あの「緊急事態宣言」から1年、コミックビームは生き残れたのか 編集長が語る、電子増刊『コミックビーム100』の狙い(3/4 ページ)
寝ても覚めても漫画のこと考えているんだろうな
―― 奥村さんから見た本気さんはどんな人ですか。
奥村:あのね、すごく真面目に仕事してらっしゃっていて、本当に漫画が好きなんだろうなと。寝ても覚めても漫画のこと考えているんだろうなというのが分かる。だから岩井が本気さんに任せるっつったときも、あの人が好きにやってくれるんだったらありがてぇなっていう感じで「うん、いいよー」って。
―― 1人に全部任せるというのは、かなり思い切ったなと感じました。
奥村:けれど、本気さんはビームのこともよく知っていらっしゃるし、さっきも岩井が言っていたように、根っこのとこだけちゃんと分かっていてくれたらいいなと。
岩井:寝ても覚めても漫画のこと考えてるってのはその通りで、本気さんって、いろんな漫画家さんとつながりがあって、どこに載せるか分からない段階から打ち合わせをしてるって言うんですよ。普通そんな人いませんからね。
―― そういうものなんですか。
岩井:普通、漫画家や編集者って編集部にくっついていて、そこに載せるために打ち合わせするんですよ。でも本気さんの場合、「いや漫画家さんが連絡してきて」って。
本気:みんなこういうものじゃないんですか?
奥村:載せ先分からねえけど描くって漫画家もすげえなって思うよ。
本気:昨日も漫画家さんから連絡があって、電話で打ち合わせしてました。
岩井:でもそれ、どこに描くか決まってないんでしょ?
本気:決まってないです。出来上がってから決める。今やってるのもそういうのは多いですよ。もちろん通らないこともあるけど、うまくいく場合もやっぱりあって、それでなんとかやれているみたいな。
岩井:それは本気さんのこれまでのキャリアがあるからですよ。漫画家さんからも、媒体からも信頼されているからできる。
奥村:どこかほどよいところで載っけてくれるに違ぇねえという信頼感があるんでしょうなあ。
本気:でもダメだった時は本当に申し訳ないですよ。半年くらいかけて一銭にもならなかったり。今回載せる『反逆のオーバーズ』も結局、ネーム作るのに2年くらいかかりましたからね。
―― そういう漫画家さんとはどうやって知り合うんですか。
本気:例えば担当していた連載が終了したあとに、「この人とはもうちょっと付き合いたいな」ってなったり。あとは知り合いの作家さんとか、編集さんから紹介されたり。「うちではダメだったんですけど、本気さんの方でどうですか?」って。
奥村:分かる分かる。
岩井:漫画業界のトラブルシューターですよ。
本気:まあでも、雑誌じゃなくて編集に付いていく作家さんってけっこういますからね。
岩井:確かによくあります。奥村さんもぶっちゃけ、グランドチャンピオンのころからの作家さんが多い。
奥村:うん、腐れ縁ばっかり。
岩井:ただ、それってあくまでも編集が出版社に所属している場合で、本気さんみたいにどこにも所属していないのはやっぱり珍しいですよ。最近はフリーの漫画編集者もちらほら出てきているけど、本気さんはまさにその開拓者だったと思います。
ビームって作家なんですよ
―― 創刊号のラインアップの狙いは。
本気:狙いは「僕が面白いと思ったもの」です。当たり前ですけど、今のビームとか、奥村さんの作るような漫画は僕には作れないので、自分なりに他にはない面白い漫画を作るしかないなと。だから、これがビームかといわれるとちょっと困りますが、これもビームだと思ってください。
岩井:ビームって作家なんですよ。作家性。
―― 作家性。
岩井:作家が描きたいと思うものを描かせる場所。編集者が「この作家すごいな」ってほれ込んで、作家さんは描きたいものを描く、それを一生懸命売っていく、というのがコミックビームのやり方なのかなと。奥村さんもまさに作家にほれるタイプですしね。本気さんもそこは理解してくれていて、その本気さんが「この人いいな」ってつれてきた作家さんが、力いっぱい描いてくれているのなら、それはやっぱりビームですよ。
本気:バラエティ豊かなのが一番いいだろう、というのは意識しました。作品ごとに見るとさすがにバラバラすぎるとは思ったんですが、校正紙があがってきて、まとめて読んでみたら「いいじゃん!」って。
岩井:あと再録なんですけど、桜玉吉さんの『読もう!コミックビーム』の四コマ(※)が、単行本未収録分から毎号2本ずつ載ります。
―― それはもうビームですよ(笑)。
岩井:やっぱりビームと何の関係もないのもなんだかなあ、ということで入れてみたら、本気さんが「これはビームですよ!」って(笑)。
本気:間違いなくビームですよ。
奥村:ちょっとしたマークみてえなもんだよな。
岩井:あとビーム本誌と比べたら、マンガ的に、絵がキレイな作家が多い(笑)。
本気:絵がキレイな作家さんにひかれるんですよ、僕。
岩井:ビーム本誌はいろいろだから。
奥村:うん、まあ、結果的にだけどな。
本気:あとは若干女性を意識しました。マーケティングとかはあんまり考えていないんですけど、うちの女性スタッフにはかなり見せました。
岩井:これもいろいろヒアリングしていて分かったんですが、例えば1巻無料、2巻からは買ってね、ってやった場合、男性読者はほとんど買ってくれないんだけど、女性は買ってくれるんですよ。なんでもかんでもってわけじゃないけど、ちゃんと試し読みをして、これは価値があると思ったら次はお金を払ってくれる。
―― そんな違いがあるんですか。
岩井:あとは本気さんのこれまでの漫画編集キャリアを振り返ったときに、麻宮騎亜さんの存在ってやっぱり大きかったんだろうなと。初めて担当した漫画が『快傑蒸気探偵団』ですし。
本気:そうですね。今回も真っ先に連絡しました。
岩井:そのスピンアウトを今回載せられるのは大きいなと思います。
本気:麻宮さん本人が書くわけじゃないんですけどね。描かせてほしいんです、って言ったら「いいですよ、好きにしてください」っておっしゃってくれて。
岩井:だから、僕はキチンと思いのこもった100ページができたなと思っています。
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