものしか見ていないというお話は興味深いです。現代的というか都会的というか。

萩原 タイトルにも“東京”と入っているので、やっぱり海外の人はこれは東京を描いたものとして見ると思います。だから、“東京”の若者を描かないと成立しないなと。

 “見る”という先の文脈でいえば、それが東京、あるいは日本特有かといわれれば必ずしもそうではないかもしれません。ただ、僕が1つ思うのは、日本はほとんど日本人しかいなくて、共通の“何か”があるだろうという考えがありますよね。さらに、自分の意見をあまり言わず相手に感じ取ってもらいたい文化というか、そういうものが全て悪く作用しているように思えてならない。そういう感覚が日本は大きいんじゃないかなと。

―― なるほど。少し話を変えて、実写化に取り入れたテーマもあれば、捨てたものもありましたか?

萩原 はい。一番は、キャラクターそれぞれのバックグラウンド、例えば喰種捜査官の真戸呉緒(大泉洋)や亜門鋼太朗(鈴木伸之)のそれですね。そういうものを描いた方が「何が正しいのか」をより描けたでしょうが、限られた尺の中では取捨選択しました。カネキもそうで、カネキがどんな人間なのかを描く前にストーリーを進めていかなければならないので、そこは結構悩みましたね。

―― キャストを決めるとき、監督が特に起用したいと思ったのは?

萩原 (真戸役の)大泉洋さん。それはキャスティングの際、原作の石田スイ先生、プロデューサーとも意見が合致しました。リアリティーが持てるか不安だったので、真戸の髪色を原作通り白でいくかは迷ったんですが、大泉さんからも「白くしたい」と。結果、全然問題ありませんでしたし、まさしく真戸でしたね。

真戸呉緒 大泉洋 真戸呉緒(大泉洋) (C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

―― 石田スイ先生は、カネキを演じた窪田正孝さんへの評価がとても高いですよね。実写化が発表されたとき、「実写やるなら、(カネキは)この方がいいなと思っていた」とおっしゃっていたり。石田先生とは完成後何かお話されましたか?

萩原 はい。ジャパンプレミアのときに。作品については「いろいろ考えて結果的によかったです」とおっしゃっていて。窪田君のお芝居に関してはすごく喜ばれていました。窪田君は運動神経もメチャメチャよくて、亜門鋼太朗役の鈴木伸之君もアクションがよくできるので、二人のアクションシーンも苦労はなかったです。

トーカ 清水富美加 (C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

―― トーカ役の清水富美加さんについてもお聞きしたいです。

萩原 彼女は、「選んでもらえたからには死ぬ気で頑張ります」と言っていたのが印象的でした。彼女、日常的な演技はとてもうまいですが、今回は普段やったことのない役だったのにもかかわらず、すごく一生懸命やってくれました。

―― マンガ的なキャラにどうリアリティーを出していくかは常に悩ましいところですが、私は、喰種の親子、笛口リョーコ(相田翔子)とヒナミ(桜田ひより)がハマり役だった印象があります。

萩原 そうですね。僕も、相田さんはほんわかした感じがあったので、演技を見て驚きました。

 桜田さんも、本当にあの時期の彼女しかいない気がしました。僕は最初、ヒナミは小学生かと思っていたんですが、設定を確認したら14歳。桜田さんも撮影時は14歳で、大人と子どものちょうどいいころ合いというか。撮影が数カ月先だったら逃していただろうなと。この前ジャパンプレミアで会ったときにはもう大人でしたから(笑)。


笛口リョーコ 相田翔子 笛口リョーコ(相田翔子)
ヒナミ 桜田ひより ヒナミ(桜田ひより) (C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社


ヒナミ 桜田ひより (C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

―― 赫子(かぐね)のように作品に独特な要素を描くことに苦労はありましたか?

萩原 ただカッコイイでは意味がなくて、最初は気持ち悪いと思っていたものがだんだん美しく見えてくるように考えていく中で、結果的に行き着いたのは「気持ち悪さ7:美しさ3」でした。トーカは気持ち悪さではなく痛々しさをイメージしましたが。ネガティブな感情の中に美しいものを組み込んでいくようなバランスで考えれば成立するなと。

―― 原作ありの邦画で、ビジュアル的に成功しているものって私はそれほど多くないと思うんです。萩原監督の起用はストーリーや感情を描きつつ、ビジュアルでも表現できるバランスが評価されたのではないかと考えているのですが、実際にはどうでしたか? 自分なりの『東京喰種』を撮りたかったと思っていましたか?

萩原 いえ、そこは割と客観的でした。CMなどコマーシャルベースのものって、監督がやりたいことは二の次というか。クライアントのお題に答えつつ、どう自分が面白いと思えるものに仕立てていくか。今作もそうで、どうしたら自分がやりたいことと、作品を面白いと思っているファンの気持ちを合わせられるかを考えましたね。

 映画って根本的には、みんな“見たことがないもの”を見たいと思うんです。僕も「こういうものを作りたい」みたいに踏襲するのは嫌で、「東京喰種でしかできないこと」がしたかった。原作のビジュアルのかっこよさを映像としてどう表現するか、ドラマとアクションをどう両立させていくか。自分に求められているものがあってそれを考えながらやりましたね。そういう意味では見たことがない、自分らしいものができたんじゃないかと。

 スタッフもキャストも皆、『東京喰種』が大好きで、それをどう実写化として落とし込めるか、みんなが突き詰めて考えて作りました。そうした気持ちがすごく出ている映画だと思いますので、ぜひ見てほしいですね。

東京喰種 萩原健太郎監督

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/14/news033.jpg コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  2. /nl/articles/2502/11/news012.jpg 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  3. /nl/articles/2502/14/news121.jpg 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  4. /nl/articles/2502/14/news015.jpg 9歳で絵を描き始めた少年→18年後…… 大人になって描いた絵が「信じられない!!」「驚きすぎて息ができない」【海外】
  5. /nl/articles/2502/14/news188.jpg サイゼリヤ、メニュー改定で“大人気商品”消える 「ショック」悲しみの声……“代わりの商品”は評価割れる
  6. /nl/articles/2502/13/news035.jpg 家賃1万円台で暮らす夫婦、アルミ弁当箱につめる夕食は…… ジブリ映画のような温かい食卓に「幸せは、これなんよ」
  7. /nl/articles/2502/13/news156.jpg 「ひどい……」 ディズニーランド、人気グッズ発売日に人殺到で“地獄絵図” 「通勤ラッシュ並」「阿鼻叫喚」 完売で高額転売も
  8. /nl/articles/2502/14/news102.jpg 「デパ地下の味」 バレンタインでロッテ「青いガーナチョコ」に人気殺到…… 店では“売り切れ“、転売も続出
  9. /nl/articles/2502/14/news025.jpg 高校最後のお弁当、ふたを開けた“中身”が700万表示 胸がぎゅっとなる光景に「涙腺にきた」「おかあさーんっっっつ」
  10. /nl/articles/2502/14/news122.jpg 「あまりに平野紫耀×真剣佑」 “ハイブリッド顔”の21歳のアイドルが話題に 元メンバーはタイプロ出演中
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  2. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  3. 14歳のとき、親友の兄と付き合うことになった女性→13年後…… “まさかの結末”に「韓国ドラマみたい」【海外】
  4. リンゴを1年間、水の中で放置→顕微鏡で見てみたら…… 衝撃の実験結果に「これはすごい」「息をのみました」【海外】
  5. 海釣り中、黒猫に「ちょっと来い」と呼び出された釣り人 → 付いて行くと…… 運命のような保護から2年、飼い主に話を聞いた
  6. “駐車場2台分”の土地に、建築家の夫が家を建てたら…… “とんでもない空間”に驚き「すごい。流行る」
  7. 「なんだこの暗号は……」 マクドナルドの“大人だけが読めるメッセージ”が410万表示「懐かしい〜」「読める人同世代w」
  8. 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」 投稿者に話を聞いた
  9. ズボラ母が5人分サンドイッチを爆速で作ったら…… 目からウロコの時短テクと美しい仕上がりに「信じられない」
  10. 【今日の計算】「7−2×0+9」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議