「来世で会いましょう」彼女は最後にそう言った―― ネトゲで起きたボーイミーツガールを描く漫画がせつない
最後のセリフを「来世で会いましょう」と決めた競作企画の1編。物語は多様な解釈ができますが、どうとらえても悲しい……。
『おじさんとマシュマロ』で知られる漫画家の音井れこ丸さんが、pixiv(「トイレ籠」名義)で実験的な作品「High Quality Smile」のネームを公開しました。オンラインゲームの世界で起きたボーイミーツガールを描く、せつない物語。
「俺はずっとだまされてた」「好きだったのに……」と、始まりは主人公の少年が現実世界で放った不穏な言葉から。そして舞台はネトゲの世界へ移り、少年がある女性型アバターと出会ったころの思い出が描かれます。
彼女は決して上手でもなく、口数も少ないプレイヤーでしたが、遊ぶ時間がかぶっていて一緒に遊ぶのが楽しく、少年は意気投合。彼自身は恋愛感情ではないと述べていますが、「プレイに有利だから」と言い訳めいた物言いで、ゲーム内で結婚までしています。
しかしある日、少年は気付いてしまいます。彼女がゲームの世界から抜けると必ず、引きこもり中の自分へ食事が届けられることに。彼女の正体は母親で、自分を更生させようとゲーム内で接触していた……? そんな疑念が湧き起こり、少年は落胆してしまいます。
ところが、真実はもっと別のところにありました。女性アバターの正体にして、食事を運んでいたのは、少年の幼なじみの少女だったのです。少年の母親は既に他界しているのですが、常にVRゴーグルを装着して仮想世界に没入している彼は、現実世界の状況をまるで把握しておらず、彼女を母親だと思い込んでいたのでした。
幼いころ、少年と一緒に写った写真を眺めながら、少女は再び仮想世界へ。「あんた、中身……母さんだろ」と少年に問いただされると、「もしそう思うなら、また来世で会いましょう」と答え、ただ空を見上げるのでした。
コメント欄には、仮想世界に浸るあまり、現実の声が届かない少年の姿に悲しむ声が多数。少年が母親の死を知らないのではなく、受け入れられなくて仮想世界に逃げているとの解釈も見られます。最後のせりふ「来世で会いましょう」についても、「既に亡くなった母親とは来世でしか会えない」「少女は少年に好意を抱いているけれど、仮想世界から戻ってこない彼とは今生では結ばれない」といった多様な解釈が生まれています。
同作は音井さんが漫画仲間と雑談中に提案した、「締めのセリフを『来世で会いましょう』にする縛りで漫画を描く」競作企画から生まれた1編。編集部が発想の原点を聞いたところ、参加した仲間にも楽しんでもらおうと、「オチのせりふが分かっていても読めない展開」を狙い、仮想現実をフィーチャーしたとのことです。既に母親が死んでいたという設定は、「来世」というどうしても死につながる言葉を使いながらも、死の瞬間は描きたくないとの思いから生まれたのだそうです。
競作には『あしあと探偵』の園田ゆりさん(関連記事)や、『ヤングチャンピオン烈』で『えっちすけっちわんたっち』を連載中の玉置勉強さんら8人が参加。おのおのが異なるシチュエーションの漫画を描き、「来世で会いましょう」で結んでいます。
(沓澤真二)
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