あの「緊急事態宣言」から1年、コミックビームは生き残れたのか 編集長が語る、電子増刊『コミックビーム100』の狙い(3/4 ページ)

» 2017年10月14日 19時00分 公開
[池谷勇人, 大里ミチルねとらぼ]

寝ても覚めても漫画のこと考えているんだろうな

―― 奥村さんから見た本気さんはどんな人ですか。

奥村:あのね、すごく真面目に仕事してらっしゃっていて、本当に漫画が好きなんだろうなと。寝ても覚めても漫画のこと考えているんだろうなというのが分かる。だから岩井が本気さんに任せるっつったときも、あの人が好きにやってくれるんだったらありがてぇなっていう感じで「うん、いいよー」って。

―― 1人に全部任せるというのは、かなり思い切ったなと感じました。

奥村:けれど、本気さんはビームのこともよく知っていらっしゃるし、さっきも岩井が言っていたように、根っこのとこだけちゃんと分かっていてくれたらいいなと。

岩井:寝ても覚めても漫画のこと考えてるってのはその通りで、本気さんって、いろんな漫画家さんとつながりがあって、どこに載せるか分からない段階から打ち合わせをしてるって言うんですよ。普通そんな人いませんからね。


コミックビーム100 インタビュー

―― そういうものなんですか。

岩井:普通、漫画家や編集者って編集部にくっついていて、そこに載せるために打ち合わせするんですよ。でも本気さんの場合、「いや漫画家さんが連絡してきて」って。

本気:みんなこういうものじゃないんですか?

奥村:載せ先分からねえけど描くって漫画家もすげえなって思うよ。

本気:昨日も漫画家さんから連絡があって、電話で打ち合わせしてました。

岩井:でもそれ、どこに描くか決まってないんでしょ?

本気:決まってないです。出来上がってから決める。今やってるのもそういうのは多いですよ。もちろん通らないこともあるけど、うまくいく場合もやっぱりあって、それでなんとかやれているみたいな。

岩井:それは本気さんのこれまでのキャリアがあるからですよ。漫画家さんからも、媒体からも信頼されているからできる。

奥村:どこかほどよいところで載っけてくれるに違ぇねえという信頼感があるんでしょうなあ。

本気:でもダメだった時は本当に申し訳ないですよ。半年くらいかけて一銭にもならなかったり。今回載せる『反逆のオーバーズ』も結局、ネーム作るのに2年くらいかかりましたからね。


コミックビーム100 インタビュー 『反逆のオーバーズ』(山城良文)。特殊能力者同士の戦いにより崩壊し、統治局による「ヒーロー狩り」が行われるようになった世界で、ヒーローに憧れる少年の冒険を描く。『コミックビーム100』創刊号の巻頭作品

―― そういう漫画家さんとはどうやって知り合うんですか。

本気:例えば担当していた連載が終了したあとに、「この人とはもうちょっと付き合いたいな」ってなったり。あとは知り合いの作家さんとか、編集さんから紹介されたり。「うちではダメだったんですけど、本気さんの方でどうですか?」って。

奥村:分かる分かる。

岩井:漫画業界のトラブルシューターですよ。

本気:まあでも、雑誌じゃなくて編集に付いていく作家さんってけっこういますからね。

岩井:確かによくあります。奥村さんもぶっちゃけ、グランドチャンピオンのころからの作家さんが多い。

奥村:うん、腐れ縁ばっかり。

岩井:ただ、それってあくまでも編集が出版社に所属している場合で、本気さんみたいにどこにも所属していないのはやっぱり珍しいですよ。最近はフリーの漫画編集者もちらほら出てきているけど、本気さんはまさにその開拓者だったと思います。



ビームって作家なんですよ

―― 創刊号のラインアップの狙いは。

本気:狙いは「僕が面白いと思ったもの」です。当たり前ですけど、今のビームとか、奥村さんの作るような漫画は僕には作れないので、自分なりに他にはない面白い漫画を作るしかないなと。だから、これがビームかといわれるとちょっと困りますが、これもビームだと思ってください。


コミックビーム100 インタビュー 『反逆のオーバーズ』(山城良文)
コミックビーム100 インタビュー 『快傑蒸気探偵団 ANOTHER STORY 少年怪盗ル・ブレッド』(原作/麻宮騎亜・漫画/金村連)
コミックビーム100 インタビュー 『ちんちんケモケモ』(藤咲ユウ)


コミックビーム100 インタビュー 『ピカリちゃんはなかなかしなないっ!』(三部べべ)
コミックビーム100 インタビュー 『ワシとゆきさん』(青色イリコ)
コミックビーム100 インタビュー 『ソレまだとっとくの?』(ねむようこ)



岩井:ビームって作家なんですよ。作家性。

―― 作家性。

岩井:作家が描きたいと思うものを描かせる場所。編集者が「この作家すごいな」ってほれ込んで、作家さんは描きたいものを描く、それを一生懸命売っていく、というのがコミックビームのやり方なのかなと。奥村さんもまさに作家にほれるタイプですしね。本気さんもそこは理解してくれていて、その本気さんが「この人いいな」ってつれてきた作家さんが、力いっぱい描いてくれているのなら、それはやっぱりビームですよ。

本気:バラエティ豊かなのが一番いいだろう、というのは意識しました。作品ごとに見るとさすがにバラバラすぎるとは思ったんですが、校正紙があがってきて、まとめて読んでみたら「いいじゃん!」って。

岩井:あと再録なんですけど、桜玉吉さんの『読もう!コミックビーム』の四コマ(※)が、単行本未収録分から毎号2本ずつ載ります。

※読もう!コミックビーム:『週刊ファミ通』に掲載されているビームの宣伝四コマ。昨年スタートしたプレミアムサービスの「読もう!コミックビーム」とは別

コミックビーム100 インタビュー 『読もう!コミックビーム』(桜玉吉)

―― それはもうビームですよ(笑)。

岩井:やっぱりビームと何の関係もないのもなんだかなあ、ということで入れてみたら、本気さんが「これはビームですよ!」って(笑)。

本気:間違いなくビームですよ。

奥村:ちょっとしたマークみてえなもんだよな。

岩井:あとビーム本誌と比べたら、マンガ的に、絵がキレイな作家が多い(笑)。

本気:絵がキレイな作家さんにひかれるんですよ、僕。

岩井:ビーム本誌はいろいろだから。

奥村:うん、まあ、結果的にだけどな。

本気:あとは若干女性を意識しました。マーケティングとかはあんまり考えていないんですけど、うちの女性スタッフにはかなり見せました。

岩井:これもいろいろヒアリングしていて分かったんですが、例えば1巻無料、2巻からは買ってね、ってやった場合、男性読者はほとんど買ってくれないんだけど、女性は買ってくれるんですよ。なんでもかんでもってわけじゃないけど、ちゃんと試し読みをして、これは価値があると思ったら次はお金を払ってくれる。

―― そんな違いがあるんですか。

岩井:あとは本気さんのこれまでの漫画編集キャリアを振り返ったときに、麻宮騎亜さんの存在ってやっぱり大きかったんだろうなと。初めて担当した漫画が『快傑蒸気探偵団』ですし。

本気:そうですね。今回も真っ先に連絡しました。

岩井:そのスピンアウトを今回載せられるのは大きいなと思います。


コミックビーム100 インタビュー 原作/麻宮騎亜・漫画/金村連『快傑蒸気探偵団 ANOTHER STORY 少年怪盗ル・ブレッド』。創刊号では6ページの予告編を掲載

本気:麻宮さん本人が書くわけじゃないんですけどね。描かせてほしいんです、って言ったら「いいですよ、好きにしてください」っておっしゃってくれて。

岩井:だから、僕はキチンと思いのこもった100ページができたなと思っています。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」